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『黒人音楽史-奇想の宇宙』後藤護


すごい面白かった。ジャンルに無知故これが正統なのか不安があったが編集者から太鼓判があり安心。だとすれば黒人音楽とは迫害と固有の世界観が混じったものに思う。


著者はマニエリスムという言葉で包括しており、私はその語をわかり切っておらずいまいちピンと来ていない(美術史のマニエリスムの項を読んでもよくわからない。和製マニエリストが澁澤龍彦と言われてようやくぼんやり掴めたくらいだ)。


だが、奴隷時代に逃亡情報を暗号として織り込んだ労働歌やキルト、アーバンになる前のブルースに見られる自然への一体感、アルバート・アイラーの素朴で自由なアウトサイダー的フリー・ジャズ、「土星人」サン・ラの不思議な宇宙観、「白人が真似する黒人をさらに真似た」戯画的で猥雑なPファンク、迫害の恐怖の記憶と子宮への回帰を「マンネリズム=マニエリスム」で以て語るホラーコア、そしてマニエリスムの極地たるサンプリングのパッチワークと文化継承としてのヒップホップ、その中にある秘密結社的思想と混沌、そういったものが筆者引用するところの「天啓」を以てアナロジー的に語られていくのが気持ちいい。つまり、音楽から感じられるものに系譜をつけていく試みだから、ひらめきで理解していく作業が不可欠なのだ。


だから、普通に読んでるとすごい読みにくかったりする箇所が、該当する音源を聴きながら読んでみるとスラスラ頭に入る。不思議だった。文章の理屈で納得させるのとはちょっと違った本。


しかし、あれだけ衒学的な修辞を入れ込みながら、最後「筆者の考えるアフロ・マニエリスムの現時点での最高到達地点は、ウータンである」の一文で唐突に終わるの最高だったな!声出して笑ったわ

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