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社長「原状回復工事の見積もり600万を300万に下げてきて!」→私「下げました」


社長からこんな司令が来たらどうしますか?

店舗開発などしている方なら、如何に無茶な話かはご存知でしょう。そもそも、そんなにディスカウントしたら、「ワタシはぼったくり業者です」って言ってるようなものです笑

今回は約55坪(コンビニの広さと同じくらい)のスタジオの閉店。そして工事は管理会社の指定した業者によるB工事(説明は後ほど)

結論から言うと636万の見積もりを257万まで下げる事に成功しました。これって636万-257万=379万の利益を出したって言っても良いですよね!

我々は値下げに成功した気分にさせられている

あなたが店舗開発部や店舗のマネージャーなら、作業や商品の単価を調べたり、原状回復工事の坪単価を調べたり、市販の積算資料で調べたり、付き合いのある業者に話を聞くでしょう。「ワタシは見積もりの単価なんて分からないから」というベテランになると、なんだか根拠が分かりにくい「諸経費」や「現場経費」の項目を値下げしろと言ったりします。→工事金額の15%の諸経費を5%に下げさせて、「値下げ交渉に成功した」と満足して発注してしまいます。

工事業者にしてみれば、「あの会社は諸経費のところ突っ込んでくるから、他のところに(値引きする分を)忍ばせておいて。」となります。

開発部は値引きしたつもりでも、業者にしてみればまんまと希望通りの額で受注が出来たわけです。※これ、工務店や小さな施行業者さんはしてこないです。B工事などで施設に入るレベルの大きな業者のお話です。

ここで見積もりの中身を知る上で重要な「原状回復工事」と、「A、B、C工事」の違いを説明しておきます。※知ってる方は読み飛ばしてください。

[解説]原状回復工事とは

店舗の閉店などで物件を解約した際に、借りる前の状態に戻してお返しする為の工事です。契約条件や話し合い、後継で入るテナントの希望によっては、ほぼ何も工事せずに済む時(居抜き)もあれば、壁・床・天井全て撤去して、スッカラカンの状態にする時(スケルトン)もあります。

[A工事とは]

業者(オーナー手配)+費用(オーナー負担)
A工事は「基本的には建物に関わる部分だから、入居者がお金を払う必要は無いですよ」という感じです。

[B工事とは]

業者(オーナー手配)+費用(入居者負担)
B工事は「設備や建物まわりなど、日々のメンテナンスもオーナーがやる部分だから、ウチが使ってる業者に施行させますよ。でも使うのは店舗のあなたたちだから、工事代金は払ってくださいね。」
あるいは「ウチの建物はブランディングを大事にしてるから、オーナーの私たちが選んだ業者以外には施行させないんで、ウチが指定する業者を使ってね。」という感じです。

[C工事とは]

業者(入居者負担)+費用(入居者負担)
C工事は「入居者さんのほうで業者を手配して工事してくださいね」という感じです。

B工事はC工事より高くなる

という事で、B工事とは入居先の管理会社やオーナーが指定した業者が工事をして、お金だけ我々が支払います。業者が最初から指定されているという所がキモです。要するにB工事には競合(ライバル)がいないんです。近所にスーパーが2件あったら、安い方を選びますよね。スーパーだって来てもらうために値引き合戦しますよね。でも町に1件しかなかったら。安くしなくてもみんな買いに来てくれます。業者が指定されるという事は、町に1件しかないスーパーと同じです。

そんなこんなで、B工事だと自分達で見つけてきたC工事業者の1.5~2倍は高くなるのが当たり前なんです。さて、この理屈に当てはめると、「B工事をC工事に変更出来れば、半分の300万に収まるじゃん!そーいうオチか」と思われた方もいるかもしれませんが、残念ながら不正解(×)です。

この商業施設はC工事で行うことはNGでした。
ではどうやって下げたのか?
ようやく実践編です笑

工事内容を経験から整理します。

①同様の規模のC工事は300万以下で出来る。(概算257万円)
②過去の交渉経験から想定する値引きは10~15%(60~90万円)くらい

大手の業者と言うのは社内で決められたルールに沿って見積もり専門の人が積算していたりするので「各項目ごとの工事単価を下げろ」という交渉にはほとんど応じてくれず「一括で30万とか50万下げますよ。それ以上は無理です。」というケースが多いのです。

後継テナントは入らない

普通ならこれ以上の打ち手はないのですが、一つ気になる事がありました。それは退去する物件が施設敷地内の平屋の建物で、一年以内の取り壊しを予定している為、後継テナントの入居予定はない。と言う点です。

「次に貸し出す予定がないのなら、やらなくてもいい工事があるはず」と思った私はそれを洗い出すために現調へ行く事にしました。

見積もりのココをチェック

・共用部通路養生7日→2日
(私)解体日の搬出と最終日の搬出の2日で充分
(管理)本当に2日で出来ますか?
(私)出来ます!

