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IZU is creating Truth, Goodness, and Beauty. 次世代の幸の恵みを未来創造から考える Vol.4

〜本との出会いから考える
ITO伊豆高原のまちづくり系譜

ー2024.10.1
フォト&ビデオコラム薄羽美江(UsubaYoshie)

– 伊豆高原に暮らすようになってから、雑木林や海辺の風によって、私の描く絵も変わってきた。ひとことでいえば都会的感覚に被われた絵から自然的感覚が横溢した心象風景に変容したのだ。私はいつのまにかアニミスムの画家になっていた。それとともに私は東京生まれだけれど、伊豆高原を私の絵の故郷にしようと思うようになった。
 − 『森のアートカフェNo1 伊豆高原のアトリエにて』 谷川晃一


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伊豆の光景ひとつひとつに、私たちの内側にひそむ『望憶(ぼうおく)』が呼び覚まされていくことに気づくようになりました。海や山、野道や雑木林の傍らに身を置き、見過ごしていた花の花弁のひとつひとつになつかしさを想うこの感覚は何なのでしょう?


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それは、ちいさなこともみのがさないように、心のありかを取り戻す時の流れなのでしょうか?なつかしさの奥にあるなんともいえない甘露。幼い頃の、ひとつひとつのあらたな出会いに心をときめかせた記憶。そして、大人になってから心を震わせた喜びの記憶でしょうか。


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画家の谷川晃一さんは、1988年に東京から伊豆高原に移住された大先輩!共に画家でいらっしゃる奥様・宮迫千鶴さんと共に、かの『伊豆高原アート・フェスティバル』を立ち上げられ、美しい緑が輝く皐月の伊豆高原に全国から人々を集め、伊豆高原文化が憧憬とともに知られるところとなりました。クリエーター、画家や作家、アーティストの皆さんがそれぞれの自邸を開放して100件ほどものギャラリーを連ねておおらかに開催されたアートフェスティバルは、25年間連続開催され、現在では『五月祭』と名前を変えて継承されています。谷川さんと宮迫さんのスピリットは確かにこの地に息づいています。


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そして、城ヶ崎に広がる別荘地内にある「麻の実ギャラリー」のご主人、麻生良久さんとともに親しく共鳴されて、同人誌『雑木林』をお二人がはじめられたのは2010年のこと。表紙絵を創刊号から重ねてこられた2022年10月号は12周年記念号となり、巻末にそれまでの歩みの表紙絵が一堂に会している豪華な一冊です。私もご縁を授かり、第22号から「みえないものをみるちから」とタイトルして掲載していただくこととなり、先輩方のこれまでの来し方と豊穣な時代精神に学ばせていただいています。


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谷川さんは、ゴーギャンがタヒチを描いたように、シャガールがロシアの寒村ヴィテブスクの物語を描いたように、ゴーキーがアルメニアの森の心象風景を描き続けたように、あるいは生涯カタロニアの詩を描き続けたミロのように、伊豆高原をご自身の作品の故郷にしようと決めたのだと書き残されています。移住して8年目を迎え、この伊豆・伊東に、同じような思いを寄せるようになりました。


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私たちはアーティストではありませんが、自らが住まう「まちづくり」という身近な創造を、市民としてコミュニティとして努めることができるのかもしれないと思います。例えば、伊東市の新図書館プロジェクトへの市民の関心は高く、今後は私たちが住まう伊豆高原にも図書館分館の設立を望む声が高まっています。


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2024年、当初の新図書館計画の入札が不調であったことから、次年度へのあらためてプロジェクト推進のための市民アンケートが行われています。分館への取り組みは、本館建設が定まって以降となるのだと仮定していますが、今から地域市民のヴィジョン対話を重ねていこうと、地域創生を目指す、伊豆高原エリアまちづくり協議会では、伊東市新図書館分館部会が立ち上がりました。


