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【創作怖い話】あかいしぇん

 何のことはない日常の出来事が、時に怪談話に発展することもある。

 今回のことも、他愛ない日常の出来事にほかならないのだが、やっぱり、私としては怖かった。
 今回のこと、とは言っても、内容はかなり昔の話である。
 ――― ――― ―――

 家に、お客様がやってきた。
 遠い親戚の親子三人である。

 子供は、2歳になって日が浅いが、もう言葉をしゃべる。
 私はその時、確か小学校低学年だった。

 決して幼くはなかったが、子供の部類だったため、2歳の子と遊んでいた。
 帰りがけ、その子が駄々をこねた。

「やーや!やーや!……」
 帰りたくないと喚いているのである。

 だが、その子は、私の顔を指さし、一言……
「あかいしぇん!!!」
 ……そう叫んだ。

「はいはい、またねー」」

 ……半ば強引に帰らせた。
 それが、その年の5月のGWのことである。

「あかいしぇん」
 「赤い線」と言っていたのか、「赤井さん」と言っていたのか……
 ちなみに私は「赤井さん」ではない。

 気にはなったが、しばらくすると忘れてしまった。
 その年の8月のこと……
 
 私は友達とクワガタを採りに行った。
 カナブンしか採れず……疲れてベンチに腰掛けた時……

「おい!!おい!!!」
 友人が私の手を見て、慌てふためいた。

「うわっ!」
 黒いクモがいた。
 しかも、ただのクモではない。
 かの有名な、セアカゴケグモだった。

 反射的に振り払ったおかげで問題なかったが……

 それから暫く……というより3年も経った、小学校高学年のある日……
 「あかいしぇん」って赤い線のことで、セアカゴケグモのことを言っていたんじゃないか?

 そう思い立った。

 しかし、本人に聞いてもそんなこと覚えていないだろう。
 だが、気になった私は、両親に尋ねた。

「あの人達って誰だったの?」

 心当たりが多すぎたようだが、いつ訪ねてきたかを述べると、誰だかは分かったようである。
 しかし、父と母は、しばし戸惑ったのち……口を開いた。

「あの子ね。○○さんとこの子なんだけど。実はね、2年前に亡くなっちゃったの。交通事故でね。可哀想に……」
「…………」

 結局「あかいしぇん」の意味は分からないままなのである。
 果たして、ただの幼児の戯言に他ならなかったのか。

 一体、何だったのだろうか。
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〇更新記録
・2020年12月1日 作成
・2024年3月10日 更新
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