・天井解体、壁間仕切り撤去(70万円)

(私)取り壊す建物だから不要では?
(管理)確かに不要でした。

・床剥がし撤去(13万円)

(私)こちらも不要では?
(管理)確かに不要でした。

・産廃搬出処理費(130万円)
(私)自前で産廃トラック手配すれば40万円で出来ます
(管理)手配して貰えますか?

・ボード補修やサッシ塗装(33万円)

(私)え?壊すんだからやらないでしょ?
(管理)確かに不要でした…。

・ガラス工事(12万円)
(私)必要ないでしょ?
(管理)必要ですがガラスでなくてもOKです
(私)じゃあ安いコンパネで。

・誘導灯、非常灯撤去(3万円)→再設置(14万円)

(私)天井も壁もそのままだから不要ですよね?
(管理)不要でした…。

・感知器、非常スピーカー撤去、再設置、申請費用(22万円)
(私)天井や壁を解体した時の作業ですよね?不要じゃないですか?
(管理)不要でした…。

・運搬、搬出費
(私)運搬搬出費が項目ごとに乗っかってますけど、この作業とこの作業は同じ日だから、業者はまとめて搬出しますよ。分けてるのはちょっとイヤらしくないですか?
(管理)はい…確認します…。

・労務費(人工代)

(私)電気工事が項目ごとに労務費(作業者の人数分)入ってるけど、コレとコレとこの作業は同じ日に同じ電気屋さんが2人1組で1日で作業出来るボリューム。なのに各項目の合計8人工は多すぎます。
(管理)……確認します。

・諸経費(60万円)

(私)諸経費が工事金額の10%で60万円ほどですけど、私の試算だと工事金額が150万円になるので、諸経費は15万円ですね。
(管理)…。

という感じで見積もりを精査し、636万円の見積もりを169万円が打倒じゃないかと、送り返しました。※もちろん、そんなに安くやろうと思ったら、全て自前で手配して、なんなら解体も搬出も電気工事も自社の社員にやってもらう必要がありますけど、どこまでイケるかの確認です。

交渉の結末

こんな調子のやり取りを1ヶ月ほど繰り返したところで、管理会社の担当者からこんな連絡が来ました。
「すいません。いくらならOKしてくれますか?」
私は、C工事で手配した時の概算金額257万円を希望額として伝えました。莫大な利益は取れなくても、ちゃんと利益は取れるラインです。(そこは持ちつ持たれつで)

管理会社だから良かった。

施工業者と直接、交渉していたらこの金額までは落とせなかったでしょう。やらない工事を省くことは出来ても、「ここまで下げる事は社内でOKを貰えない」と言われてしまうのです。

でも今回は「施工業者の長年のお得意様である管理会社」と話をしたので、上手く行きました。

ポイントは管理会社との価格交渉の中で、施工業者の「雑」な、あるいは「意図的」な、やらなくてもいい見積を指摘した事です。

これは管理会社にしてみれば「取引先に対して不正な見積もりを提示して、やらない工事の金額をだまし取ろうとした」と言われても否定できない状況であり、施工業者に恥をかかされたようなものです。そんな流れになり管理会社を味方につけたことで、施工業者はクライアントに対して見積もりの正当性を主張出来なくなり、大幅な値下げをのまざるを得なくなったのでしょう。

15年ほど色んな工事見積もりを精査してきましたが、ここまで下がった事はまず無かったです。※B工事の一部をC工事にする事で1000万円を600万にした事はありますが、それはまたの機会に。

後日談

社長「見積もりはどうなったの?」
私「落としました。」
社長「え?本当に落ちたの?」

社長も半分に下がるなんて微塵も思ってなかったようです。


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