笑うバロック展(301) アイドルを探せ 「再発見と書きかえ」のヒレ(2)

待望のヴィオラ・ダ・ガンバ協奏曲集。
珍しいという点では、バッハのソナタ以外どのガンバ作品もたくさん録音されているわけではなく、すべてものめずらしい範疇でしょう。パールのグラウンのト長調協奏曲は2度目の録音かもしれません。明るく朗らかな曲調がパールとあっているのかもしれません。

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以下宣伝引用。
ドイツのガンバ奏者、ヒレ・パールが、ドイツの古楽器オケ、フライブルク・バロック管弦楽団と共演し、ドイツ出身のバロック作曲家によるヴィオラ・ダ・ガンバ協奏曲を演奏したアルバム。
【ヴィオラ・ダ・ガンバ】
バロック期を代表する楽器の一つ、ヴィオラ・ダ・ガンバは、その繊細で柔らかい優雅な響きからフランスで特に人気があったようで、通奏低音などにも数多く使用されています。しかし、隣のドイツでも注目度は高く、たとえばバッハは、有名なガンバ・ソナタや、ブランデンブルク協奏曲第6番のほか、カンタータにも多く使用しており、また、作曲家兼ガンバ奏者で後半生を英国で過ごしたカール・フリードリヒ・アーベルも多数の作品を残しているほか、当時、最も人気のあったテレマンもガンバを用いた作品を数多く書いていました。
【ヴィオラ・ダ・ガンバの協奏作品】
このアルバムには、音量の問題もあって室内作品向けとされ、大きめの編成の作品はあまりたくさんは書かれなかったとされるヴィオラ・ダ・ガンバによる協奏作品が収められています。
ガンバ作品を多く残したゲオルク・フィリップ・テレマン[1681-1767]とカール・フリードリヒ・アーベル[1723-1787]に加え、ヨハン・プファイファー[1697-1761]、ヨハン・ゴットリープ・グラウン[1703-1771]による珍しい作品も取り上げられています。
【ヒレ・パール】
世界でも有数のガンバ奏者として人気を集めるドイツ女性、ヒレ・パールは、ヴィオラ・ダ・ガンバ・レパートリーの開拓にも熱心なことで知られ、協奏作品についてもすでに、2006年録音のテレマン・アルバムでも3曲をとりあげていました。今回のアルバムはそのときと同じくフライブルク・バロック管弦楽団との共演で、長年同オケのガンバ奏者としても活躍する彼女だけに、息の合った演奏を期待できそうです。
・テレマン:ヴィオラ・ダ・ガンバとブロックフレーテのための協奏曲イ短調
・ヨハン・プファイファー:ヴィオラ・ダ・ガンバと弦楽のための協奏曲イ長調
・ヨハン・ゴットリープ・グラウン:ヴィオラ・ダ・ガンバと弦楽のための協奏曲ト長調
・カール・フリードリヒ・アーベル:アダージョとアレグロ ニ短調
・アーベル:インテルルディウム ニ長調
・アーベル:アルペッジャータ=ファンタジー ニ短調         ヒレ・パール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)/ ハン・トル(ブロックフレーテ)/ フライブルク・バロック管弦楽団/ 録音時期:2010年11月

楽器について。
パールはチロルの弦楽器製作家マティアス・アルバンの1701年製作の7弦。きっとジャケットの獅子頭の楽器でしょうか。
2006年3月録音のテレマン協奏作品アルバムのときは、指板に白抜きの草柄模様が一杯にされた婦人頭のティールケを元にしたインゴ・ムトヘジウス作の楽器でした。ジャケット裏の写真が正確ならば、グラウンの最初のライブ録音もこのティールケモデルのはずです。
発売が先行した2011年9月録音のシェンク作品集は、アルバンの楽器使用。

