笑うバロック展(217)  海蛇に絡みつかれたラオコーン

画像1

画像2

思いのほかゲーベルの音楽を聴いていたのだと。
好みが分かれる、アグレッシブな演奏家。アルヒーフというレーベルが実はラディカルなレーベルだったと改めて確認しました。

ラインハルト・ゲーベル氏のプロフィール。
----ヴァイオリニスト・指揮者。1952年ウェストファーレンのジーゲン生まれ。ケルン音楽院でF.マイヤーに師事し、メルクスの集中講座を受け、レオンハルトの下で研鑽を積む。またケルン大学で音楽学を修める。在学中の73年に仲間とピリオド楽器によるバロック音楽専門のムジカ・アンティカ・ケルンを設立。78年にアルヒーフと専属契約を結び、79年にオランダのフェスティバルで国際的なデビューを飾る。以降意欲的で刺激的な活動をする。(2013/08/19更新音楽出版社)

付け足すとすれば、コープマンのグループに倣って、グループ名を付けたらしいこと。途中で片腕を故障し、バイオリンを反対の腕利き用に取り換えたこと。実質的にバイオリン演奏から引退し、指揮に活動の中心を動かしたこと。コープマンに倣ってかどうか知らないけれど、実演の中心はバロック音楽に絞っていたこと。指揮者として古典派に取り組む姿勢も似ています。ただ、ディスコグラフィを確認すると、似て非なる印象大。
youtube上の指揮姿を見ると、毎回頭の血管が切れていそう、長生きできそうもなく見えます。
ゲーベルはソニーからブランデンブルク協奏曲を出しました。宣伝の「ラインハルト・ゲーベル、ブランデンブルク協奏曲を語る」によると、『「定番となった」とされているアルヒーフへの録音以来、30年ぶりにマイクの前でブランデンブルク協奏曲を演奏するのは特別なチャレンジだった!この間に、私の演奏手段も変化し(ヴァイオリンを弾く代わりに今では指揮棒を振るわけだ)、アンサンブルのメンバーや使用楽器も同じではない。しかしこの30年間でもっと根本的に変化したのは、この不朽の名作についての捉え方そのものなのである。後期ロマン派のようなエスプレッシーヴォな弦楽奏法や、「モデラート」の方に表現重点が置かれた「アレグロ・モデラート」楽章[第1番~第3番の第1楽章を指す]の重々しい8分音符は姿を消した。1985年の時点で、こうした奇妙な演奏習慣や悪しき弊害――ほとんど疑問の声すら上がらず、進んで支持する同僚も大勢いた――のただ中で、私が感じでいたのは海蛇に絡みつかれたラオコーンのような気持だった。18世紀のテンポ・オルディナリオの概念やピリオド楽器の演奏法、楽器編成、楽譜の解釈について数多くの発見がなされている今日、私自身が楽譜に感じる疑問は以前よりもずっと細かなものになった。疑問の数が減ったわけでは決してなく、逆に知識が増えることによってその数は増え、より根本的なものになってきた。全てを知り尽くすまでは、今私たちがやっていることが果たして意味があることなのかどうかさえ判らない。昔の疑問は解かれても、新たな疑問が湧き出てくるのだ』。
「海蛇に絡みつかれたラオコーン」は言い得て妙ですし、「全てを知り尽くすまでは、今私たちがやっていることが果たして意味があることなのかどうかさえ判らない」ゲーベルらしい発言。
注目している仕事としては、ドイツ語圏のバロックに対する偏愛が現れた録音群。「バッハ以前」への偏愛、「バッハ以外の一族」への偏愛、「バッハと同時代の別な地域(ドレスデン、ザルツブルクなど)」への偏愛ぶり。器楽だけでなく声楽もかなり取り組みました。指揮活動が増えてからは「モーツァルトへ至る道」への偏愛ぶり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?