笑うバロック展(112) 娘たちよ、よりよく生きよ「ピエタ」

ビバルディの検索をしていたら、こんな小説がヒットしました。参考文献を見る限りかなり調べて書いています。ちょっとビバルディがバイオリンに狂っていてそのほかのことが眼中にない音楽バカとして描かれています。もう少し生臭さがあってもいいような気もしたのですが、ポプラ社の若者向けの規定があったのかしら。それでも、ビバルディの失われた楽譜を探すミステリとしては、なかなか良くできています。読後感はさわやか。「レストロ・アルモニコ(調和の幻想)」が聴きたくなりました。
ただ音楽に関する描写は今一つかしら。あとカーニバルの賑わいの風景もいまひとつ、印象に残りません。さすがに須賀敦子のようにとはいかないにしても、もう少し描きようがあるような。
でもこうした試みはカッコイイなあ。「めぐり逢う朝」のビバルディ版です。映画「めぐり逢う朝」のあと、映画「カストラート」で描かれたヘンデル像が、バロック的でないと感じた人もいます。特にファリネリが語るヘンデルのアリアや作曲家のイメージはもっと後の時代のものかと思われます。
ビバルディは、よく聴くとセンチなメロディに溢れ、ハッとするようなハーモニーも聴こえます。なんというか演奏する人に「まだやれることがありそうだ」と思わせるところがあります。「四季」などまだ何かでそうです。
主人公がカナレットと海からベネチアを見物するシーンは、なかなか感動的です。舟を漕ぐような序奏のオーボエ協奏曲が似合いそう。

本気でビバルディを演奏した名人のひとりの微笑ましいCDジャケット。

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そういえば、こんな映画も思い出しました。音楽といっしょに。

スカルパというベネチア生まれの作家が「スターバト・マーテル」という小説を書いています。彼は本当にビバルディの活躍したピエタで生まれたそう。そして2000年代に4、5点のビバルディにまつわる創作が登場したこと。そして演奏に関してビバルディを「本気」で演奏するものが現れたことを綴っています。「バッハに向ける敬意のひとかけらでもビバルディに向ければ」全くその通り。さらにいえばバッハがビバルディに向けた畏敬のひとかけらでも、と言い換えても言い過ぎではありますまい。

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