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上記のようなこれまでの取り組みは、今後、館の建築はもちろんですが、その設計の前提となるキューレーションの方向性、動線デザインについてのディレクションが、極めて重要であると実感します。しかしながら、そのような仔細な情報は、なかなか市民へ伝播されることが困難です。永年、ご一緒させていただいている東京・東陽町のギャラリーエークワッドでは、昨年「本のある風景―公共図書館のこれから」展を開催され、国内外の公設図書館の「今」を、綿密に取材、展覧をしてくださいました。



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今年1月には、伊東観光会館別館において、のべ400名ほども集めた市民主催のオーガニック・エシカルマルシェへも、ギャラリーエークワッド館長をお迎えして、映画「いただきます〜味噌を作る子どもたち」上映とともに、市民活動について本のある風景展の企画のお話をしていただき市民対話を重ねました。


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特に、石川県立図書館の秀でたコンセプトと先進のキュレーション、考え抜かれたファシリティデザインについては、「知の広場」を作ると題した、以下の映像記録の中で、日本図書館協会理事長の植松貞夫氏のこれからの公立図書館についての解説や、石川県立図書館館長の田村俊作氏の図書館運用への考察、環境建築家で環境デザイン研究所会長の仙田満氏の「安心基地」「自分の居場所」への開発思想が満ちています。


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この石川県立図書館をNHKでも72時間密着取材のドキュメントが放映されたので、番組を視聴した市民からは続々と「ああいう図書館があったらいいな」という声が。実際、石川県立図書館の魅力に引き寄せられて移住した人も多く、観光に資するキューレーションは、地元県民のための図書館情報だけではなく、外来の関係人口をしっかりと掴んでいく構想に満ちています。


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伊東市立と石川県立の図書館の規模は違えど、植松理事長が語られているように、今後、創設されていく全国各地の図書館は、石川県立図書館のようなコンセプトやデザイン潮流を汲んでいくことをぜひ望みたいという、その実感は、実際に現地の魅力を体験すると、エッセンシャルなディテールは、伊東にも持ち込めるはずだと確信できるものでもあります。ぜひ、市長や市役所ご担当者には、ご視察願いたいと強く思いますし、市民参加の現地研究会を催行できたなら、どんなに闊達な対話に広がることでしょう!


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庭にはフジバカマが咲き開きはじめました。ムラサキフジバカマとシロフジバカマを庭に設えて、毎日水をかかさずに酷暑を乗り越えてくれた花々に、遠方からのアサギマダラは羽を休めにきてくれるでしょうか?


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この地への移住の先人方は、この土地の芸術文化の開花を導いてきてくださいました。思えば、それは、戦後なにもなくなってしまった昭和初期時代の困難さから、日本再生の大いなる活力を文化創生に注ぎ、その輝かしいエッセンスを後進に残してくださったようにも当時の黄金期を望憶するものでもあります。


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この庭に無数の生き物が生息し、光が注ぎ、天から雨水が恵まれ、大地が潤いゆくなかに、かつて雑木林であった山が昭和36年から代々開拓されて、現代の生活様式が発展していくことに想いを重ねます。谷川晃一さんを慕って、お仲間が移り住んできた伊豆高原。この地を心から愛され、創造的営みが巡ってきた系譜は、伊東市街地に予定されている新図書館の一隅にも、または、伊東市南部の伊豆高原エリアまちづくりの根幹にも、重ね重ねて未来創造に向かうこと、そして、次世代に何十年も世紀を超えて愛され続ける「叡智の広場」へ脈々と息づかせてまいりたいと夢みます。


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それは、昭和の時代の伊東市観光協会が今に残す、国際観光温泉文化都市―湯の花伊東のプロモーションを通じても、また、現代の観光プロモーション映像を通じても、ITOスピリットのような普遍のありようを感受できるようなことかもしれません。私たちの「時代精神を結ぶ心と本の広場」ともなるのだと感じます。



ITOならではの良さを、ぜひ、国内外のこれからの公共図書館のベストプラクティスのエッセンスを紐解き、叡智が集約されて新世代が拓かれますように。

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