総括前編:伊豆高原は夏イチゴの栽培に適しているか?


試験栽培の総括概要


総括① 伊東・伊豆高原での夏イチゴの栽培適正については、早期収量期(5-7月)から8月中旬迄の収量を考慮に入れると、概ね有望と言える。


信州大栽培ガイドの収量データとの比較方法
① 大室高原/施設園芸ハウス栽培、屋外プランター栽培の収量はS等級(6g-8g以上)の収穫値を使った。
② 信州大学の収量は、栽培ガイド資料の可販果重量のデータを使った。
〈一部要因〉
・伊東・伊豆高原の春の温暖な気候が早期収量(5-6月)の立ち上がり早さに貢献している。
・大室高原ハウス栽培と屋外プランター栽培の収量違いは、定植時期が1か月以上違うことの影響が推測される。

上図からの示唆は、伊東・伊豆高原での栽培:施設園芸ハウス栽培、屋外プランター栽培共に、早期収量+8月中旬迄収量で、相当量の期待収穫量達成を示しており、8月中旬までは、伊東・伊豆高原での夏イチゴの収穫適合性を示している。

総括② 伊東・伊豆高原の場合、5-6月の早期収量の貢献が大きい

伊東・伊豆高原では、4-5月の気候温暖さで、定植後の早期に株を育成が可能。定植前に分化した花芽を収穫に繋げられるのが、伊東・伊豆高原の栽培地としての優位性と言える。

月別の収穫推移と栽培課題

5-7月期が「収穫ピーク」
夏イチゴの主要産地である北海度、東北、長野高地等と比べると、伊東・伊豆高原の5-6月の最高/最低気温は、はるかに温暖と言え、当地での夏イチゴの栽培では、5-7月に「収穫ピーク」がまず来ることが確認された。

7月下旬-8月「小粒の収穫継続」
本年は7月から猛暑となったため、7月下旬から8月は、収穫は続くものの、S等級、SS等級の比率が大きく高まった。これは、今年の猛暑固有の現象か、それとも、高温環境をやわらげる栽培管理をしない場合、平年並みの夏の気温でも同様の結果となるのかは、来年以降の栽培試験の課題である。

9月以降の「収穫の回復可能性」
9月中は、花房・開花数の減少、猛暑中の交配不良等により、収穫粒の絶対するが著しく減少した。10月に入り収穫の回復の兆しは出て来たが、11月を待たないと5-7月の収穫レベルへの回復可能性は見込めない様子であった。
来年以降の試験栽培の課題である。

総括③ 2023年試験栽培: 5月に草勢が充分であったため、無摘花・花房摘除無しの栽培選択肢を取った

結果として、7月にS等級(6-8g)、SS等級(3-5g)の小粒果実が増えたため、総量粒数は多くなった

上図の集計評価の前提は、上物を2L等級以上、L等級、M等級、の果実と定義した。総量にはSS等級も含めるものとした。 

大室高原ハウス栽培で上物の収穫粒数が貢献したのは、5-7月の早期収量期間中であった。 伊東・伊豆高原での試験栽培では、無摘花、花房摘除無しの放任栽培であったため 7月以降にS等級、SS等級の小粒果実が急増した。


総括④ 無摘花・花房摘除無しの栽培の功罪:8-9月の猛暑下の栽培環境の課題


信州大の7-9月収穫量と、大室高原ハウスの5-8月中旬の収穫量を比較したものが下図。 8月中旬時点では、大室高原ハウスでの上物の1粒あたりの果重平均が、10.4gと、信州大の果重平均の9.7gを上回っており、無摘花・花房摘除無しの放任栽培が、上物の収穫に悪影響を及ぼしていないことが確認された。

大室高原ハウスでの無摘花の影響は、総量の1粒平均に現れている。
信州大平均9.4g,  大室高原8.0g。 無摘花により、花房の5番花以降についても収穫換算に入れているのが平均値を下げている。

統括⑤ 屋外プランター栽培の収穫果実の等級分布は、施設園芸・高設栽培とほぼ同等。 


下図は、大室高原ハウス、屋外プランター栽培の1株当たりの収穫粒数の比較であるが、等級別の分布はほぼ同等に推移した。 ハウス内環境と屋外環境では、温度条件も含めて大きな違いがあるが、5-6月の早期収量の立ち上がりを除いては、収量傾向は類似している。

