バロック音楽の実演を聴く「文化会館小ホールでアイソケンのロ短調パルティータ」2015年11月

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バッハの連続演奏の1回目。おそらく録音もするのでしょう。
今や録音してCDを作る価値がある数少ない曲集。一体全体何人の全曲CDがあることか。検索したら、バッハの聴き比べのサイトがあり、そこで見ると無伴奏バイオリンの全曲2枚がおよそ200種は出回っているらしいです。無伴奏チェロが150種くらい。驚きました。
曲の魅力もさることながら、この曲なら採算がとれる、そんな見込みがはたらくのでしょう。どうしてこの曲集だけが演奏者違いで何種類も所有する魅力を発するのでしょう。もっとも第九と違って演奏家一人で完成するのは有利でしょうけれど。
わたしでも、ポッジャー、フェルナンデス、イブラギモバと3種。いやバッハ弓のゲーラーもあった。ほかにザイラーとファウスト。わたしの目当てはロ短調パルティータです。各舞曲にかなり高度なドゥーブルがついています。ルネサンスの変奏曲の様式を受け継いでいるようにも、バイオリンのゴルトベルクのようにも聴こえますか。(シャコンヌが本来バイオリンのゴルトベルクでしょうけど)
ドゥーブルのテンポ設定にも演奏家によってかなり幅があります。バロックの演奏が多様化してもっとも面白く聴けるようになりました。このロ短調だけがあまり他の楽器に編曲されず、もっぱらバイオリンだけのレパートリにとどまっているのも興味深い。
アイソケンは確かイサーリスのロウブラザーだと記憶、違ったかしら。しかし当人のバイオリンは通常のモダン仕様だと思います。イサーリスのようにガット弦ではおそらくなく、ムローバやファウストのようにバロック弓というわけでもなさそう。訛のない楷書風の語り口はイブラギモバ寄りですか。
エネスコ作品は楽譜たててましたが、バッハは暗譜。ほぼ即興的な装飾はなし。ご本人プログラムにバッハは装飾を書き込んだ作曲家と指摘。リピートも可能なものは省いていたと思います。自信ないですが。ビブラートもかなり絞って重音のクリアーさは良好でした。
ト短調ソナタは不自由な小さめの印象。各地4公演きっと高品質なセルフコピーをしたのだろうと。ロ短調は少しパッションと訛が先行しましたが、まずまずよい着地かしら。それにしてもクーラントのドゥーブルは難しいのですねえ。
エネスコはバルトークのルーマニア民俗舞曲ノリの曲。のびのびとはしていましたが曲の性格で演奏は端正な方だと。
最後はシャコンヌ付きニ短調パルティータ。音の質量のスケール感が一回り大きく感じました。シャコンヌはきれいな重音で進み、キビキビとリズムを刻んで12分ちょっと。素晴らしい集中力でした。ですからアンコールは蛇足でした。ホ長調パルティータのプレリュードは集中力が切れてご愛嬌かしら。
もっとあなたの好きに弾けばよい、と思いました。他人と違うようにという回避行動的解釈は巡り巡ってしまうもので、自分の履歴や訛が埋没してしまう感じです。最近はみなバラエティの中村玉緒みたいにやってるのじゃないかしら。
最前列で聴きましたが、両隣が熱狂的なファンらしく、片側はスマホ相手に独白しつつ、演奏中もハミングをこらえるのに精一杯、シャコンヌが終わると我慢が切れて残響を掻き消すブラボー砲。ヤレヤレ。反対側は太った批評家風、後部座席の後援会風のグループに雑音をたてないよう口うるさく、その割には休憩時間立ったり座ったり落ち着かずシートの開閉音が煩い人でした。もっとも両隣から見たら当方は演奏中ずっとkindleをつけて失礼な客と映ったはず。


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