2011、2012年、ソロ協奏曲は6曲が7曲に、8曲に

2012年3月23日、ギエルミの最新盤「ガンバ協奏曲集、またはバーバリアン・ビューティ」が届き、確認したところ初録音のグラウンの協奏曲は「ニ短調」でした。(読み違いかもしれませんが、ダルムシュタットのコレクションからのよう?)そうするとソロ協奏曲は8曲説が現実味かしら。アカデミアのサイトにあったのは、「ハ長調」だったので、締めて7曲に。パンドルフォとかアルカイあたりがグロッサでいきなり全集とか、いうわけにはいきませんか。2003年が生誕300年、2021年が没後250年。あと9年待たされるのでしょうか。「一人グラウン協会」でも立ち上げますか。

ニ短調(ギエルミ2010録音)+スオナール・パルランテ

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2012年3月3日、2012年はフリードリヒ大王生誕300年の年。ベルリン古楽アカデミーが記念盤を出しました。
グラウンのガンバ協奏曲イ短調のふたつ目の録音が収録されました。ヤン・フライハイトというガンバ奏者がソロを担当しました。ちょっと渋い演奏ですが、歓迎です。アルバム全体もよい構成で楽しめます。

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・J.P.グラウン:序曲とアレグロ ニ短調
・ニシェルマン:チェンバロのための協奏曲ハ短調
・フリードリヒ2世:フルートと通奏低音のためのソナタ ハ短調『ポツダムのために』
・グラウン:ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ イ短調→これがガンバ協奏曲の間違い。
・C.P.E.バッハ:シンフォニア ト長調 Wq.173

無憂宮というわりには、いやそれだからか、センチな音楽が好まれたのですね。マンハイム楽派やハイドンになると短調が全滅していきますから、散りゆく短調をめでる感傷的な音楽のオンパレードです。歳とったルイ14世がリュリの音楽を聴いて自分好みの音楽だといったらしいエピソードがありましたが、リュリの統一感を考えると、狭い範囲の聴き手のために作られた曲が、すべて似た雰囲気になるのも理解できます。最重要な聴き手が、演奏も作曲もできる大王ですから、親しみやすく明るい曲ばかりでは却って飽きられてしまったのかも。「フレデリキアン」なのだそう。CPEバッハのト長調のシンフォニアはやはりフレデリックな名曲です。

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2011年5月11日

ヨハン・ゴットリープ・グラウン (1703-1771)のガンバ協奏曲が大変気に入っています。どなたか2晩くらいで全曲演奏にチャレンジしてくれないものでしょうか。

グラウンは、ピゼンデルにトレーニング受けました。1740年にフリードリヒ大王のコンマスに、もちろんバイオリン奏者としてです。兄弟カール・ハインリヒは当時有名な「キリストの死」の作曲者。

ガンバ協奏曲は、6曲あるといわれます。
イ短調(ギエルミ)+リモージュ・バロック
イ長調(ギエルミ)+ウイーン・アカデミー
イ長調(ギエルミ)+ガルデリーノ
ニ長調(パンク)+ベルリン古楽アカデミー
ト長調(パール)+アンサンブル・サンスーシ
バイオリンとガンバの二重協奏曲イ短調(コリャール&コワン)
その中に含まれているかいないのか下記があります。
ガンバが参加する合奏協奏曲(フルート、バイオリン、ガンバのコンチェルティノ付)

これですべて出揃ったのか全くわかりません。確か2008年に作品目録がでたようなので確認してみたいものです。
これらの協奏曲は、テレマンやプファイファーの系譜を継ぐもので、ビバルディスタイル(後期バロックのスタイルか)からウイーンスタイル(ハイドンなどの疾風怒濤スタイルか)に発展する間の様式です。もちろん旋律重視なのですが、グラウンとCPEバッハを聞くとむしろその時代の多様性が垣間聴ける、という印象です。
グラウンのそれは、グランドスタイルのビルトーゾ協奏曲で、ソロは多彩な重音が使われ、その他の難易度の高い技巧が駆使されています。演奏には熟達したプロの技術が求められます。
ニ長調協奏曲の解説では、1750年ころ、グラウンがベルリンで最も充実した頃の作品とあります。2テーマのソナタ形式に近く、最初期のドイツロマンティシズムの弦楽器によるラプソディクカンタビレともいえる輝きを放ちます。
フリードリヒ大王は、ルートビヒ・クリスティアン・ヘッセというガンバの名手と、JBAフォルクレをそばに置いて、ガンバを学習したらしいですが、後にギブアップしチェロに転向します。グラウンの周辺にガンバの名手がいたらしいことがわかりますが、直接交流があったかどうかは書かれていません。いまのところヘッセの曲は聞いたことがありません。また別な名人アーベルの曲を聴くと技巧的可能性は考えられます。

