笑うバロック展(311) アイドルを探せ ヒレの続報をスクラップ

文京楽器のサイトに「よみもの」のページが設置されています。その中の「ヨーロッパ弦楽ウォッチ 連載」。第14回「新しいバロック音楽のフェスティバル『Baroque at the Edge』 in London」。安田真子氏による2020年2月14日記事です。

現代には、ヴィオラ・ダ・ガンバやリュートなどの古楽器をあえて音響機器に接続したり、本来のレパートリーとは異なる音楽に挑戦したり、バロック音楽の作品を現代的なアレンジを加えて演奏したりと、通常考えられていたこととは異なるアプローチで演奏に取り組む音楽家たちがいます。
バロック音楽を題材に自由な感性で作り出されていく新しい音楽は、古楽器の演奏を愛する人だけではなく、ポップスやロックを聞く人にとっても親和性があり、刺激的です。そのような通常とは一味違う演奏が繰り広げられるバロック音楽祭『Baroque at the Edge』が、イギリス・ロンドンで2020年1月10日から12日までの週末3日間にかけて開かれました。

無題pearl2020

エレクトリックのヴィオラ・ダ・ガンバ二重奏   雪でも降りそうな1月の寒い夜。21時半を回った頃、イギリス・ロンドンにあるホールLSO St.Luke'sには続々と人が集まってきました。幕が開くと、舞台上にはヴィオラ・ダ・ガンバを奏でる2人の女性が現れました。その前方にはもう1台、テールピース部分が折れ、弦が外れた状態の壊れた楽器が横たえられています。舞台照明はジャズやブルースなどのライブのような色合いで、ときに赤く、ときに青く演奏者たちを照らし出し、二重奏は通常のヴィオラ・ダ・ガンバという楽器から想像されるものとは異なる音色を響かせています。楽器を音響機器にあえて繋いでいることは一つの大きな違いですが、今までに耳にしたことがないほど野性的で生き生きとしたガンバの音色に圧倒されました。このドイツの母娘デュオ、ヒレ・パール、マルト・パールによるヴィオラ・ダ・ガンバの二重奏には神秘的な響きがあり、複雑に絡み合う演奏には音楽の力強さで満ちていました。いつもはテールピースから音響機器に繋げられる特製のエレキ・ガンバを携えてデュオ活動をしているこの2人。コンサートの前々日に母ヒレの楽器が突然壊れてしまったので、代わりの楽器で演奏したけれど、壊れたままの愛器も舞台に一緒に乗せたかったと曲の合間にヒレは語りました。
「この楽器の修理はできるけれど、アンコールとして『葬送曲』を贈ります」と演奏者本人の口から微笑みをもって伝えられると、聴衆から忍び笑いが漏れ聞こえてきました。


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