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スリーブを見ると、やはりグラウンは8曲の独奏ガンバと弦楽のための協奏曲があると書かれています。
テレマンの二重協奏曲で開幕。ギエルミの民族色の強い演奏とは対極でしょう。日本には「小京都」という言い方がありますが、小京都の洗練という感じです。華美でなく素朴さを兼ね備えた洗練です。都への憧れ「つばらつばら」という感じ。
テレマンの後にアーベルの哀切のアダージョとアレグロが続きますが、バンドルフォのような思わせぶり思い入れは排して、ハイニッツあたりへの「つばらつばら」かしら。スリーブは父アーベルがケーテンのバッハと関わり、息子アーベルはJCと一緒に活動しつつ、CPEにベルリンに招かれ、宮廷で独奏の妙技を聴かせたと。(バーニーが、アーベルのアダージョはすべての器楽演奏の模範だ、みたいなことが。)そこには、同じビルトーゾながらコンポーザーでなくアレンジャーとして才を発揮したヘッセがいたと。そのヘッセのビルトゥオジティのためにグラウンがイタリアで修行してきた作曲技法を発揮したと。
パールの解説のタイトルは「ガンバ最後期のふたりの巨匠・ルトビヒ・クリスチャン・ヘッセとカール・フリードリヒ・アーベル」とあります。
グラウンのト長調協奏曲については、90年代前半にホルスト・クラウゼによって19世紀のコピーがもたらされたことに感謝しています。特別グレイスフルだと。ヘッセのレガシーが残されているそう。
プファイファーは、1732年にブランデンブルク=バイロイト辺境伯フリードリヒ3世の宮廷楽団に、1734年に楽長に就任。加えてフリードリヒ3世の妻ヴィルヘルミーネの作曲・ヴァイオリンの教師も務めた。ヴィルヘルミーネはフリードリヒ大王の姉。
録音に使われた楽譜は、グュンタースベルク版でベルリン図書館のクリンゲンベルク・コレクション由来。クリンゲンベルクについても言及しています。
19世紀のブルンスビック宮廷礼拝堂のチェリストでガンバ愛好家で1905年に没するまでガンバ音楽の楽譜を集めました。プファイファーだけでなくグラウンの協奏曲も含まれます。
テレマンとプファイファーの協奏曲は緩急緩急4楽章のキエザ形式。プファイファーの協奏曲の後、短いアーベルのインターリュードを挟んで、グラウンの協奏曲。初録音ライブより少し冷めたセッション録音、カデンツァの華が優しく丸くなりました。よい意味でライブとセッションの違いが少ないと思います。
グラウンの後に、アンコールのようにアーベルのアルペジャータとファンタジアが収録。間違いかもしれませんが、その最後の方でグラウンの3楽章目を振り返るようなフレーズが出てきます。アーベルの作曲からパールが発見したのか、もしかしたらパールの即興的な付加かもしれません。

ガンバの音楽は一つ間違えると退屈ですから、パールのCD録音はなかなかで、もう少し聴きたいと思わせる上手さがあります。アーベルのドレクセル写本はバンドルフォが全曲盤を出していますが、こうした企画や選曲が師匠時代のままかしら。パールは古楽録音の王道のような感じです。選曲配列やスリーブ内の謝辞などに昔のドイツハルモニアムンディの雰囲気が残っているようです。

パールの演奏と解説は、古楽が発見され新しい音楽として、現代の聴き手に提示されたときの目的と効果を維持していると思います。古楽の語法から逸脱しなくても、よく考えて「再発見と書きかえ」を繰り返し、わたしに提示してくれます。逸脱しないでその説得力を維持し続ける、なんとも難しいことです。それでも昔アバンギャルドだったものが、クラシックになったとも言えそうです。それが「直前・前古典」のような隙間の作品群だけに、黄昏そうですがパールは抗っています。以前のテレマン作品集の組曲やビオラ協奏曲の改編を聴くと本当に努力して「開拓」しているなあ、と。さて、次は何を届けてくれるのか。現在には希な次が待ち遠しい音楽家です。


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