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音楽の感想 音が届くのを待つ

11月11日、北鎌倉円覚寺の方丈で内田輝氏のクラビコードを聴きました。
鎌倉の様々な場で展示などを催す主催者によるコンサート。普段は座禅会場になる大方丈で、聴衆30人。
当節は、チラシもありません。
プログラムもありません。
もはや、クラシックコンサートとは思えません。
それでも、6000円30名2回。
もっともわたしも、Instagramの発信だけで関心を持ち、出かけました。
曲目もわからず、ただクラビコードというだけで。
よくよく思い出してみても、演奏者のオリジナル作品だけの演奏会は、ほぼ初めてといえそう。

写経場で呈茶のサービスがあり、庭を眺めながら調律が整うのを待ちます。

最初の曲。「もーじゅ」波の意味とのこと。
湾曲式ソプラノサックスと思われる管楽器と清水檜舞台材クラビコードで。耳鳴りのような音が、建物周縁の様々な音を際立たせます。
次の曲は、ソロで。10世紀ころ現在のスペイン、サンチャゴデコンボステラの古い歌による即興的バリエーション。なんとなく「ロムアルメ」風な旋律が、ときにケルト風、ときにジャズ風。

休憩。畳の間に座布団だけ。演奏中も足を崩してよいし、移動してもよい、内田氏より。そういわれても楽器のボリュームが限定されているので、畢竟みな緊張して畏まって聴きます。
楽器は2種。ベルリンのミートケのように「黒白」があります。畳に低く置き、胡坐で弾くので、楽器の底からの音は畳が吸ってしまいそう。

休憩後は、黒い神代杉の楽器で。
小さな音が届くのを待ってほしい、と内田氏。ハンマーに皮でなく布まいて弱音化しています。14世紀ヨーロッパから記録を辿ると、意図的に弱音化されたと解釈しました。僧院の廊下で扉越しに天上の音楽を聴いたという逸話があるようです。キリスト教文化の楽器に仏教文化の材質で相対する意思があります。1年1台製作して、残していきたい。

3曲目。「しずく」ぽたぽたと、しかし水琴窟のような。ときに宮城道雄様にも。そのままメディテラネな響きに感じるバッハアレンジ。サックスは「オフィチウム」のときのガルバレク風な印象です。ふたつの音の大きさの差異は実はあまり気になりませんでした。わたし自身は精細に聴き漏らすまいと考えず座っていました。

4曲目。「あにゅらす(ラテン語の円環の意)」円をテーマにした作品。残念ながらあまり印象に残っていません。
最後の曲。「シルクロード」。清水奉納の作品とのこと。失礼な想像かもしれませんが、情熱大陸風かしら。

演奏会場のチラシ掲示コーナーで、興味のままにチラシを抜き取り、今でも大事にファイルしてあるものもあります。そんな時代から演奏会場に通うようになり、時が流れインターネットで海外の演奏会を予約し、コロナ下ではネットで配信される演奏家のメッセージを受け取り。このふた月は、生身の人と楽器に久々臨場し、再生された録音とは違うリアルな場と音に驚きました。
きちんと自分の五感が総動員される場や時が、時間を作り費用を捻出して出かける価値があるものになっているようです。


円覚寺方丈


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