グラウンの協奏曲演奏は、ビットリオ・ギエルミが最も多く録音しています。かれは、ミシェル・コリション(確かベルトラン、ノルマンの師匠筋)の素晴らしい楽器(イ短調盤に解説あり)を使用しています。かれは弓をとばすスピカート(?)を多用するらしい。ビルトーゾらしい速弾きに適しているらしい。日本人の演奏家の一部は、その技巧に驚きつつもマレなどには「いかがなものか」発言をしています。さらに若い演奏家にその真似をするのが増え「いかがなものか」と。
しかしながら、わたしはあと5、6年したらさらに若い演奏家たちが、そうした技巧を軽々と乗り越えつつ、マレもグラウンも立派に表現できるようになると思います。「椿三十郎」じゃないけれど「(弓)先でも根元でも、いいじゃねえか」説得力があれば、という風に。

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2011年5月11日

グラウンの弦楽器のための協奏曲集 / イリア・コロル(Vn、Va )モダンタイムス1800

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18世紀ど真ん中のグラウン。ドレスデンやベルリンの宮廷で活躍。最近作品番号が整理され、[GraunWV]がつきました(GWVはグラウプナーのものらしい)。タルティーニの影響があるらしい。
閃きのある職人の仕事集です。協奏曲書きとしては、クヴァンツやCPEバッハよりはるかに上手と思います。音楽一家の中ですくすく育ったらしい、だから19世紀的面白エピソードは皆無です。
例えば、中央アジアの民族部族の相違を表わす装飾具など、無名のしかし「族」の歴史が面々と刻まれた記憶を表わします。そうしたものはどれも個人は埋没していますが、ある「族」を明確に表わします。グラウンの協奏曲はその「族」性が強烈だと思います。最高のドイツハムのような?とでも。無名な個人個人の努力によって封印された「族」の伝統を、最近はしっかり芸術の中に読解しようとする研究も進んでいるので----弟のオラトリオがロングランなのも頷けるような----。

さて、中の解説を斜め読みすると、こんな感じのことかしら?が書かれているみたいです。

Concerto
バイオリン独奏 for solo violin, 2 oboes, strings & continuo in C minor, GraunWV C:XIII:68
2つのバイオリン for 2 solo violins, 2 horns, strings, (2 oboes) & continuo in G major, GraunWV C:XIII:84
バイオリン独奏 for violin, strings & continuo in A major (by Grauel)
2つのバイオリン for 2 solo violins, 2 horns, strings & continuo in F major, GraunWV Av:XIII:31
ビオラ独奏 for solo viola, strings & continuo in E flat major, GraunWV Cv:XIII:116

11のイタリア語カンタータ、数曲の歌曲、ミサ曲、イタリア語の受難曲、教会カンタータが確認されています。対して器楽は270曲、序曲(組曲)、シンフォニー(交響曲?)、四重奏、トリオ、管楽器のための協奏曲。バイオリンのために素晴らしいソロソナタと協奏曲があり、83曲のソロ協奏曲、ダブル協奏曲、その他の楽器との協奏交響曲(サンフォニ・コンチェルタンテ?)。ソロ協奏曲の1割は失われたとされています。バイオリンのビルトーゾから、たくさん「グラウニアン」な作品が生まれました。フランツとカール・ベンダやゲオルク・チャート?などの若きベルリン作曲家に影響を与えました。北部と中央部のドイツの宮廷オーケストラでは、スタンダードになりました。このCDでも「グラウニアン」の好例かもしれないマルクス・ハインリヒ・グラウエルの協奏曲を収録しました。
2曲の2バイオリン協奏曲は、プロイセン宮廷カペルマイスター時代の成熟した作品です。1730年頃のタルティーニのスタイルを洗練させたものです。序奏の規模も拡大し、多彩なモチーフと、旋律の主題のアイデア展開などを発展させました。収録の変ホ長調は合奏協奏曲の色合いを残し、対するヘ長調は第3楽章ではサプライズ休止などもある明朗でユーモラスな形式です。
「ビオラ協奏曲」は2曲書きました。変ホ長調協奏曲は成熟したこの楽器の肖像ともいえる作品になっています。豊かな発想と表現力のマニフェストのようです。ソロバイオリン協奏曲では、ビルトゥオジティと対位法の融合に努力しました。

ガンバ協奏曲の再発見は大変な驚異でしたが、他の楽曲も魅力的です。さすがホリガーが早期(1978年録音)にオーボエ協奏曲を録音していますが、弦楽器ものは遅く来た感があります。ドレスデン宮廷から、ベルリン宮廷に至る北方のバロックと初期古典は、やはり辺境なのかミッシングリンクみたいに。バッハの子供たちもバイオリン協奏曲は多くないですし、20世紀の古楽演奏の発展も管楽器が先行した様相ですし。バッハとモーツァルトの間に見落としたたくさんの個性的な華があったのですね。そういえばマンハイム宮廷なんて、昔はニセモーツァルトとか田舎モーツァルトとかいわれました。「やはりモーツァルトの洗練はないよね」みたいな。確かにモーツァルトのは、いささか抜きんでているかもしれません。シュポアの方がすごいとは、まあ誰もいわないでしょうけれど。タルティーニ以降の×××ーニ系作曲家は忘れられ、次はパガニーニ?かしら、ですし。とはいえ、グラウンのガンバ協奏曲群は、協奏曲史と、ガンバ史の交錯点として大切。


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