総括⑥ 伊東・伊豆高原で放任栽培(無摘花、花房無摘除)の場合、課題: 夏場の収穫果実がS、SS等級の極小粒が主体となる。


夏イチゴの特性として受け入れ、いかに小粒に適したスイーツレシピで商品価値をアピールするかが課題。夏場前後の栽培管理で改善出来るか?については次年度の課題

総括⑦ S等級、SS等級の商品価値を決めるのは、夏イチゴの地域内での「農と食のコラボ需要」次第。


イチゴ生産者視点からの評価

〈栽培技術課題〉

今年度の試験栽培を開始するにあたり、7月後半以降の施設園芸ハウス内が高温期(40-45度超環境)となることが予想されていた。 長野県の夏イチゴの産地を見学した際に、夏季の高温対策として、ミスト・遮光カーテン、ハウス屋上部分開閉等、様々な施設面での対策投資がなされていた。

上記の高温対策の投資リターンを確保するためには、一定規模以上の施設園芸ハウス設営が前提となるため、本年度の試験栽培では、赤外線反射シート、遮光カーテンの敷設と言う限定的な高温対策のみ取ることとした。

4月-6月期は、ハウス内の日中最高温度は35度超ではあったが、株の生育、花房出現、開花/着果/上物果実の収穫と順調に推移した。しかしながら、7月-8月以降の猛暑による花芽分化への影響のためか、株の徒長が著しくなったこと、花の大きさが小さくなり、収穫果実のS等級、SS等級の小粒の急増化につながった。

〈マネタイズ課題〉

L/M等級(+S/SS等級)の小粒果実が収穫物の主体となる夏いちご栽培を伊東・伊豆高原で定着させるためには、栽培管理技術と併行して、地域内での食のバリューチェーン作りを通じたマネタイズが課題となろう。

夏イチゴの需要家は基本的には、スイーツ・ケーキ工場・店舗等の業務顧客であるが、等級としてはL等級、M等級が主力ニーズをされている。同等級より小粒なS等級、SS等級についても商品果として等級は存在するが、長い物流距離がある市場流通、遠隔顧客には輸送単価(1粒あたりの輸送単価)の課題がある。 従い、生産者の視点から夏イチゴ栽培を伊東・伊豆高原で定着させるためには、S等級、SS等級のいちご商品果のマネタイズのために、地域内での農と食の関係者のコラボ需要の開拓が必要となろう。

家庭菜園/自給農視点の評価
「屋外プランター」栽培

伊東・伊豆高原は国内有数のリゾート別荘/移住地域であり、家庭菜園/自給農等の「アグリ・リゾートライフ」充実支援の活動を通じて、地域価値を高めることが重要である。 夏イチゴ試験栽培2023は、「アグリ・リゾートライフ」の新しいコンテンツ開発のために、屋外プランター栽培による栽培検証に取り組むこととした。

具体的には、いちご生産者の主流となりつつある「高設栽培システム」に可能な限り近づける栽培環境を「屋外プランター栽培」でも作ることとした。例えば、培土成分、1株あたり培土量、液肥と言った生育インプット資材選定は、いちご生産者と同等とした。

施設園芸ハウスとの栽培環境の違いは、

* 温度環境: 施設園芸ハウスは、側面開放しても4-5月から日中30度超の高温環境となる。 屋外プランターの場合は、昼間の日照方向が参加者により異なったが、概ね、東から南向き。屋外開放空間なので外気温と同じになり、施設園芸ハウスよりは4-5月で日中最高温度で10程度低い。但し、
今年度の7月前半からの猛暑の影響を受けた栽培となった。

* 雨よけ環境: 今年度の試験栽培では、雨よけ環境については評価対象に加えず、一定の雨にさらされた環境での栽培となった。

屋外プランター栽培の検証栽培の評価としては、

・ 栽培生産性の指標となる1株あたりの収量は、夏イチゴ試験栽培2023 報告②「試験栽培の収穫結果」概要で記載の通り、適正な栽培管理の下では、施設園芸ハウス栽培とほぼ同等の生産性を示していた。

・ 伊東・伊豆高原の夏季はマイルドな最高気温下であり、屋外プランター栽培の温度環境は、施設園芸ハウスと比較すると遥かに高温障害の度合いは低いはずであるが、8月中旬以降の収穫果実の小粒化(S等級、SS等級)の比率が急増と言う課題は、施設園芸での栽培と同様であった。

夏イチゴ試験栽培2023  総括後編の予定


来年度の試験栽培2024計画、栽培環境/条件等の改善点について後日総括する予定。


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