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【創作怖い話】六本脚

 私は、どちらかというと、自身を肝の据わった方だと思っている。

 中高生のころから、夜中の散歩を趣味とし、田舎の夜道を1時間ほど、星の光や、月の光のみを頼りに、懐中電灯なしで歩き回っていた。
 今思い返すと、カッコつけているようでちょっとイタい。

 それからも、心霊スポットなんぞ何回も行ったが、一度も幽霊を目にしたことはない。
 そもそも存在を信じていない。

  TV、インターネット、本で、恐怖映像やUMA映像、心霊写真などもよく見ていたが、どれもフェイクにしか見えなかった。
 わざとらしくおびえるタレントやアイドルを、鼻で笑っていたものだ。

 怖い話なども聞くが、いるのかいないのかもはっきりしない幽霊というものを、視えるという前提で話を進める噺家の方を見ると、正直アホらしさを覚える。

 しかし、現実主義にして科学派の私も、名状しがたい、得体の知れないものを見たことがある。
 ここに記す話は「水路の怪物」と似た内容になるが、私が、実際に経験した話である。

 ……
 ……
 ……
 私が高校2年の時の、秋のことだった。

 その日は、天気が悪かった。
 朝から雨がザーザー降っていた。
 まだ夏の暑さも残っており、じめじめとした不快な日だったのを覚えている。

 しかし、日が沈むと一転、雨はやみ、心地よい風が吹いてきた。
「道路は湿っているとはいえ、今夜は散歩日和だ」
 そう感じた私は、夜の田舎道を歩き出した。

 何故だかわからないが、その日はなんとなく、いつも持って行かない、懐中電灯を持って行ったのだった。

 満天の星空に、月が輝いていた。月の光で、影ができるほど明るい夜だった。
 突然歩いてきた人間に驚いたのか、バシャッと魚がはねた。
 水音から察するに、大きな魚だった。恐らく鯉だろう。

 突然のことで、さすがの私もビビった。
 明るいとは言え、夜は夜……昼間ほどものが見えやすくない。

 少々神経が高ぶっており、少々の物音にも、体が反応してしまう。
 続いて、ウシガエルが、「キュッ!!!」と鳴いた末に、バシャッと飛び込み、再びビビった。
 もう川に近づくのはやめようと、私は森の方へ向かった。

――ガサガサガサッ!
 何かが茂みにいる。

 大きい。
 懐中電灯をつけると、目が反射した。

「ニャーン」
 猫だった。
 丸々とした白黒の、しっぽ曲がりの猫がいた。

 ここは、住宅地から離れた場所なのに、人に慣れており、おまけに肥えている。
 農家の人に餌付けでもされているのかもしれない。

 猫は、私についてきた。 
 ジブリ映画「猫の恩返し」「耳をすませば」に出てくる、ムーンを白黒にしたような雰囲気の猫だった。
 しばらく進んで、森に差し掛かった時、猫が止まり、うめき声を上げた。

「フゥウウウウ……」
「どした?」

 私は猫を撫でた。
 尻尾の毛が逆立っている。

 その時、
――ガサ…ガサガサガサッ!!!
 茂みから何かが出てきて、またまた私はビビった。

 すかさず懐中電灯で照らす。
 出てきたものを見て、私も硬直し、身の毛が逆立ってしまった。

 大きさは猫ほどだが、猫ではない。
 タヌキでもない。
 イタチでもない。
 アライグマとも違う。

 その動物は、どう見てもレッサーパンダにしか見えなかった。

 何故、レッサーパンダがここに?
 どこからか逃げてきたのか?
 誰かがペットで飼ってたのか?
 ……

 実際、日常生活において、いきなりレッサーパンダと出くわそうものなら、そんな疑問を持つに違いない。
 しかし、当時の私には、そんな疑問を感じている余裕はなかった。

 何故なら、そのレッサーパンダには、脚が六本あったのである。

「二匹が連れだってそう見えたんじゃないの?」
「子供でもいたんじゃないの?」

 みんなはそういうが、違う。
 懐中電灯で見ながら確認したのである。
 あの足は、明らかに一つの身体から生えていた。

 六本脚のレッサーパンダ……奴は、こちらを一瞥した末、ゆっくりと反対側の茂みに潜っていった。

 未だに何だったのか分からないが、ムーンのおびえ方が異常だったのは、不気味だった。

 科学がどれだけ進もうと、自然の真理を解き明かすことはできない。
 いや、科学で解き明かせるほど、大自然の仕組みは簡素なものではない。

 それ以来、夜中に散歩をするときには、必ず懐中電灯を持っていくようになった。
 ……
 ……
 ……
 ――― ――― ―――

 余談になるが、それからは何度かムーンとあい、一緒に散歩した。
 最後に別れてから、もう10年以上経っている。

 恐らくはもう、この世の猫ではないのだろう。
 もしあっちの世界で、また会うことがあったなら、私はきっとムーンに「あいつ、何だったんだろうね?」というだろう。
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〇更新記録
・2020年11月29日 記録
・2023年12月31日 記載
・2024年2月21日 更新
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