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(2011年6月/2019年11月)ドラランド(1657-1726)「ルソン」リスト = 5種

ドラランド(1657-1726)は、実演からはいりました。
全曲CDは、ブーレイが最初と思います。

1977年録音

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各日の第3のルソンが集まっています。金曜日のルソンには特徴的な「リコルダーレ×3」のリフレインをはさみながら、ヘブライアルファベットのメリスマがない、数あるルソンの中でも飛びぬけて異例な曲。この曲だけを独立させて演奏したり、録音しているものもあります。初めて接しても「リコルダーレジャック=ルイ・ダヴィッド」の連呼は、印象深く、その言葉の意味を考えさせられます。場合によってはメッセージ性が強いと感じます。

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パリ4区サン・ポール・サン・ルイ教会(Eglise St Paul St Louis)のドラクロワの「オリーブ山のキリスト」

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演奏
歌手ミカエラ・エシェベリ(メゾソプラノ)。伴奏L・ブーレイ/JL・シャルボニエ(P-Org/Vdg)。演奏時間が3曲で約61分。


1996年録音

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各ルソンの前後に器楽曲挿入。4つのトンボー(マレ「リュリ氏」ド・ヴィゼ「ヴィゼ嬢」Lクープラン「ブランクロシェ氏」マレ「サントコロンブ氏」)こうしたプログラムが適切かどうかは判断が難しいと感じます。もう少し「トンボー」の方についても知らないと、このふたつのジャンルが入れ子状に噛み合うものなのかしら。

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フィリップ・ド・シャンパーニュ(Philippe de Champaigne, 1602年5月26日 - 1674年8月12日)の「ヴァニタス」
演奏
歌手イサベル・デスロシェ(ソプラノ)。伴奏トロセリエ/ベンダビド/ブラリア(P-Org/Vdg/Lute)。演奏時間が3曲で約52分。


1997年録音

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各ルソン間に器楽曲挿入。L・クープランのパヴァーヌ、フローベルガーのアルマンド「メメントモリ・フローベルガー」。

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レンブラント「預言者エレミア」
演奏
ラ・ヴォチェ・ウマナ ガブリエレ・ネッツェル(ソプラノ)。伴奏トリンケビッツ/トゥリュステット(P-Org/Vdg)。
演奏時間が3曲で約52分。


2001年録音

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速めのテンポで大胆な発音と抑揚の「草書体」的歌唱。少しフィゲラス似の地の様な声。修道女がこうしたビルトーゾだったとは思えないものの、地中海的なうねりのある歌い回しは説得力を感じます。フェルドマンのフランス・バロックのレギュレーションに寄った「行書体」とは距離的にもっとも遠く感じます。この幅がバロック音楽を聴いている醍醐味かしら。

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バルトロメオ・スケドーニ Bartolomeo Schedoni(1578-1615 イタリア)「墓を訪れる三人のマリア (La Maria al sepolcro)パルマ国立美術館」磔刑に処されゴルゴタの丘の墓に葬られた主イエスが復活を遂げたことを、墓上へ現れた天使がマグダラのマリアを始めとした三人の聖女へ聖告する逸話。スケドーニ特有の輝くような光と影の表現による白地の衣服の描写や、形而上的な表現手法は、同時代の作品群の中でも特に優れた出来栄えを見せている。なお本主題のマグダラのマリア以外の二人のマリアの解釈については諸説唱えられているが、現在も確証を得るには至っていない。

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ル・ポエミ・アルモニク クレア・ルフェリエトル(ソプラノ)。伴奏ガイガー/バウア/ディメストル(Cemb,P-Org/Vdg/Lute)。
演奏時間が3曲で約50分。

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ルソンの前に長大な「ミゼレレ」(挿入される聖歌バースは、1711年ブロサールのマヌスクリプトによる3声版)

この盤は2枚組で、1枚にはユージン(ウージェーヌ)・グリーンという人物の朗読が収録されています。ボシュエというルイ14世に仕えた神学者の「死についての説教(Sermon sur la mort)」がおそらく当時風の発音で朗読されています。ボシュエは、イエズス会で学び、1670年にルイ14世の王子の教師、1681年にモーの司教。王権神授説を唱えたことで知られています。これが適切な補足なのか、蛇足なのか。この当時風の朗読が、ルソンの方の歌唱に関わりが強い、というようには聴こえない、というのが正直なところです。

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全曲でないアンソロジー。(上から下へ)新は水曜日のみ。フェルドマンは金曜日のみ。ロンドンバロックは水金のみ。ファライは金曜日のみ。

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2015年

祈りも歌も人の数だけ、ドラランドのルソン

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ドラランドという赤ワインがあったと思います。飲んだことはありません。
一度味や好みとは関係なく、ただ「名前」でワインを選んで飲んでみたい、ような気がいつもします。

シャンパンは、一度だけエドシック(ハイドシェックの親戚)をいただいたことがあります。
白は、カナ表記でリュリをいただいたことがあります。
イタリアにはフレスコバルディもあったような気がします。オーストリアならシューベルトだったかしら。
赤は、ドラランド。サントコロンブもありますが飲んだことはありません。
デザートワインでは、ベートーベンが飲んだか欲したかした貴腐ワインのトカイを1杯だけ。「甘い」と「美味」が同義だと感じました。
最近「バビロンの空中庭園」という名前のワインがあると判明、一度飲めないものかしら。

ハルモニアムンディ初のドラランドのルソンでしょうか。
ソロはソフィ・カルトホイザー。ベルギーの人らしい。歌い口は折衷的な印象です。ポエムアルモニクのルフェリトリアルがフィゲラス系で個性的だったので余計感じます。
コレスポンダンスという新しいアンサンブルと競演。
ミゼレーレはブロサールが3声化したフォーブルドンを採用して。導入と間隙にアンティフォナとレスポンソリウム。ちょっとモンテベルディの「オルフェオ」の最初のリトルネロを想起します。それにしてもクレランボーのミゼレーレもすごかったけれど、ドラランドのミゼレーレもやはり名曲です。
「脳男」という映画の中でアレグリのミゼレーレが採用されていましたが、アレグリのは静謐を装ったものでしたが、ドラランドはよい意味劇場的です。段々リュリのオペラみたいに聴こえてきます。フォーブルドンが交替するので「お客様、聖週間で世俗の劇場はお休みなのをお忘れなく」と注意しているかのよう。
15年前に聴いたときはびっくりした二ヴェールの聖歌も今やかなり自然に聴こえます。
ルソンは改めて聴くと、シャルパンティエとはずいぶん違います。エモーショナルなレシ。華やかな技巧的なエール。ヘブライアルファベットの装飾も、結びのエルサレムの結びのカデンツァも音域広め。今回通奏低音も劇場的な雄弁さかしら。
カルトホイザーは、装飾は音楽に寄り添いながら、語句もよく聴き取れる唱法だと思います。
国内復刻したドゥヴォのシャルパンティエを聴いて、ドラランドを聴くとドラランドが信心深く聴こえません。とはいえ信心は人の数だけあり、祈りから転じた歌も人の数だけあるのだと改めて思いました。
もっと録音されたり実演されていい曲だと思います。

トマ・ルコントの解説は「Un théâtre de piété」、「敬虔な劇場」でしょうか。「A theatre of piety」との英題。「信心深い劇場」くらい。独題は「Ein Frommes Schaustück」、「敬虔な傑作」とのこと。
たしかにその通り。




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