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【未】【小説】戦闘執念
〇本編
悪は悪を自称しない。
どちら側も自身を善と自称する。
善悪を決めるのは、いつも第三者だ。
事情を解り切ることの出来ない、第三者だ。
――― ――― ―――
・組織「ビジランテ」
指定戦士組織「ビジランテ」
戦士連合本部ほどではないが、そこそこの歴史をもつ戦士機関である。
ビジランテ……その意味は自警団。
人々の平穏ではなく、粛清を掲げている。
それ故に、戦士連合とは馬が合わず、反骨の姿勢を貫いている。
所属人数は不明。
だが徹底した実力主義で、上位陣は、世界でも10本の指に入る強さと言われている。
ビジランテには、独自の階級制度が敷かれていることで知られている。
・ビジランテ0級:惑星最強レベル
・ビジランテ1級:精鋭戦士レベル
・ビジランテ2級:平戦士レベル
・ビジランテ3級:研修中。駆け出し。
・事務職員(=戦士補佐等)
その実力ゆえに、戦士連合は、ビジランテ1級、0級の人物のみ、登録指定するように指示を投げている。
惑星最強レベルと称される、ビジランテ0級に名を連ねるのは、2名。
創設メンバー1名に加え、叩き上げの1人から成る。
・「キッド」……ビジランテ創設者。創設者だから0級にいるというわけではなく、本当に強い。
・「フレイム」……女戦士。元ツキカゲ女忍。元々ビジランテは、3~1級構成だったのだが、キッド同様に、1級に配置するには強すぎると判断された。ビジランテ0級を創設するきっかけになっている。組織のNo.2。
しかし、0級の2人よりも遥かに強大な戦力が、この組織には存在する。
表社会の戦士連合に反骨する姿勢を貫く、荒くれたこの組織が、風紀粛清を図れているのは、この男の存在に起因する。
――― ――― ―――
・ビジランテ最高戦力「N」
男の名は「N」……キッドとは付き合いの長い男だが、その本名は、キッドさえ知らない。
Nは、口の利けない男なのである。
利けないのか、それとも利かないだけなのか、キッドは知らない。Nは、昇段審査をクリアし、ビジランテ2級に所属する。
しかし、その途方もない実力は、0級の2人を遥かに凌駕することを、皆、暗黙のうちに知っている。
――― ――― ―――
・ビジランテ1級最強の男
その日、、、
とある男の、0級昇段審査が行われていた。
男の名は「ライオネル」……若手ではあるが、現ビジランテ1級の剛健な戦士である。
――バチバチバチッ……
ビジランテ戦闘能力指数測定値は、余裕で0級レベルに達していた。
ビジランテ戦闘能力指数測定装置……それは、Nが仕入れてきた装置である。かなり高性能で、どこから持ってきたのか不明である。高性能AIが3基組み込まれており、戦士の身体の動きから、潜在的な戦闘能力をも測定する。
キッド:「1次試験はクリアだな。ライオネル」
ライオネル:「はい!」
問題は、2次試験である。
実は、1次試験クリア者など、たくさんいる。
それでも、0級が2人しかいない理由は……
キッド:「どうだ? N?」
Nは眼で答え、ライオネルと手合わせをしたいと指示を出した。
キッド:「よし……」
ギャラリーはたくさん集まっていた。
全員、組織の人間である。
そして……
――― ――― ―――
・「ライオネル 」VS「N」
なるべく少ない手数で倒せという指示に、ライオネルは拳にエネルギーを込めた。
――パチンッ
キッドが、指を鳴らした瞬間……
ライオネルの巨体が消え、強烈な拳が、Nに向けられた。
しかし……
ライオネル:「ゔっ……」
ライオネルの拳はNには届かなかった。
それだけではない。
まるで見えない壁に阻まれた様に、身動きが取れない……
ライオネルは仰天し、狼狽えた。
まるで、全身にくぎを打ち込まれたような痛みを覚えた……
その釘で見えない壁に固定されているかのように、動けない。
ライオネル:「ぐっ……ぐうう」
ライオネルは倒れた……が、渾身の力を振り絞ってまた起き上がる。
Nは目を見張る。
ライオネルは起き上がり、また拳を構えたが……
泡を吹いて倒れてしまった。
ギャラリー達も、あらゆる死線を潜り抜けている戦士であるが故、色々な惨状を見慣れているはずだ。だが、1級最強レベルのライオネルが一手も触れられないままに戦闘不能となってしまう……
ライオネルの1次試験通過に沸き立っていた会場は、恐怖に沈黙した。
――― ――― ―――
フレイム:「格段に強くなってるわね……」
キッド:「ああ」
――ポンポン
いつの間に背後に回り込んだのか、Nはキッドの肩を叩き、メモを手渡した。
そこにはこう書かれている。
キッド:「ライオネルがこの葛藤を乗り越えたら、0級に上げてやれ」
ライオネルは、暫くしてから、ようやく復帰したため、0級に名を並べることとなった。
――― ――― ―――
・キッドと言う男
キッドは元々、とある組織の人間だった。
その組織の名は「Numbers」……今は無き、怪戦士集団である。
Numbersはとある禁忌を犯し、トラヴェル軍・戦士連合本部の連合軍の強制捜査を受け、解体となったとされている。当時は、北方支部、南方支部設立以前だった。
Numbersは、非常に層の厚い集団で、当時上位層を担っていた残党が、現在どこへ消えたのかは知られていない。
一体、Numbersは何の禁忌を犯したのか。
その事実は、現在もなお伏せられる。
Numbersも、ビジランテと同様に、いくつかの階級を設けており、上位2階級所属の戦士のみ、戦士連合本部に登録指定の届出を出すように通告されていた。
当時、上位2階級に、キッドは所属していなかった。
それゆえに、キッドがこの組織を旗揚げした際も、たとえ馬が合わずとも、戦士連合やトラヴェル軍と、共存の道を辿れたのである。
――― ――― ―――
・Nと言う男
では、謎に満ちた最高戦力「N」は?
