【長編】高校の七人「過去録~シンジの嫌な記憶~」
幼い頃、、、
シンジは虐められがちだった。
子供たちの中で、カーストが低かったのである。
ぐずぐず泣いているシンジを見かねた亡き祖父は、知り合いの格闘道場に、半ば放り込むようにシンジを入れた。
その道場……
実は、極道の戦闘員養成所だったのである。
もちろん祖父はそれを知っていた。
暴力団規制法の施行により、現代でこそ排斥されつつあるが、祖父の時代には、ヤクザは一般的なモノだった。
表社会・裏社会で、法の陣営が交代する時代だったのである。
「組長、うちの孫は気骨がねえ。ちょっと頼んでもいいかい。小坊だが、物分かりはいいぞ」
「よっしゃ」
その格闘道場は、アメとムチの差が激しい場所だった。
竹刀で打たれる、殴られる、蹴られる、怒号が飛ぶ……一寸先どころではない闇の中を生きるような裏社会で、使い物になる人材を育成するためなのだから、当たり前のことだった。
それでも、シンジは心根の強い男だった。
普通の子だったら、1日で逃げ出していたことだろう。
だがしかし、常軌を逸していたのは、アメの方だった。
竹刀の雨を浴び、あざだらけで崩れ落ちたシンジに、
「よーしよしよしよしよしよし!!!」」」」」
刀傷のある男、刺青のある男、小指の無い男達が、群がってシンジを褒め称える。
それも、猫撫で声と、気味の悪い笑顔で。
教育と言うよりは、まるで猛獣の調教のようだった。
――― ――― ―――
……
……
……
「道場は潰れた」
道場で習い始め、3年ほど経過した、ある日突然、祖父は険しい顔でそう言った。
シンジは、それ以上祖父に何も聞くべきではないと察した。
おおよそ祖父が孫にするとは思えない、険しい表情だったのである。
恐らくだが、組員が不祥事を起こし、組そのものが雲隠れとなったのである。
……
……
……
――― ――― ―――
極道譲りの精神力と、身体能力を身に着けていたシンジ。
だが、シンジはやはり、悪童たちの辱めの的となっていた。
当然である。
一度いじめられっ子になってしまうと、よほどのきっかけが無い限り、その雰囲気や立場を改めるのは難しいことである。
悪童たちが、こぞってシンジを苛める。
給食セットを女子トイレに投げ込み、上履きを金魚鉢に投げ込み……
シンジは、暴力の恐ろしさを、暴力を以て学んだ。
暴力は、暴力を学ぶ以外に使ってはいけないと。
だが、限界だったのである。
シンジの心根の強さが、裏目に出る形となった。
限界を遥かに超えて、爆発した。
――パァン!
その日、その時……風船が割れたかのような音が、教室に響き渡った。
シンジを虐めていた女の子が、倒れた。
……殴ったのである。
シンジは、女の子の横っ面を、拳骨を固め、渾身の力で殴ったのである。
女の子は血を吹いて気絶した。
「てめえ!」
もう1人の悪童が、シンジに掴みかかった。シンジはその子の手首をつかみ、腕をねじ上げ……
――バキッ
……折った。
クラスメイトは、悲鳴を上げることが出来ないほどに、恐怖した。
――― ――― ―――
……
……
……
それから、どうしたか。どうなったか。
シンジには、記憶が無いわけではない。
女の子の顔には傷がついただろうし、歯も折れていたかもしれない……
男の子の腕は、元通りにくっついただろうか……
とにかく、物凄い修羅場があったに違いない。
シンジの生存本能は、必死でその期間のことを隠す。
シンジと言う生物を構成するうちの大多数の細胞が、思い出そうとする行為をしようと考えようとすることすら止めさせる。
本物の黒歴史なのである。
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