笑うバロック展(224) 精巧さや芸術的な技法(マニーレン)を愛した「伝説」の

懐かしい「レコード芸術」誌の輸入盤短評がでてきました。あの雑誌で一番スクラップ記事の多いコーナーでした。
いま調べているバロックの21世紀の名曲に相応しいかと思われるヴェラチーニの作品、エンリコ・ガッティの演奏。思い起こせば、マンゼあたりとは正反対の位置にいるバイオリニストかも。

画像1

ヴェラチーニ/ヴァイオリン・ソナタ集(Op.1-1&6,Op2-8&12)
エンリコ・ガッティ(Vn)グイド・モリーニ(cemb)アラン・ジェルブロ(Vc)
フィレンツェの音楽家一族に生まれたフランチェスコ。マリア・ヴェラチーニ(1690~1768)は,第一級のヴァイオリニストとして生涯を通して旅を重ねた, いわば旅する音楽家だった。ロンドンでオペラの幕間などにヴァイオリンを演奏し, ドレスデンで正規の官廷楽団員として, ピゼンデルやゼレンカよりも高給を得ていたこともあった。晩年は再びフィレンツェに戻り,教会音楽家として同地で没している。そんなヴェラチーニの4つのソナタのうち,作品番号をもつ2つの作品集から2曲ずつ計4曲。ここに聴くガッテイのヴァイオリンはいささか地味で,感覚的な新しさで聴き手を引き込むというのではなく, ましてや作為もケレンもない。論理的で (いきさか単絡的ないい方をすれば)北方的なある種実直な態度に貫かれている。作品1-1のフランス風序曲の堂々とした開始部,続く対位法的な速いところでは一定のテンポを堅持し,内面の情念に駆られてパッセージが疾駆する。作品2からの2つのソナタも,対位法的な書法への傾倒と独創性を増していったヴェラチーニ円熟の作品にふさわしく, じっくりと弾き込んで飽くことを知らない。フレージングやアーティキュレーションも素晴らしく明晰。アフェクトの表出も控えめではあるが的を得ているし,バロック的な陶酔や情熱に満ちている。こうした演奏をその根底から支えているのが,ガッテイの18世紀の時代精神への敬愛の念であることは, ライナーの彼自身による創作対談によく示されている(これが結構面白い読み物)。音楽家スタニスラオ氏曰く,音楽は言葉だといっても,18世紀のそれに比べて現代の言葉がいかに未熟で月並みなものであるか(テレビの影響と断言),当時の聴衆はワーグナー的な意味における「現実的な」あるいは「劇的な」芸術ではなく,精巧さや芸術的な技法(マニーレン)を愛したのだ----。ここでふと連想されるのがカナレットの絵画やマイセンの陶磁器。これらと同様、僕たちもヴェラチ―二のソナタを味わいつくしたいと思う。(那須田務)

こうして綴ってくると、バロック音楽の時代というのは、「ソロ」「独奏」「独唱」の時代だった、と感じます。それは、集団ではなく個人が、たった一人の個人が、一人だけで立ち上がり歩いていく時代、その一人の人の生涯を追跡したりする時代。

伝説1「1712年にタルティーニがヴェラチーニの演奏を聴き、感銘のあまりに自分の演奏技巧を不甲斐なく思い、アンコナに逃げ帰って自宅に閉じこもり、室内で練習に励んだと言う」。伝説2「ドレスデンの王子に献呈されたソナタ集《ヴァイオリンと通奏低音のための12のソナタ 作品1》を作曲。不幸にも、その宮廷内にはヴェラチーニに対する敵意が渦巻いており、1722年に舞台上でハイニヒェンや歌手セネシーノとの口論に巻き込まれ、三階席の窓からヴェラチーニは飛び出してしまう。それからヴェラチーニは一生片足が不自由なまま歩くことになった」。伝説3「1723年に郷里フィレンツェに戻り、教会音楽の演奏に加わり、オラトリオを作曲した。この間、悪評を得て『頭がおかしい奴"capo pazzo" 』とあだ名された」。宮廷内の権力闘争エピソードは華やかに。平穏な時があったのかしら。

ヴェラチーニの肖像はよく引用され、古楽のバイオリンの構えのひとつの模範といえそう。

画像2

ヴェラチーニを調べていて。Discogでまとまった録音をみつけました。1965年頃、奇特なハイマン・ブレス氏は南ア生まれ、カナダで活躍したバイオリニストらしい。どんなご縁でヴェラチーニを録音することになったのかしら。鈴木メソッドにもヴェラチーニは含まれていました。イタリア古典歌曲などと同様、編曲集として19世紀を渡ったのか、教育用とかビルトーゾのアンコールピースとして?なのかしら。

画像3

前述の伝説を使って2013年に木村理恵さんがソロデビューしていました。ガッティのような演奏家は、こうした選曲の場合「悪魔のトリオ」を避ける傾向がありました。ある人がガッティはオーディエンスが期待する作品をわざと避けて通るようなと評していました。マンゼは録音したけれどなぜか無伴奏で。デビューで「問う」のは好いと思います。

『タルティーニ&ヴェラチーニ:イタリアのヴァイオリン・ソナタ集』
ヴェラチーニ:ヴァイオリン・ソナタOp.2-12
タルティーニ:ヴァイオリン・ソナタ《悪魔のトリル》
ヴェラチーニ:ヴァイオリン・ソナタ Op.2-5
タルティーニ:パストラーレ Op.1-13

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
Not That It Matters .
2
ブログに観たもの聴いたもの食べたものを綴っていました。そうしているうちに、自分が「バロック音楽」に関心が高いことがわかってきました。本当に美しい音楽もたくさんあります。音楽は聴いて判断するものですが、時に思わず笑ってしまうことも。ちなみに、ヘッダーはオブローモフ氏。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。