圧巻驚倒のアリア

やはりきちっとした歌手しかグラウンのオペラアリアは採りあげていません。古くはソプラノはサザランドあたり、アルトはコバルスキあたり。サザランドの参加した「モンテズマ」のハイライトが1966年ボニング指揮。全曲はゴリツキが1991年。このときのソプラノ、エンカルナシオン・バスケスは、以前黒沼ユリ子さんが帯同されてました。
フリードリヒ大王治下のベルリンシュターツオパーの杮落し「クレオパトラとチェーザレ」に関しては興味深いブログ記事がありました。


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とにかく幕開きから飛ばしまくり。どんな楽譜なのかしら。
ケルメスよりジェノーの発声に近いかしら。
息が長く上ずった感じが全くなく、低めの太い声がよく響き、雄叫びも溜め息も声で冴えた演技をし、メッサディヴォーチェもポルタメントも自然、本当に鈴が鳴るよう、カデンツもキレキレ、まことに「ギャラント」の極みです。そして不思議ですが素直な「彼女の声」に聴こえます。
(「アジリタ」が素晴らしいと書いてよいかどうか?もう少し調べてみたいと思います)
何より器楽の手本として倣うべき声楽があった、というのはこの時代ではこうした歌のことだったのだ----とそういわれたら反論できません。ヨハン・ゴットリープの協奏曲が、きちっと楽器の語法と楽曲の様式を踏まえてビルトーゾ全開に作曲しているのは、本当に成熟した「手本として倣」った結果だと聴こえます。
「イエスの死」にはこんな歌はなかったと記憶してます。オペラは「モンテスマ」と「シーザーとクレオパトラ」くらいしか録音されていませんでした。こんな宝がまだ眠っていたとは。
確かにハッセあたりに似ているかとは感じますが、ヘンデルとは明らかに違う、グルックでもない、極めつけの技巧はマンネリなはずなのに耳が離せません。

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カール・ハインリヒ・グラウンのオペラ・アリア集
ユリア・レージネヴァ
ミハイル・アントネンコ指揮コンチェルト・ケルン

カール・ハインリヒ・グラウンはハッセと同時期のドイツの作曲家。1714年、兄のヨハン・ゴットリープにつづいてドレスデンの十字架教会合唱団に加わります。1725年、グラウンはブラウンシュヴァイク・ヴォルフェンビュッテル大公のアウグスト・ヴィルヘルムの宮廷でテナー歌手としてキャリアをスタートさせ、歌唱の他に作曲も職務として課され、1735年までに6つのオペラを作曲。その他オラトリオなどの宗教作品も含めて精力的に作曲活動に取り組み、ハッセの作品と並んで広く知られるようになります。1740年にフリードリヒ2世がプロイセン王に即位すると、グラウンは宮廷楽長の地位を与えられ、宮廷楽団の統率、王立ベルリン歌劇場のためのオペラの作曲および上演が課せられ、20~30曲のオペラを作曲しました。また受難オラトリオ『イエスの死』は、バッハの『マタイ受難曲』がメンデルスゾーンにより蘇演されるまで、ドイツでは受難節に広く一般的に演奏されたオラトリオでした。
後期バロック音楽から古典派音楽への過渡期に活躍し、その作風にはギャラント様式による繊細な表現、旋律美の追究など、18世紀中ごろのドイツにおける新しい音楽思潮が反映されています。
ロシア出身の新星ソプラノ、ユリア・レージネヴァは、現在ではほとんど演奏される機会のないグラウンの歌劇に新しい息吹を吹き込んでいます。1曲を除き11曲が世界初録音。

1. 歌劇『オルフェオ』より「Sento una pena」
2. 歌劇『アウリスのイフィゲニア』より「Sforzero d'avverso mare」
3. 歌劇『コリオラーノ』より「Senza di te, mio bene」
4. 歌劇『アルミーダ』より「La gloria t'invita」
5. 歌劇『ミトリダーテ』より「Piangete, o mesti lumi」
6. 歌劇『チラ』より「Parmi, ah no! Pur troppo, o Dio!」
7. 歌劇『ロデリンダ』よりシンフォニア
8. 歌劇『オルフェオ』より「Il mar s'inalza e freme」
9. 歌劇『オルフェオ』より「D'ogni aura al mormorar」
10. 歌劇『チラ』より「No, no di Libia fra l'arene」
11. 歌劇『アルミーダ』より「A tanti pianti miei」
12. 歌劇『ブリタニコ』より「Mi paventi il figlio indegno」
ユリア・レージネヴァ(ソプラノ)
コンチェルト・ケルン、ミハイル・アントネンコ指揮
録音時期:2016年9月 録音場所:ケルン、ドイツ放送室内楽ザール

バルトリは「Sacrificium」でグラウンをポルポラ、レオ、アライア、ヴィンチ、カルダーラと組み合わせていました。すべて世界初CD。ボーナスCDでブロスキ、ヘンデル、ジャコメリをアンコール。グラウンだけのアリア集は初かもしれません。
12曲目の「ブリタニコ」のアリアはメゾのヘレンベルイが先行して「初」。「アグリッピナ」というタイトルで、グラウンのほか、ヘンデル、ペルティ、ポルポラを集めていました。
カストラートの歌唱法の研究が進んだ印象なのですが、カストラートは確かフランスでは好まれずイタリア、ドイツ、イギリスで活躍の場が広がったはず。前古典期のベルリンにカール・ハインリヒがカストラートをスカウトし、フランスからヘッセがガンバを持ち込み、そこには器楽ヨハン・ゴットリープ、声楽カール・ハインリヒのグラウン兄弟がいた、わけです。すごい!
そして、このプロフェッショナルでギャラントな交差点は、20年ほど前から徐々に再現が試みられている、なかなかリアルタイムな現場のようです。楽しみが増えました。

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