【紙の本を読め】グノーシス文書 「真珠の歌」
私がまだ幼かった頃、私がまだ父の王国にいて、父の家に住んでいた頃、富と贅沢を楽しんでいた頃
祖国である東方から、両親は私に旅支度をさせ、送り出した。宝庫の富から、私の為に荷を作って下さった。大いなる、しかし軽い荷を。私が荷を一人で携えられるように拵えて下さった。上なる物の家の金、大いなる宝庫の銀、インド産の玉髄石、クーシャンの瑪瑙。そして両親は私をダイヤモンドで武装した。
そして両親は私が身に纏っていた、私を愛して造らせた光り輝く衣を、私の背丈に合わせて織らせた真紅の上衣を脱がせた。私は両親と約束をした。決して約束を忘れないように、両親は私の魂にそれを書き込んだ。
「お前がエジプトに下り、1個の真珠を持ち帰るならば、お前が脱いだ光り輝く衣と、その上に重ねる上衣を再び身に纏うことができるだろう。そしてお前の兄弟、第二王子と共に我らの王国にて、跡継ぎとなるだろう。真珠は海の中、荒々しく息巻く龍の側にある」
私は二人の従者と共に東方の故郷から旅立った
道は恐ろしく、険しかった。私はまだ幼く、経験に乏しかった。
当方の商人達の集合地マイシャンの境域を通り過ぎ、バベルの地に入り、サルブークの城門に辿り着いた。エジプトに入ると、二人の従者は私の元を離れた。私は龍の元へと進み、その棲家の近くに宿を取った。
龍が持つ真珠を奪う為、龍がまどろみ、眠るのを待ち続けた。
孤独だった。宿泊している他のどの客とも似つかない異邦人だった。そんな折、同郷の「生まれながらの自由人」に出会った。彼は優雅な美青年で貴族の息子であった。私は彼を話し相手とし、友とし、仲間と認めた。そして私の旅の目的を彼に話した。
私は彼に、エジプト人や不浄な者と仲良くしないようにと警告した。
私は自身の正体が露呈しないよう、不浄な者達と同じ衣服を着て身分を隠した。真珠を手に入れる為に。エジプト人達が私を疑い、龍を目覚ませることのないように
しかし、何らかのきっかけで彼らは私がエジプト人でないことに気が付いた。
彼らは私に策を持って近付き、私に彼らの食べ物を食べさせた。
私は自らが王子であったことを忘れ、彼らの王に仕えた。更に私は、自身の旅の目的、真珠のことを忘れてしまった。真珠を手に入れる為に両親が私を送り出したことをも忘れてしまった。
そして、私は彼らの食べ物の重さに耐えられず、深い眠りに陥ってしまった。
私の身に起こった全てのことに、両親は気が付いた。私のことを思って、彼らは嘆き悲しんだ。
そこで我々の両親は、全ての者に城門に集結するよう布告を出した。
パルティアの諸王と将軍たち。そして故郷の全ての諸侯は「私をエジプトに止まらせてはいけない」と、結論を出した。
彼らは私の為に手紙を書き、諸侯はそれに署名した
「お前の父、諸王の王。お前の母、東方の主から、第二王子、お前の兄弟から、エジプトにある我らの息子に安否を問う。立て、目覚めろ。我らの手紙の言葉に耳を傾けろ。そしてお前が王子であることを想起せよ。お前は奴隷ではない。お前が仕えている王の正体を想い起こせ。真珠を想い起こせ。金糸の衣を想い起こせ。真紅の上衣を想い起こせ。お前は真珠を飾り、あの衣を再び身に纏う為にそこにいるのだ。お前の名前は勇者の書に記されている。我々の王国で、お前の兄弟と共に、我々の世継ぎとなる存在なのだ」
その手紙は王が自らの右手で封印した。
邪悪なるバベルの子らと、サルブークの非情な悪霊から護る為に。
手紙は全ての鳥の王者、鷲の形となり空を飛んだ。
その鷲が私の前に降り立ち、その全てが言葉となった。その声と羽音で私は眠りから目覚め、再び立ち上がった。
私は手紙を手に取り、それに口付けをした。すると封印が解け、私はその手紙を読んだ
私の魂に刻み込まれた、両親としたあの約束と同じことが手紙には書かれていた。
私は全てを想起し、自分が何者なのかを思い出した。私は自由を求めていた。私は奴隷などではない。真珠のことを思い出した。私は真珠を手に入れる為にエジプトに遣わされたのだ。
私は荒々しく息を巻く、あの恐ろしい龍に呪文を掛け、龍を眠らせた。龍に向かって私の父の名と、第二王子の名、私の母、東方の主の名を唱えた。
私は龍から真珠を奪い、家に帰るため引き返した。
私は不浄な服を脱ぎ捨て、そこに残した。そして私はわが故郷、東方の光を目指して道を急いだ。
私は道すがら、あの手紙を何度も読んだ。それは私を奮い立たせた。手紙は音で私の目を覚まさせたように、光り輝き、私の道筋を照らしている。
歩く私の前に、絹製の布、赤いチョークで紋様が描かれた旗が現れることがあった。
その布のはためく音は私を励ました、その愛が私を導いた
私はサルブークを通り抜け、左手にバベルを見、商人達の港、大いなるマイシャン、海岸の街に辿り着いた。
そして、かつて私が身に付けていたあの光り輝く衣と真紅の上衣を。ヴァルカンの高原から、両親は調度係官を通して私の元に送り届けた。その誠実さ故に、調度係官は両親に信頼されている。
しかし、私は衣を受け取ってもそれが何かが分からなかった。その衣を父の家に置いてきた時、私はまだ幼子だったからだ。だが突然、その光り輝く衣が私と同じように、まるで鏡に映し出されたかのように、私と同じ姿になった。私はその鏡のような衣を見て、私自身を知覚した。我らは二つであるが、元々は同じ、一つであった。
側に控えていた調度係官も私と、その鏡を見て、二つが一つであったことを理解した。王の印が記してあったからだ
王は私に、調度係官を通して、宝と富と栄誉を返還した。光り輝く衣と共に。黄金と緑柱石と玉髄石と瑪瑙と、種々の色調に輝く赤縞瑪瑙で飾られていた。それらは高く浮き上がるよう、ダイヤモンドの留め金で縫い付けてあった。
そして、諸王の王の似像が高みに描かれていた。
サファイアの石が調和的に縫い付けられていた
さらに私はその衣の上に際限無くグノーシス(認識)が運動していることに気が付いた。それがロゴス(言葉)を発していることを見出した。私は衣が奏でる歌を聴いた。
「私(衣)は、全ての人間の中で最も勇敢なあの方の為のもの。この方の為に、彼らは私を父の前で養育した。そして私は自らの中に確認した。私の形が、その業によって成長することを」
そしてその衣が私の形に成長し、私の形に留まった。私の愛情が、私をも駆り立てた。私は手を伸ばし、その衣服を受け取った。私はそれを身に纏い、礼拝の門へと向かい、平和の国へ出向いた。
私は頭を下げ、私にこの衣を送って下さった。父の光輝に跪拝した。
私は父の命令を果たした。父もまた、約束を果たして下さった。
王宮の門で、私は父の諸侯達に加わった。
父はそれを大変喜び、私を家へと迎え入れて下さった
父の従者達は父を褒め称えた。彼らはオルガンの音と共に祝福の歌を歌った。
私は父と約束をした。王の門へと旅し、贈り物とあの真珠を持って、人々の前に王として現れることを
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