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【長編】高校の七人「シンジと言う男」

〇中学3年のシンジ

 栄桜第一高1-B組、男子生徒の1人、その名を「シンジ」。
 この春入学した男である。

 しかし、彼は少々異端な男であった。

 栄桜第一高は、普通科だろうが、スポーツ科だろうが、グローバル科だろうが、国内でも屈指の人気度を誇る。ゆえに、320人の枠と言えど、倍率は毎年4を超える。それゆえ、この学校に通う生徒は、必ずと言っていいほど、この学校を第一志望としてきた。

 シンジはそうではなかったのである。

 何故か。
 ――― ――― ―――

 シンジは中学時代、、、とある女子生徒に恋をしていた。
 女子生徒への恋は、やがて、女子生徒との恋となる。

 彼女は、非常に満ち足りた人物だった。
 齢10代前半といえど、頭脳明晰、容姿端麗……比類なき美しさを持った女性だった。

 ごく普通、それどころか何事においても中の下の、取るに足らぬ男子中学生だった「シンジ」を、高嶺の花を狙うべく奮起させ、周りから神童・天才と崇め奉られるような人物に仕立て上げたほどである。

 シンジは、彼女のために、自己研鑽の努力をたゆまなかった。
 しかし彼女は……頭脳明晰、容姿端麗というだけではなく……
 
 ……佳人薄命であったのである。
 ――― ――― ―――

 彼女は、受験前年の夏、亡くなった。

 シンジは、彼女がどうして亡くなったのかということより、亡くなったことそのものに、途轍もない衝撃を受けてしまった。
 実は、何故彼女が亡くなったのか、シンジは知らないのである。 

 当時、その理由は伝えられたはずである。
 亡くなった事実そのものが大きすぎて、シンジの頭に記録されてないのである。

 「彼女の喪失」に伴う、一連の出来事は、シンジを暗黒の海へ引きずり込んだ。それから半年間、何も覚えていない。

 その間、シンジに自我は通っていなかった。
 ――― ――― ―――

・中学時代

 ……
 ……
 ……
 中学2年生の時分だった、、、
 シンジは、個々の模擬試験やテストにおいて、こつこつと学年1位をとるようになってから、彼女とよく話すようになっていた。
 磁石のように日常に存在する……しかし超自然的な力で、二人は惹き付け合ったのである。

 中学3年の春、、、彼女は言った。

「ねえ、シンジ。一緒に、栄桜第一目指さない?」
「えっ!?」

 シンジは驚いた。

 名門「栄桜第一高」のことは、昔からよく知っていた。自分とは、全く違う世界にある学校だと思っていた。しかし、燃え上がる恋の炎と共に、上昇した学力水準は、既に栄桜第一高を合格圏内に収めていたのである。
 その事実に遅れて気づき、面食らったのである。

「一緒に狙わない? 首席」
「首席……」
「シンジとあたし、どっちが1位とれるかしら。ふふっ、競争だよ!」
 ……
 ……
 ……

 ただ一つ、彼女の気持ちに応えたかった。
 彼女の気持ちに応えて、首席合格を取りたかった。
 そして、それからも、彼女の隣で共に歩んでいきたかった。
 歩んでいくはずだった。

「一緒に狙わない? 首席」
 ……その約3ヶ月後の8月某日、彼女は死んだ。 

 それからさらに7か月後、シンジは栄桜第一高に合格した。
 だが「本物の天才」が登場したことにより、シンジの首席合格は阻まれた。いや、恐らくその男がいなくとも、当時の荒み切った内情のシンジでは、首席合格は取れなかったろう。

 首席のいかんにかかわらず、シンジは、初めから終わりまで、栄桜第一高なんか目指したことはなかった。
 目指しているのはいつでも、彼女の隣だった。
 
 この世界のどこにも、彼女の隣なんて場所が無くなった。
 シンジにとって、この合格は、不合格以上に虚しいものだったのである。
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