中国千人計画と日本学術会議の闇


月刊Hanada 2020年12月号から


 ■有閑サロン?の学術会議

 やぶ蛇とはまさに、このことを言うのではないか。日本学術会議をめぐる問題だ。
 「学問の自由の侵害」だとか「人事への不当な介入」だと政府を批判し、正当性をアピールして既得権益を守るつもりが、逆に行政改革の対象となり、自らの首を絞める展開となっていることである。
 その意味では、この問題を最初に報じた日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」はGood Jobだ。朝日や毎日新聞、立憲民主党など学術会議の肩を持つ面々も、自分たちが騒げば騒ぐほど学術会議の実態が白日の下に晒され、存続の危機に追い込まれることには気づかぬらしい。
 十月二十六日召集の臨時国会で野党はこの問題を取り上げ、政府を追及する姿勢という。
 ならば、問題の核心が、国民の生命と安全に関わる安全保障の問題につながりかねない点にあることを政府、与党は満天下に示すべきだ。過去に出された軍事技術への協力拒否をうたった声明の作成過程では、自衛隊が憲法違反であるという浮世離れした議論がまかり通っていた。
 欧米諸国のような先進民主主義国でも防衛当局と産業界が協力して先端技術を開発するのは当たり前のことだ。学術会議は、軍事研究を行わないとする一方で、海外から集めた先端技術の軍事利用を図る中国から多数の科学者を受け入れている事実には目を伏せたままだ。菅政権が行革対象に挙げたのは当然である。
 六人の任命を見送った理由を語るべきとの批判がある。だが、人事はどの組織においてもデリケートな案件だ。学術会議が推薦した105人のうち6人を菅義偉首相が任命しなかった理由について、詳細を語る必要はない。語ることによって、任命されなかった候補らの名誉が傷つけられても良いというなら別だが。
 ただ、政府も従来の形式的な任命からなぜ、このタイミングで方向転換したのか、その理由をもっと語る必要がある。国内外の環境変化についてどんな認識を持ち、いかなる理由で一律的だった従来の任命方法を変えたのかという点である。

 ■安保法反対論者も任命

 批判の中心は、任命されなかった六人が集団的自衛権の限定的行使を可能にする安全保障関連法案や、重大な機密を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案に反対したという点にある。
 菅首相は任命しなかった理由を明らかにしていないが、ここで留意したいのは、安保法反対派も任命されているという事実である。
 十月に学術会議の新会員に任命された九十九人のうち、少なくとも十人が安全保障関連法案に反対していたことが、産経新聞の調べで判明している(二〇二〇年十月八日付電子版)。一部野党は、安保関連法案など政府提出法案への反対が理由ではないかと批判しているが、その根拠は必ずしも当たらないことが、この事実からはっきりした。
 大事なことは、学術会議が根本的な部分で、どれだけ日本国民に背を向けているのか、政府、自民党が本当のことを明らかにすることだ。そうすれば、国民の多くはきっと理解してくれるはずだ。
 例えば、自国の防衛研究への協力を忌避する一方で、学術研究の軍事転用を図る中国の科学技術協会と協力促進を目的とした覚書を交わしている。この二重基準について、学術会議は国民にどう説明するのか。
 中国との協力関係によって他国の知的財産を奪い、軍事研究に結び付けることを狙う中国の頭脳狩り「千人計画」への日本人研究者の参加に結果的にお墨付きを与えることになっていないか。
 後述するが、自民党幹部の中には学術会議と千人計画の関係に警鐘を鳴らす向きもある。菅政権の取り組むべき優先課題の一つであろう。
 政府を批判する側には、「選べない任命」を強調する見解もある。内閣総理大臣を任命するのは天皇陛下だが、選ぶのは国会であって、拒否する権利はないという理屈だ。裁判官は内閣が任命するが、選ぶのは最高裁判所であって、内閣に拒否する権限はないという見方もある。
 ただ、国会議員は選挙の洗礼を受け、最高裁判所は司法試験や国家公務員試験といった国家資格を得た人物らが選んでいる。国家資格はともかく、学術会議は国民の審判を仰いだことがあるのか。選挙で選ばれたわけでもなく、どんな資格があって国民になり代わり、身内で都合のよい推薦を繰り返してきたのか。国会でおおいに議論したらよい。

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