笑うバロック展(287) レジェンド探索 晩年のブリュッヘンの曲がった指

晩年のブリュッヘンの曲がった指を見るたびに、デューラーの祈る手を思い出します。

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ブリュッヘンのおそらくほとんど最後に近い映像かと。youtubeにライブの映像。ラモーの「ナイス」組曲。

左翼にバイオリンとオーボエ、ミュゼットドクール。中央後方にバス弦楽器。右翼にクラブサン、バスン、フルート。奥に打楽器とトランペット。
ありきたりな言い方ですが、管がよく鳴ります。
ブリュッヘンの発音とかリズム感とか独特だと思います。流暢でも典雅でもなく、子供のいたずらっぽい。もっともユーモラスなラモーかしら。
ナイスは序曲でビックリ太鼓の威嚇がはいるのですが、これを盛大にやってくれます。ベルサイユからは「およびでない」タイプの演奏だと。
オケ音でのゼスチァーも派手なので、劇伴にも「およびでない」のでしょう。それだけに音だけの録音で聴いた時にもっとも表情豊かで、CDを聴く楽しみがあるというもの。ブリュッヘンは身体が大きい人なので、できるだけ本人が「目立たない」ようふるまって、その分奏でる音が「目立つ」癖が大きいのかも。
ブランデンブルクの5番も映像が観られますが、上手ではないし癖があるし、でも文句をつけるには大きいので恐い感じ、かしら。

白状すると、実はラモーのすべての作品が大好きです。

出会いは、不思議なことにブリュッヘンです。2010年頃の記録をめくると下記のごとし。

18世紀オケ発足当初の音楽祭のライブ録音をFMで聴きました。パーセルのファンタジアやシャコンヌ、バッハのオーボエ協奏曲のリコーダー編曲版「吹き振り」(こうでもしないとスポンサーがつかない、という噂を聞きました)、「田園」交響曲に混じってラモーの「ボレアド」組曲。その後も、ブリュッヘンは精力的にラモーの管弦楽を採り上げ続けました。結果、オペラ全曲録音はかないませんでしたが。全曲はアーノンクール、マルゴワール、クリスティ、ミンコフスキ、ルセあたりが潮流だと思います。「ボレアド」に関しては、ガーディナーが早かったかしら。ラトルもエイジオブエンライトメントあたりと全曲にトライしていたと思いますが、もはや「幻の」扱いかしら。
ブリュッヘンは「ボレアド」「ダルダニュス」組曲を皮切りに、「カストールとポリュックス」組曲、これがまたイカス演奏(よい意味で、なんと能天気なウキウキ感でしょう)でした。「優雅なインド」組曲、「ゾロアストル」「ナイス」組曲と続きました。特徴的でありながら、どこかユーモラスなところがスキです。ミュゼット・ドクールの出番も結構ありますし。
18世紀オケとの初来日時(きっと1989か90年?)にフィリップス!の配ったチラシがでてきました。ほとんどLPレコード!で買っていたのですが、このチラシの頃にはCDプレイヤがありましたので、「英雄」からCDに。でもデビュー盤と最初のラモーのみ記念にとってありました。

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「英雄」と「グランパルティータ」はLD!!もありました。BR化なんてされないのでしょうね。もっともっと素晴らしい演奏が後から後から出てくるはず、というのがわたしの持論、と申しておきましょう。

もともと中世ルネサンスからバロックへと続く舞曲の伝統はとても親しみを感じます。故にラモーのオペラや舞曲の組曲は大変好みです。リュリの後継者といわれていますが、ここぞという技巧的アリアはグランドオペラの手前まで行きそうです。この人と作品が、バッハやヘンデルと「同時代」なんて、そちらの方がなんとも不思議です。とはいえ、このときの来日記念盤2枚を見ると、ブリュッヘンが構想していた「18世紀」観が垣間見えるようです。フランス革命を境に聴衆の層と質が変化し、それまで聴こえていた実際に出ていなくても頭の中で響く音を聴く能力と環境を失い、実際に発している事としての音を求めるようになる、といったオケ創設当時のインタビューでの発言などが懐かしい。その転換期の質の高かった聴衆に当てた傑作だけを、きちっと演奏していきたい----テレマンはもういい----現在のテレマンの録音などの質と量をみるとブリュッヘンがいなくなったので「できる」という場合も確かにあるのでしょう。
そう、テレマン、ヘンデルを吹きながらオトテールを発掘したブリュッヘンにしてみると、モーツァルト、ハイドン、ベートーベンを演奏するために創設した自前のオケでラモーは重要だったのでしょうね。録音リストを見ると18世紀オケで演奏しているいわゆるバロック音楽はバッハとラモーくらいです。シャイトやパーセルは勘定に入らないくらい、弦楽部の自主トレメニューみたい。新日フィルの来演で、バッハ・ベト・プロジェクトがひと段落したら、ラモー・ガラとかやらせてやってくれないかしらねえ。いまなら、演奏会形式、ホールオペラとか工夫はいろいろできそう。新日フィル様お願いします。いっそフランスバロックのピッチ、楽器、演奏様式をまるごと習っておいたらいいのに。山響が古楽器シューマンを録音しているのですから、都会派・新日はいきなりカストールあたりを演奏会形式でライブ録音しちゃうなんて、ね----実現したらブリュッヘン最後の演奏になっちゃうかしら。日本には「カラス~セル伝統」がありますし。

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