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クオカードを拾って届けた話

それは何の気なしに、そこに落ちていた。午前中に駅に行った時に、通路にクオカード(3,000円分)が落ちていた。3,000円、、なんとも言えない数字である。500円くらいなら諦めが付くし、10,000円ならば大金だ。しかし、3,000円。思えば、拾わずにそのまま置いてくれば良かったのだが、近くに交番があるので、そこに届ければいいかと軽い気持ちで拾ってしまった。

そして交番に行くと、ドアに札が掛かっているのが見える。嫌な予感だ。その予感は的中し、どうやらパトロールのために出払っているらしい。用がある場合は最寄りの警察署に掛けるように書いてあった。隣に小さい配電盤のような箱があって、開けるとプッシュ式の電話が掛かっている。上には最寄り警察署の電話番号が貼ってある。これで掛けろということか。だが、受話器を取っても、うんともすんとも言わない。もしや壊れている…?箱の隣にはインターフォンがあったがそれは故障中で使えないらしい。インターフォンに引き続き、お前もか…。というか、もし本当に緊急の場合はどうするんだ。。たしかにこのご時世、携帯電話を持っていない人のほうが少数派だが、そういうことではない。

一旦、家に戻った後、改めて最寄りの警察に電話してみる。最寄りとはいえ、数km離れているので、さすがに届けにいくのは面倒だな…と思っていた矢先、電話口から、

警察官「(とても申し訳なさそうな声で)こちら方面に来た時で構いませんので(警察署に)届けて頂けませんか?書類を作成する必要もありますので…」
自分「(まじか)今月中なら行く用事ありますけど…」
警察官「遺失物の取り扱いは、拾ってから1週間以内という法律があるので…」
自分「…わかりました」

拾ってしまったものは仕方がない。いつまでも持っているのも嫌なので、無理やり他の用事を作って、届けることにした。それにしてもあの電話口の警察官はなかなかのやり手だ。最初、電話口ではなかなかドスの利いた声で応対していたが、こちらが落とし物を拾ったことを伝えると、手の平を返すように柔らかい口調になったのだから。

警察署に行くと書類を書かされるかと思ったが、そういうことは全部警察の人がやってくれ、2-3分待った後、名前と住所を聞かれた。そして、ここでわかったのはクオカードを拾って届けても、拾った人に何も返ってこない!ということだった。現金ならば、ある期間を経過した後、落とし主が現れなければ、拾った人の物になるようだが、カード類はそういうわけにはいかないらしい。ははぁ、なるほど。

3,000円とはいえど、落ちていたクオカードを自分のものにするのに気が引けたから届けようと思ったが、まさかこんなに移動することになるとは…。損得勘定で考えるのだとしたら、今日の行動は間違いなく損に値すると思うが、たぶんその価値基準で判断してはいけない。後ろめたさのようなものが無くなることが一番と、途中から感じていたからだ。しかし、一つ気になるのは、もし、持ち主が現れなかったとすると、あのクオカードはいったいどうなるのだろうか。警察で聞くに聞けなかった疑問だけが残ってしまった。

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