イプシロン・デルタ論法

イプシロン論法の形の命題は数学のあらゆる場面で現れる.

$${A}$$を数直線$${\mathbb{R}}$$の区間, $${a\in A}$$を$${A}$$の内点とする. 内点という言葉がわからなければ$${a}$$を含む適当な開区間が$${A}$$に含まれると解釈してもよい.

関数$${f:A\to\mathbb{R}}$$が$${a}$$で連続であるとは, 任意の正の実数$${\varepsilon}$$に対して或る正の実数$${\delta}$$が存在して
$${|x-a|\lt\delta}$$
を満たす任意の$${x\in A}$$に対して
$${|f(x)-f(a)|\lt\varepsilon}$$
となることである.

つまり, $${x}$$と$${a}$$の距離が基準$${\delta}$$より小さければ$${f(x)}$$と$${f(a)}$$の距離が基準$${\varepsilon}$$より小さい, ということだが, 先に$${\delta}$$を決めると$${\varepsilon}$$を小さくできる保証がなくなるので, 先に任意に小さく$${\varepsilon}$$を決めてそれに応じて$${\delta}$$を定めるのである.

例えば$${A=(-1, 1), a=0, f(x)=x^2}$$としてみよう. $${|x^2-0|=|x|^2\lt 0.01}$$となるためには$${|x|\lt 0.1}$$であればよい. $${|x^2-0|=|x|^2\lt \varepsilon}$$であるためには$${|x|\lt\delta =\sqrt{\varepsilon}}$$であればよい. 

命題「任意の$${x}$$に対して或る$${y}$$が存在して$${P(x, y)}$$ならば$${Q(x, y)}$$」の否定は「或る$${x}$$が存在して$${y}$$をどのように取っても$${P(x, y)}$$でありながら$${Q(x, y)}$$ではない」であるので,

関数$${f:A\to\mathbb{R}}$$が$${a}$$で不連続であるとは, 或る正の実数$${\varepsilon}$$が存在して任意の正の実数$${\delta}$$に対して或る$${x\in A}$$が存在して
$${|x-a|\lt\delta}$$
かつ
$${|f(x)-f(a)|\ge\varepsilon}$$
となることである.

つまり, 或る基準$${\varepsilon}$$があって, 基準$${\delta}$$をどんなに小さく取っても$${|x-a|\lt\delta}$$を満たす$${x}$$で$${f(x)}$$と$${f(a)}$$の距離が或る$${\varepsilon}$$以上離れているような$${x}$$が存在することである.

例えば$${A=(-1, 1), a=0, f(x)=x^2\,(x\neq 0), f(0)=1}$$としてみよう. $${\delta\lt1}$$となる任意の$${\delta}$$に対して$${x=\delta/2}$$とすれば$${|x|\lt \delta}$$かつ三角不等式$${|p-q|\ge|p|-|q|}$$より$${|x^2-1|\ge 1-|x|^2\gt3/4}$$である. $${3/4}$$は$${\delta}$$に依存しない. ゆえにこの$${f}$$は$${0}$$で連続ではない.

数列の場合も考えてみよう. 実数列$${(a_n)}$$が実数$${a}$$に収束するとは, 任意の正の実数$${\varepsilon}$$に対して或る自然数$${N}$$が存在して
$${n\gt N}$$
を満たす任意の自然数$${n}$$に対して
$${|a_n-a|\lt\varepsilon}$$
となることである.

つまり$${a}$$の近くを任意に決めると十分大きな番号$${n}$$に対する$${a_n}$$は全てその近くにあるということである.

例えば, 数列$${(1/n)}$$は$${0}$$に収束する. $${|1/n-0|=1/n\lt\varepsilon}$$となるためには$${n\gt 1/\varepsilon}$$であればよいから$${N}$$を$${1/\varepsilon+1}$$の整数部分とすればよい.

実数列$${(a_n)}$$が実数$${a}$$に収束しないとは, 或る正の実数$${\varepsilon}$$が存在して任意の自然数$${N}$$に対して
$${n\gt N}$$
を満たす自然数$${n}$$で
$${|a_n-a|\ge\varepsilon}$$
となる$${n}$$が存在することである.

つまり$${N}$$をどれだけ大きく取ってもその先の或る$${n}$$に対して$${a_n}$$と$${a}$$の距離が離れている状況である.

例えば, 数列$${(1/n)}$$は$${1}$$には収束しない. 任意の$${N}$$に対して$${n=N+1\gt N}$$とすれば$${|1/n-1|\ge 0.5}$$となるからである.

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