見出し画像

【創作怖い話】水路にいた怪物

 恐らく幽霊ではないとは思うが、もし、この話に出てくるモノを見た、あるいは、情報を知っているという方がいたら、是非教えてほしい。
 ――― ――― ―――

 私の生まれは、とある都市の郊外にある、田舎の里町である。

 中心部の都市化につれて、ポイ捨てが目立ったり、川がコンクリート漬けにされたりするなど、環境汚染もあったが、今なお、美しい自然が残る地域である。
 ――― ――― ―――

 あれは、小学6年の夏のことだった。
 炎天下の中、私は、仲良しの友達と一緒に遊んでいた。

 とある水路に、カメがたくさんいるということで、カメすくいに出かけたのだった。
 ――― ――― ―――

 その水路は、田んぼに水を引くためのもので、コンクリートで固められており、幅が1mほど、全長が30mほどあり、田んぼに沿って曲折していた。

 10mほどさかのぼったところで、水草の影に隠れていたカメを2匹捕まえた。
 どちらも、外来種のミドリガメであった。

 さらに少し進み、メダカや、牛蛙を目にして、引き返そうとした。
 その先は、草が生い茂り、通れないと判断したからである。
 また、徐々に水位も浅くなっていた。

 しかし、友達が「もうちょっと行ってみよ?」と言うので、マムシやヤマカガシなどに注意しながら、持っていた網の柄で草をなぎ倒し、進んでいった。

  少し進んだところで、友達が立ち止まり、何かを見つめて言った。

「あれ何?」
「?」

 異様なモノがいた。
 生物には違いない。
 水路の底に積もった木の枝や、泥にまみれて、全体像は良く見えないが、何かがいるのは確認できた。

 とがった顔に、丸い、大きな目が二つ。
 濁った緑色の皮膚で、ゴツゴツしていた。

 カメのような、蛙のような、鰐のようにも見えた。
 見えている部分から推定するに、全身は60㎝ほどだろうか。

 ……でかい。
 持っている網に入り切る大きさではなかった。

 何より、得体の知れないものを前に、動揺して、網を構えるどころではなかった。
 あたりに、カメムシが出すような異臭が漂いはじめた。
 もしかしたら、ソレが放っていたのかもしれない。

 私も友達も、金縛りにあったように動けなくなった。

「何だあれ……」
 かろうじて動いた口で、私は友達にそういった。

 刹那!
―バシャッ!!!

 ソレが、泥埃を巻き上げ、物凄い速さで下って行ってしまった。
 残念ながら、濁った水のせいで、ソレの全体像は確認できなかった。

 ヒレがあったのか、それとも足があったのか……
 甲羅はあったのか……
 尻尾はあったのか……

 しかし、ヤツが動き出す瞬間、私と友達は見てしまった。

 逃げる直前、奴は口を開いた。
 地球上にいる、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、ほ乳類……
 殆どの生物の口は、上あごと下あごを備えており、上下に開くのが普通だろう。

 しかし、ヤツの口は、クワガタのツノのように、左右に開いたのである。

 一瞬のことだったが、その口には、雷魚のように、とがった牙が生えていたように見えた。
 ――― ――― ―――

 あれから何年もたつ。
 しかし、その生物の情報はないし、見たこともない。

 この話を人にすると「カミツキガメじゃね?」「スッポンじゃね?」という意見が目立つ。

 確かに、大きさで見れば、カミツキガメの可能性もあるが、甲羅に当たるものは見られなかったし、何より目のつき方が異なっていた。

 目のつき方で言えば、スッポンが近いかもしれない。種類にもよるが、60㎝に達する個体もいると聞く。
 左右に開いた口と、キバのことを考えなければ、スッポンかもしれないと思うが、いざ本物のスッポンを見たときに、私も友達もしっくりこない。
 顔と目が、アレより小さすぎるのである。

 また、誰かが逃がした可能性を除けば、そもそも私の地元はスッポンの生息地ではないのである。
 奇形、突然変異、新種……いろいろ考えられるが未だにヤツの正体は分からない。
 ――― ――― ―――

 捕まえられなかったことを後悔はしていない。
 むしろ安堵している。

 「あれは捕まえるべきモノではなかった」とその友達とは、今でも会うたびに、顔を見合わせ、頷く。
 ――― ――― ―――

〇更新記録
・2020年11月29日 記録
・2023年12月31日 記載
・2024年2月21日 更新
 ――― ――― ―――

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?