笑うバロック展(220)  アイドルを探せ 背の高いナタリー

ナタリー・シュトゥッツマンは同級生のよしみで後援会しています(うそ)。
ミシェル・ランベールのルソンで初めてお耳にかかりまして。エラートのデビューはメンデルスゾーンやシューマンを録音。1992年頃RCAデビューのヘンデルのオペラアリア集で颯爽と。まだ同様傾向のアリア集は少ないか拙いものが多かった頃、待ってましたと歓迎したものです。
RCAではシューマン全集にならず、しかしシューベルトのリートはマイナーレーベルで着実に録音。五十路になろうかという頃、バロックアンサンブルを創設して、グラモフォンから復活したエラートへ。ツブシがきくメゾと違い、コントラアルトは自分で仕事を作らねば。オケの指揮までこなすとは意外でしたが、恰幅も指揮者然となってきました。検索すると身長188センチと。サザーランドと同じらしい。

初来日時だったか「追っかけ」しました。歌曲リサイタルと都響のゲストでマーラー。耳も目も眩んでいたので「素晴らしかった」のみ。

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さて、本業新盤。
パリゾッティ編「Arie Antiche・イタリア語の古典アリア集」は全3巻100曲のアンソロジーの抜粋、原曲復元版。
このアンソロジー、1885年から1900年にミラノのリコルディ社刊。
山本まり子氏のブログによると「----出版年代(1885~1900)に注目してほしい。ヴェルディは1871年の《アイーダ》を最後にオペラから遠ざかり、新作オペラの途絶えたイタリア国内では、自国の過去の音楽にまなざしが向けられるようになった。そんな1885年、パリゾッティによる『古典アリア集』第1巻が出版されたのだ。----19世紀後半の、そのようなイタリア音楽の状況下で生まれた。オペラの誕生した1600年前後の音楽を忠実に再現するという姿勢で編纂されたものではないことを、知っておいてほしい」。全音が出版した全4巻の「イタリア歌曲集」は、パリゾッティ版を基にするものの、モーツァルト、グルック、トスティの作品を追加して、ある程度難易度階梯のテキストと化している様子。
シュトゥッツマン選は、初期バロックから前古典あたりまでを睥睨する選り抜き。
「すみれ」「カロミオベン」は含まず、マルティーニの「愛の喜び」を収録。この曲、原語フランス語、甘いメロディとは裏腹に「愛の喜びは長続きしない。愛の苦しみだけが長続きする。僕のつれないシルヴィアは……」というもので、恋愛賛美ではなく、不実な恋人についての愚痴を歌っているとのこと。プレスリーの「好きにならずにいられない」の原曲。ジョン・バエズもカバーしていました。パリゾッティ自身の作品と合わせて2曲は、やはりアルバム中で異色というかちょっと違和感がありますか。
タイトルにはコンティの「私を燃え立たせるあの炎」を採用。コンティは原曲カンタータの前段を含め全曲録音しています。シュトゥッツマンに合った選択かもしれません。コケットな声質ではありません。最初のヘンデルのオペラアリア集は「お似合い」でした。元来ヘルデンな歌手なのだと。それが自分のチームで指揮しながら歌う、この人には合っていてカデンツなど強靭なまま柔軟さが加わった感じ好感。バッハとかはいらないので、ゼレンカの哀歌とか期待してしまいます。
収録のチェスティやカヴァッリの原オペラは、ルネ・ヤコブスが一生懸命全曲録音した作品群でした。

A.スカルラッティ:『陽はすでにガンジス川から』 パリゾッティ版2巻-16曲(以下数字のみ表記)
ドゥランテ:『踊れ、優しい娘よ』2-26
器楽ファルコニエーリ:『パッサカリア』
カッチーニ:『麗しのアマリッリ』2-5
カリッシミ:『勝利だ、私の心よ』1-1
A.スカルラッティ:『私を傷つけるのをやめるか』1-5
ヘンデル:歌劇『アルチーナ』より『ああ! 我が心よ、お前はだまされたのだ』1-17
コンティ:カンタータ『私を燃え立たせるあの炎』全曲4movのアリア=1-18
ボノンチーニ:『お前を讃える栄光のために』2-23
器楽ポルポラ:3声のソナタ Op.2-3よりアダージョとアレグロ
ドゥランテ:『愛に満ちた処女よ』2-25
器楽ポルポラ:チェロ協奏曲ト長調よりラルゴ
パリゾッティ:『もし貴方が私を愛してくれて』1-22
レグレンツィ:『なんと尊大な習性だろう』1-3
カヴァッリ:『満ち足りた喜びよ』2-7
器楽マルチェッロ:オーボエ協奏曲ニ短調よりアダージョ
ヘンデル:歌劇『ジュリオ・チェーザレ』より『この胸に息のある限り』3-21
器楽カプリコルヌス(?):3声のソナタ集『いとも甘美なる誉の書』第2巻より第4番
マルティーニ:『愛の喜びは』1-30
パイジェッロ:『もはや私の心には感じない(うつろの心)』1-28
器楽ドゥランテ:協奏曲第1番ヘ短調より序奏
チェスティ:歌劇『オロンテーア』より『あこがれの人のまわりに』1-2
カルダーラ:牧歌劇『愛の誠は偽りに打ち勝つ』より『たとえつれなくとも』1-12

同じころyoutubeで、シュトゥッツマンのビバルディのオペラアリア集のコンサートライブを鑑賞。
器楽をはさむプログラムもたいへん素晴らしい、集中力のある演奏。
若い時は自分の声がコントロールしきれない雰囲気がありましたが、ビバルディのアジタータようなバロック声楽の中に自分の独自性を活かせると見極めた覚悟が伝わってきます。レパートリの拡充は、楽譜の発掘とオーディエンスの成熟がそろっているという感じ。ヨーロッパらしい。CDが全世界に売れなくてもいいし、日本のような極東の国に理解されなくてもいい、自分たちの成長に合った聴衆のいるところでだけ誠心誠意演奏すれば----。グラーツィアでスプレツァトゥーラな演奏だと思います。
広く他国の異質な文化の人々にまで「理解されなくてよい」、というのは、先日発見したアゼルバイジャンのババ・ミルゾエフもおそらく同様。(Baba Mahmutoglu Mirzayev Ensemble azerbaijan traditional song music で検索すべし)それこそヤコブスのいう「自分としか向かい合わないナルシスト」たちです。
異論もあるけれどバッハのアリアも堂にいってきたなあと聴こえました。
写真のワタナベさんが、コンマスより上手ではないかしら。

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