(2017年1月)福岡の素晴らしいルソン解説 アルファベット、フランス語式ラテン語発音について

こんなに詳しい解説があるのならもっと早く知りたかったです。
2006年4月に行われたコンサート。プログラムは下記です。

第1部
グレゴリオ聖歌及びフォーブルドン交唱、詩篇68
シャルパンティエ  水曜日第1のルソン:何ゆえ一人で座っているのか
シャルパンティエ  答唱1:オリーブ山で
シャルパンティエ  水曜日第3のルソン:敵は手を伸ばし
グレゴリオ聖歌   答唱3:ああ、我々は見た
第2部
P・D=フィリドール  組曲作品1より
シャルパンティエ  木曜日第2のルソン:幼子は母に言う
シャルパンティエ  答唱2:神殿の幕は引き裂かれ
シャルパンティエ  金曜日第3のルソン:主よ、目を留めてください
グレゴリオ聖歌   答唱3:乙女のように喪に服せ
シャルパンティエ  詩篇:主よ、私を哀れんでください ミゼレーレ

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*アルファベットによる詩
新共同訳聖書には哀歌の第1 篇から第4 篇までの冒頭に「アルファベットによる詩」という説明書きが付されています。この内第1.2.4 編は22 節、第3 篇は22×3 の66 節からできています。これはもともとこれらの詩がヘブライ語で書かれたとき、それぞれの節の最初のアルファベットが、1節はA、2 節はB で始まるように書かれたいろは歌だったからです。そしてヘブライ語のアルファベットは22 文字からなっています。第3 篇は1 節から3 節までがA、4 節から6 節までがB のように、それぞれ3 節ずつあることから3 倍の66 節になっています。これらの詩がラテン語に訳されたとき、当然のこととしてラテン語では「アルファベットによる詩」にはなりません。そこでルソンの歌詞では、各節の冒頭にヘブライ語のアルファベットのみが置かれます。次に、参考までにアルファベットのAからD までの読み方を英語、ヘブライ語、ギリシャ語で表にしています。

英語  ヘブライ語  ギリシャ語
エー[A]  アレプ[aleph]  アルファ[alpha]
ビー[B]  ベートゥ[beth]  ベータ[beta]
シー[C]  ギメル[ghimel]  ガンマ[gamma]
ディー[D]  ダレトゥ[daleth]  デルタ[delta]
第3篇にあたる聖金曜日(フランスでは聖木曜日)の第3 ルソンでは、アレプ[aleph]が3 回繰り返されます。
*フランス語式ラテン語発音について
カトリック系の宗教曲といえば、大半がラテン語ということになります。20 世紀以降クラシック音楽の世界では、ラテン語の発音はイタリア語式に統一されてきました。しかし近年、特に古楽界において、この点について疑問が投げかけられています。そもそもラテン語は、古代ローマ時代、共通語として使われていましたが、ローマ帝国崩壊以後は、論文や書簡などに使用される書き言葉として、そして教会の典礼式の際に使用される言葉としてのみ生き残ることになりました。このため、教会内でのラテン語の発音は、各地域のそれぞれの言語によっていました。19 世紀後半、教会内でのラテン語の発音を、イタリア語式に統一する動きが起こり、20 世紀初頭にはこのことが強く推奨されるようになります。
しかし、1962-65 年の第2 回バチカン公会議により、ラテン語の使用じたいが強制ではなくなり、現在では典礼式は各地域の言語で行われています。結局ラテン語の発音をイタリア語式に統一するというしきたりは音楽の世界のみで生き残ったわけです。
以上の点からもわかるように、少なくとも19 世紀以前には、イタリア以外の国で、ラテン語をイタリア語式で発音するという価値観は存在していませんでした。つまり、フランスではフランス語式、ドイツではドイツ語式という具合です。フランスバロック時代の音楽を演奏するとき、ラテン語の歌詞をフランス語式で発音することは、歴史的演奏解釈においても、よりフランス的な音楽を作る上でも不可欠なことです。今回のコンサートでは、フランス国内では近年一般的になりましたが、日本ではあまり知られていないフランス語式発音を使用します。以下に従来のイタリア語式とフランス語式
の発音の違いを、いくつかの単語を例に挙げてみます。ここではあまり好ましいとはいえませんが、多くの方に理解していただくため、発音記号ではなく、カタカナで示します。

ラテン語  イタリア語発音   フランス語発音
incipit  インチピットゥ   アンシピットゥ
oratio  オラチオ   オラシオ
Jeremiae  イェレミエ   ジェレミエ
lamentatio  ラメンタチオ   ラマンタシオ
nostrum  ノストゥルム   ノストゥロン
Jerusalem  イェルーザレム   ジェリューザレム
Deum  デーウム   デーオン

1.交唱及び詩篇68(69):グレゴリオ聖歌及びフォーブルドン
実際にはダビデの作ではなく、紀元前5 世紀ごろの名の知られていない詩人の手によるものと思われます。なお、現在の聖書ではこの詩は第69 篇ですが、ウルガタ訳聖書では第68 篇となっています。交唱も同詩の10 節によるテキスト。(Flex)は節ごとに繰り返される部分。詩篇は16-17 世紀には、各節の後半部分に和声を即興的に加える方式(フォーブルドン)が採用されていました。今回はシャルパンティエの時代の方式に則ったフォーブルドン(作:岩田耕作)を加えて演奏します。

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