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【創作怖い話】餓鬼大将を呪ってしまった

 あれは、本当だったのか。
 それとも、偶然だったのか。

 小学生の時だった。
 我々のスクールカーストの最上位にいた、餓鬼大将。
 サッカーが得意で、顔もカッコよく、女の子にモテた。

 その代わり傲慢な性格で、よく思いやりやデリカシーを欠いた発言や行動をしては、反感を買っていたと思う。

 何でそれでも人気が落ちないのか。
 陽キャって腹立たしい。
 ――― ――― ―――

 あの時も、どうしてだったかは明確には覚えていないのだが、些細なことで、餓鬼大将に強く激怒した。
 むしゃくしゃしていたその時だった。

「ねえ、呪わない?」

 席が隣の女の子が突如、そう話しかけてきた。
 この子は、いわゆる不思議ちゃんで、占いや儀式などが趣味らしかった。
 当たる訳では無かったようだが。

「アタシもムカつくからさ。あいつ。協力するわ」

 呪いの手法は単純だった。
 絵の上手い不思議ちゃんが、餓鬼大将の顔と名前を紙に書く。
 そして、針でその顔の部分を突き刺したのである。

 私は何もやってない。

「オッケー」
 不思議ちゃんは紙を丁寧に折りたたみ、しまいこんだ。

 ……その直後だった。
 つい先ほどまでピンピンしていたはずの奴の顔が、突如として青くなった。
 苦しそうに机に突っ伏し、小刻みに震えていた。
 目を離せずにいると、奴は嘔吐したのち、気絶してしまった。

 通報を受けた担任と養護教諭が即座に飛んで来て、奴の身柄を運んでいったのを覚えている。
 不思議ちゃんの顔に目をやると、彼女は三日月のような笑みを浮かべた。

「死ぬのか?」
「さあ?」

 恐怖して、その後は何も聞けなかった。
 ――― ――― ―――

 奴はその後、早退した。
 次の日は、普段通り学校に来たが、思えばその時から、あいつの傲慢な性格が、無くなっていた。

「あいつ、性格変わった?」
「う、うん」

 別の友人とそう噂したのを覚えている。
 変わったのではない。別人になったのではないだろうか。
 呪いによって、奴の魂は死んでしまい、別の魂が記憶を引き継いだのではないか?

 それからは、今までとは少々異なる日常が始まったと記憶している。
 ――― ――― ―――

 あれから数十年経つ。
 不思議ちゃんも、餓鬼大将も、同窓会には現れなかった。
 誰も連絡先を知らず、今何をしているのか、消息不明。

 私は思う。
 顔と名前を書いて針を刺しただけで、そんなことになるとは思えない。

 あの儀式はただの見せかけであり、不思議ちゃん、あるいは、影に潜む何者かが、本物の呪いを行っていたのではないか……と。
 それならばいい。

 しかし、俗に言う、「人を呪わば穴二つ」
 あの儀式が、何らかの条件を満たして成立した呪いそのモノだとするならば、私も奴の魂を殺した代償を負わねばならなくなる。

 もう負っているのかもしれない。

 あの不思議ちゃんは、協力するふりをして、その業を私に負わせたような感じがする。
 そうでないのなら、そもそも何故、不思議ちゃんは私を立ち合わせたのか……

 何とか振り払わねば。
 いや、手遅れか?
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〇更新記録
・2022年10月2日 記録
・2023年12月31日 記載
・2024年2月21日 更新
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