自己紹介のためのコーヒー屋の資格 (補足)

前稿でとりあげたそれぞれの資格には、「目的のコーヒー」「目的の味香り」などに特徴と差異があります。それは、街場の小規模なコーヒー店の実務とはかけ離れたものになります。

補足として。
それぞれの差異はどんなことか。

この「コーヒーのレッスン」では、コーヒーについて「物差し」になる本を2冊お薦めしています。

旦部幸博先生の「コーヒーの科学」「珈琲の世界史」です。
いまネット上には多様な情報が氾濫しています。ことコーヒーに関して、判断に迷ったとき、旦部先生を「物差し」にしています。
ご自身理系の読書家だと思う方は「科学」→「世界史」と読み進んでください。文系と思われる方は反対に「世界史」→「科学」が読みやすいようです。
旦部先生の素晴らしいところは、先生ご自身がコーヒーの専門家でなく、コーヒーの実務に携わっていないことを自覚されているところです。つねに謙虚な姿勢でコーヒーに向き合い、コーヒーファンとして自由な発言を妨げる利害との距離を慎重にはかっておられます。
どうか、たくさんの出版資料があるかと思いますが、「誰が誰に向けて」発信しているか、失礼ながら著者編者の発信の思惑や利害がどこにあるか、それこそネット検索で調べて判断してほしいと思います。

資格に限らず、様々なものが「産業化」します。
以前世間を騒がせた漢字検定事業など検索すれば、検定の内容や当初の目的と「産業化」の間には、その価値を揺るがすような利害の綱引きが起きることがわかります。

ちなみソムリエさんたちは、その職業についている人たちが自らの地位向上ために組織を築き資格制度をつくりました。根本的にコーヒーの資格では、主催組織は、従事する現場の人々の築いたものとは違います。あらかじめあるコーヒー産業の営利組織が産業振興のために末端に至る従事者たちの基礎力アップすることが目的です。
つまり、ソムリエさんが個人で小さなワインバーを立ち上げるのとは様子が異なります。

SCAJコーヒーマイスター補足


「プロのコーヒーサービスマン」の育成とうたっています。
ただしここでいう「マイスター」呼称はヨーロッパでいう最高位資格を表わすものではありません。サービスマンの基礎を学んだ人という意味です。
扱うコーヒーはSCAJの定義する「スペシャルティコーヒー」が中心になります。もし街場の小さなコーヒー店でバッジをした人に出会ったら、声をかけ質問してよいという証です。
課題は、SCAJの「スペシャルティコーヒー」は原料のレベルで判断評価された味香りの特徴や個性を活かすことが重要視され、個々の店、職人のレベルで「当店のコーヒー」の特徴や個性を活かすこととの間のシーソーゲームに悩まされることです。
「『当店のコーヒー』の特徴や個性を活かす」こと、コーヒー店開業を目指す人は自身がお客様に提供したい「目的の味」を探すことが大切になります。しかし、それがそのままSCAJ定義の「スペシャルティコーヒー」とは限らないのです。


CQI・Qグレーダー(アラビカとロブスタの2種あり)補足


20年ほど前、当時ひとりだけだった日本人Qグレーダーの方とお話ししたことがあります。
北米中米諸国から定常的にコーヒーのカッピングを業務とする人々が定期的に集まって、新しい時代のコーヒーの「物差し」をつくろうと尽力されたそうです。コーヒー農園主、農業技術者、輸出業者、コーヒー生産者組織の職員など。ゆくゆくグローバルな「物差し」として通用させるためのインフラを整備したといえそうです。従来あった生産国のグレード分けの「物差し」に加えて、その中から、裕福な消費国側の希求するコーヒーを探し提供するために消費国側の新しい「物差し」を取り入れ、相互に比較対照しやすくしました。新しい「物差し」でついた付加価値は、相応な対価で取引されるようになりました。
小さなコーヒー店の場合、仕入れ先と交渉する上で、ある「物差し」が共有されていることは便利になります。しかし、ついた付加価値はコストアップになります。それをまかなうためには、「原料の付加価値」を「当店の付加価値」に昇華させる製造技術上の高度な技能と、なにより当店のお客様と価値共有する高度なサービス技能が必要になってきます。


JCQAコーヒー鑑定士、コーヒーインストラクター補足


20世紀日本で「コーヒー鑑定士」といえば、主にブラジルの「コーヒー鑑定士」のことでした。現在もブラジルのコーヒー産業の中でコーヒー鑑定士が、自国ブラジルのコーヒーを格付けしています。大きくは輸出の許可不許可を判定し、そのグレード分けをしています。
鑑定といっても、取扱の単位はコンテナ何個分というような量です。ブラジルの原料生豆はおおむね1袋60キロ入りで、輸送コンテナに200袋から250袋積載できます。乱暴にいうと、その12から15トンの生豆のグレード分けを、300グラムのサンプルから推し量っています。
ブラジル・コーヒー鑑定士の資格をもつ日本人もいます。(次の投稿の参考資料参照願います)

2022年日本で「コーヒー鑑定士」といえばJCQAの鑑定士をさすと考えてよいでしょう。「コーヒーこつの科学―コーヒーを正しく知るために」(2008
年柴田書店刊)の著者石脇智広氏が尽力して構築した資格制度といえます。検索すればわかりますが、たいへんな経歴の方です。その方がコーヒー業界のそれこそ営利のど真ん中に飛び込んで、コーヒー産業従事者の人材教育の仕組み造りに貢献しました。


何かの講演での発言でしたか、コーヒーイントラクターは選抜する資格の側面が強い、それは、日本のコーヒー産業の人材育成が急務の時代だったから、コーヒーマイスターは育成する資格の側面が強い、市場にできるだけ多くの人材を配すことが、ワイン産業発展とソムリエの役割に倣えるから、という趣旨のことを。
つまりインストラクター資格は、コーヒー企業の人材のピラミッドを再構築し個人のモチベーションを維持する様相があります。小さなコーヒー店の開業営業においては、この組織の論理と折り合いをつける必要があります。一般にコーヒー企業は、コーヒーを取り扱う貿易商社、UCCなどに代表される焙煎コーヒー豆の卸売業を主にする組織、ドトールのように多店舗展開のカフェチェーンを運営する組織、ほかにもコンビニや缶飲料メーカーもありますが、いずれにしても規模や内容に差異があります。
大雑把にいえば、「卸売」と「小売」の差異です。この視点で常に小さなコーヒー店の店主として自身のポジショニングを俯瞰する経営者感覚が要求されます。
将来設計の差異とも関連します。個人経営の小さなコーヒー店は、あくまでスタート、10年後20年後には、大きな企業に育て上げる構想ですか、それとも見た目の間口は小さなコーヒー店のままで高級店としてコツコツと歩みますか。



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