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【創作怖い話】○○地区の井戸

 小学校低学年のことだったと記憶している。
 ○○地区のどこかにあると言う井戸に、幽霊が出るという噂が広まった。

 幽霊、UMA、UFOなど、超常現象に興味をそそられる年頃の私たちは、沸き立った。

 井戸ってどこにあるの?
 本当に幽霊出るの?
 なんかいわくがあるの?
 ……

 私たちの歓喜と興味の矢面は、○○地区出身の同級生達に向けられた。
 しかし、ノリの良いはずの彼らは皆、口を揃えて言った。

「知らない」
「井戸なんてないよ」
 子供心ながら、何かを隠しているような口振りだった。

 それからしばらくして、どういうわけか、井戸の話はタブーとなり、口に出してはいけないこととなった。

 先生に言われたわけでもなく、保護者に言われたわけでもなく……

 これまたおかしなことに、理由も根拠もなく「井戸の話はしてはいけない」という事実のみが蔓延したのである。

 今になって思う。
 明らかに、何者かによって、厳密な情報統制が敷かれたのではないか……と。
 ――― ――― ―――

 それから月日が経ち、高校生の時だった。
 ○○地区にある友人の家を訪れていた私は、ふと、奇怪だったあの出来事を思い出し、友人に訪ねた。

「あの井戸って何だったの?」

 友人は、特に嫌がる様子もなく、言った。
「いや、俺たちもよく分からないんだよね。でも、確かに何かおかしかったよ、あの出来事は。隣の家のおじさんなら何か知ってるかも」

 丁度その時、隣の家のおじさんが外へ出ていたため、友人と私はおじさんの元へ行き、当時のことについて尋ねた。

「ああ〜。井戸は確かにあったけどもう埋めちゃったよ。幽霊?そんなのは知らないね? いわくもないと思うよ」
 おじさんは軽くそう言った。
 ――― ――― ―――

 ここで終われば良かったのだが。
 おじさんから離れたその時、近くで遊んでいた小学生くらいの子が、私たちに言った。

「井戸の場所知ってるよ? 教えてあげる」
 私たちはその子に連れられ、住宅街の中に佇む、林の中に踏み入ろうとしていた。

 その時だった……!

「ゴラア!!!」
 閑静な空間を切り裂く、怒号。
 先程のおじさんが、顔を真っ赤にして走ってくるなり、その子に怒鳴り散らした。

「行ぐんじゃねえよ!!!」
「行ぐんじゃねえっつってんだよ!!!」

 私たちはその剣幕に恐怖し、そそくさと退散した。
 一体、何故なのだろう。

 埋められているはずの井戸というものは、そんなに危ないモノなのだろうか?
 林というだけで、そこは特に危険地帯というわけではない。
 明らかに異常だった。

 間違いなく、○○地区の井戸には何かある。
 そしてあのおじさんは、必ず何かを隠している。

 以降、特に進展はない。
 井戸があったと思われるあの林も、いつのまにか切り拓かれて空き地となっていて、一度訪れたが、井戸やその跡地などは見当たらなかった。

 一体、何だったのだろうか?
 ――― ――― ―――

〇更新記録
・2022年10月2日 記録
・2023年12月31日 記載
・2024年2月21日 記載
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