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笑うバロック展(106) 「乞食オペラ」の歴史(2021年3月更新)

クリスティの意外な新作は「乞食オペラ」でした。日本でも数年おきにミュージカル上演されています。

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2018年にパリのブッフ・デュ・ノール劇場でプレミエを迎えた、オペラ界の異才ロバート・カーセンの新演出による本上演は、舞台を現代に置き換え、段ボール箱の山を積み木のように並び替えて舞台装置とするという奇抜なもの。女たらしでイケメンのお尋ね者、マックヒースを中心にロンドンの下層社会に棲息するならず者、娼婦、腐敗した警察官が登場し、時代とその社会の偽善を暴く辛辣な風刺劇を繰り広げます。ごく一部のオペラ歌手を除きミュージカルの世界で活躍する俳優たちが集められ、大衆音楽と芸術音楽を混在させたこの作品をカジュアルな歌唱と演技で再現する演出は、当時の時代風俗が現代に通底している事実を炙り出すスリリングな効果を挙げています。音楽の再構成を担当した古楽演奏の泰斗ウィリアム・クリスティがレザール・フロリサンのメンバーと共にステージに上がり、段ボール箱に囲まれて演奏している姿も笑いを誘います。

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1953年製作の映画「乞食オペラ」。ローレンス・オリビエ主演。ピーター・ブルック監督。
1983年BBC製作のテレビ版「乞食オペラ」はロジャー・ダルトリー主演。音楽はガーディナーが担当しました。
しかし、わたしが知人から紹介されて「乞食オペラ」の存在を知るのは、1982年発売のブロードサイドバンドの「乞食オペラの原曲」というレコードでした。1991年には「69曲」版も送り出します。
何の情報もなく、ダルトリー版をレーザーディスクで鑑賞し、その後でオリビエ版をテレビで見たのだったかしら。
ブリテン版は2枚組レコードの存在だけ。
日本ではブレヒト版のいわゆる「三文オペラ」の方が有名でした。
「ベガーズオペラ」として、2006年には日本でもロンドン発のミュージカル版を内野某が演じました。

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国立劇場が「バロックオペラ」のひとつとして紹介した山田治生氏の解説。

1728年、ヘンデルなどの、言葉の意味のわからないイタリア語のオペラにうんざりしていたロンドンの聴衆に、《乞食オペラ》でのジョン・ゲイ(1685- 1732) の風刺的な英語の歌詞は大いにうけ、《乞食オペラ》は空前の大成功を収めた。(初演1728年1月29日ロンドンのリンカンズ・イン・フィールズ劇場)ゆえにこの作品は、しばしば「ゲイの《乞食オペラ》」といわれる。《乞食オペラ》は、69曲の挿入歌を収める“バラッド・オペラ"(風刺やパロディを含む歌芝居)。その多くがイギリスのバラッド(中世以来の伝統をもつストーリー性のある歌曲)やその他の民謡などの民衆歌からの借用であり、残りはパーセル、ヘンデルなどの作曲家の歌から採られたものであった。そして、その借用された旋律に、ゲイは、誰も予想もしなかったような歌詞を付けたのであった。
例えば、《グリーン・スリーヴス》は、「法の下では平等のはずなのに、あのお偉方たちは罰せられない」というような政治風刺の替え歌になっている。
作曲家ヨハン・クリストフ・ペプシュ(1667-1752) の役割は、序曲の作曲と挿入歌の伴奏を付けたにとどまる。ペプシュはベルリン生まれ。オランダを経て、イギリスで活躍。英国音楽の研究で成果をあげた。《乞食オペラ》はヘンデルのオペラの衰退を決定付け、ヘンデルがオペラからオラトリオヘと創作の方向転換を図る契機になった。タイトルにあえて“オペラ"をつけた、当時のオペラに対する批判精神は、《乞食オペラ》初演からちょうど200年後の1928年初演のブレヒト&ワイルの《三文オペラ》(《乞食オペラ》を翻案)に受け継がれる。また、48年には、プリテンがイングリッシュ・オペラ・グループのために、現代の歌唱法と現代のオーケストラで上演できるように編曲しなおした。

これもまた「乞食オペラ」なのでしょう。「アクトワン」は1970年頃らしい。「宇宙の探訪者」は1972年3rdアルバムと。なんとJimmy Webb作/Richard Harrisの「MacArthur Park」のカバーも収録した英国ロックの名盤らしい。

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