裏切り、陰謀、策略が基本言語である裏社会では、組織を乗っ取ろうなどと言うクーデターもまた、当たり前のように起こる。
1級レベルが徒党を組んだり、金に任せて強い野生戦士などを外部委託すれば、キッドやフレイムを打ち倒すことも可能かもしれない。
もちろんそれが叶わないのは、Nの存在による。
Nが組織に入ってきた時のことを、キッドもフレイムも、忘れるに忘れ得ない。
……
……
……
キッドは突然、得も言われぬ恐怖を感じたという。同時に異常を察知したフレイムと、本部基地の入り口で顔を見合わせた所、1級の幹部に連れられ、小さなメモを携えてきたその男が来た。
「この男は、口が利けないんですが、非常に役に立つ男です」
その男を見て、キッドの恐怖は、驚愕に変わった。
キッド:(この男、見覚えがある。確か……)
キッドは昔、Numbersでとある大きな仕事をやってのけ組織に大きな利益をもたらしたことで。ボス直々に褒美をもらったことがある。
その時、Numbers本部基地にいた幹部達の中に、この顔を見た気がする。
他人の空似だという可能性もある。
だが、0級の2名をうならせるこの強大な実力を、それ以外にどう説明するのか。
ここからは、キッド、さらにフレイムの憶測になる。
……
……
……
恐らくNは、亡き組織「Numbers」の重要人物である。
それならば、戦士連合本部に登録指定もある戦士に違いない。だからこそ、戦士連合に網をかけられないようにするために、わざと1級以上に昇格しないのである。
Nには何か、目的があるのか。
Numbersが解体された理由、Numbers上層部が犯したという禁忌に、そのヒントがある。
これもまた憶測であるが、Numbersのボスは、戦士連合本部上層部の何者かの汚職の濡れ衣を着せられたのではないか、ということ。
そしてNはその事実を知っている。
Nが、時折無言を以て垣間見せる憤怒。
キッドもフレイムも、その矛先が戦士連合本部に向いていることを、薄々と察していた。
ところで……
Nの強さが途轍もないと分かったのは、Nが入団してから、かなり後のことだった。
――― ――― ―――
・最初で最後のビジランテ反逆事件
キッドは、Nの素性を調べようと、本部にNを配置していた。
Nは、口が利けないが故、出来る仕事は限られていたが、こつこつと怪物を倒し、業績を上げる、熱心な男だった。
むしろ、口が利けない以外に出来ないことの無いような男だった。
ライオネルが、1級に昇段、そしてNが2級に昇段したのち、事件が起きた。
クーデターである。
徒党を組んだ1級の反逆者3人が、キッドの息の根を止め、実権を握らんとしたのである。
当時は、フレイムが仕事で、遠出している所だったのである。
1級になったばかりのライオネル含め、居合わせたキッドの親衛たちが応戦したが、あっという間に押し込まれた。
「死ね! キッド」
――バキュンッ! バキュンッ!
凶弾が発射され、キッドが狼狽えたその時。
――キンッ!
突如現れたNが、腕で銃弾を弾いた。
「あァ?」
突如現れた2級証をつけた男に、反逆部隊は目を丸くする。
しかし、目を丸くしている暇などなかった。
――パァン!
――パァン!
――パァン!
反逆部隊3人に、1人1発ずつ、Nは拳を叩きこみ、あっという間にKOしてしまった。
ライオネルと、キッドは、それを目の当たりにしたのである。
フレイムが帰還した後にも、Nは凄まじかった。
反逆首謀者3人の胸倉をつかみ上げ、物凄い眼で睨みつける。
0級の二人や、捜査官、目撃者のライオネルが揃って縮み上がる迫力だった。
その筆談から、Nは、彼ら3人が戦士連合から金を貰ってやったのではないかと言うことを疑っている様子だった。
その後、3人は戦士連合本部に身柄を引き渡されたが、精神を崩壊し、そのまま亡くなったという。
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