マガジンのカバー画像

140字小説

33
140字以内の小説をまとめました。 全作無料で読めます。有料版との違いは、目次+あとがきの有無です。
運営しているクリエイター

2014年5月の記事一覧

天使

天使の手羽先1本80円。

タレをかけながらジュージュー焼いているヒゲ面のおっちゃんは、ときおり背中に手を伸ばしては、生えてきた羽をもぎ取る。

おっちゃんに走る一瞬の切ない表情と、あえぎ声。

客足は一向に伸びる気配がない。

もっとみる

マッチ売りの雪女

マッチ売りの雪女から、マッチを買う。湿気ってないか不安だ。

「もう春なんだからマッチなんて売れないでしょう」
「どうしてもコタツがほしいんです」
「溶けないの?」
「少し溶けるぐらいが気持ちいいんです」

知らなくてもいい性癖を聞かされた気分で、帰宅する。そろそろコタツはしまおうと思う。

もっとみる

ひとり遊び

横向きに寝転び、枕に頭を沈ませた。

まぶたを枕の生地に触れさせて、まばたきをする。

かしかし、と、まばたきをする度に、まつげが生地をこする音が聞こえる。

かしかしかし。

まばたきの回数を調節して、リズムを作ってみたりする。

まつげが枕にこすれる音で遊んでいるのは今、世界中できっと私だけ。

もっとみる

記念日

交際が始まった記念の日に、彼はこう言った。

「これが第一話なんだ」

何かひとつ思い出が増えるたびに、彼は話数を説明する。

「いま第八話ぐらいだね」

「今回で十七話かな」

あるとき彼と大喧嘩をしてしまい、恐れていた言葉が降ってきた。

「今日で最終回だから」

でも私は、再放送がある事を信じている。

もっとみる

Re猫

めそめそしっぱなしの私を見かねて、猫がプリンターから出力されて帰ってきた。

二次元になった私の猫は、ぺらぺらと宙を舞っていたかと思えば天井に張りついていたり、生前は入りたくても入れなかった本棚の隙間に挟まってご満悦だ。

ただひとつ困りごと。

おいしい餌の描き方、誰か教えて下さい。

もっとみる

最終セーブ

クリア直前でセーブして、電源を切った。

エンディングは見たくない。

どんなに魅力的な物語も、いつかは幕を下ろす。

だから最後まで見届けない。

そうすれば最高のクライマックスのまま、物語は永遠に。

「でもその先の事、想像つくでしょ?」

夢の中で主人公が悪戯っぽく笑う。

あなたを死なせはしない。

もっとみる

傘として生まれたので、雨の日にはよく差された。

日除けにも、風除けにも、雪除けにも使われて、人と自然をさえぎるのが仕事だった。

「自然は人が苦手だから、人に傘を作らせて、触らないようにしている」

そんなことを云うのもまた人だった。

自然は何も語らず、人は自然を語る。

傘はどちらでもない。

もっとみる