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フィンランド人はなぜ「学校教育」だけで英語が話せるのか -米崎里- <メモ>

最初の120ページがまあまあ退屈でどうしようかと思ったら案外身になることが後半どんどん出てきたという印象の本書。
簡単なポイントのサマリとコメントを簡単に纏めていきたい。

・歴史的に、日本の文法中心の英語教育と同じようなスタイルをフィンランドも取っていた。大きく違うのは量とトピックの種類。

・日本では「暗記」で済ます語彙力強化を、フィンランドでは豊富なアクティビティを取り入れて無意識のうちに豊富な語彙を身に付けるようなスタイルをとっている。
 >>まず、完璧主義(段階を踏んで、「これが出来たら次はこれ。できるまで次には進みたくない」みたいな考え方)を一切取っ払ったようなスタイルがフィンランド式(且つ日本ではなかなか浸透しない)の良いところだなーと。
母国語だって、よくわかんないけど読んだり聞いたりするうちに身になってる表現とか山のようにあるのにね。外国語になった瞬間その緩い幅みたいなのが無くなると「覚えなきゃ」とか「めんどくさ」みたいなのにつながっていくのかなー。

・日本では憚られるセンシティブな内容を使って児童生徒の興味関心を惹く。また、特定の少ないトピックで済ますのではなくいくつかトピックを選択させることで「興味がないから」という理由で生徒の関心が削がれるリスクを軽減している
 >>これ”多様性”、"Inclusive”って言葉がトレンドになってる手前、教材としてはますます扱うテーマ絞られるだろうなー。ただ、本書にもあったけど、"リアル"な題材(いじめなど生々しい題材)を扱ってこそ、生きた言語になるようにも思うけどなー。このあたりは教職に就いてからの宿題かな。
ちなみに移民問題が深刻なこの地域でそういったセンシティブなテーマを扱いまくってるのは一見の価値アリかも。ディスカッションの様子とかいくつか見てみたい。

・Khaoot! というノルウェーで開発されたICT教育ソフトがあり、教師のPCと学習者のスマホやタブレットをつなぎ、リアルタイムで選択クイズを作成することが可能
  >>具体的なツールとして浸透しているということは、ICTを単に取り入れるというだけでなく、取り入れる意義や目的が教育界である程度胸痛に認識になってる と考えていいのかな。日本の場合は、少なくとも小学校教諭の友人から聞くところは絶望的なまでの差があるような。

・無理に全てを英語で教えようとしない
>>自分も試しに「経済学」という全く識見のない分野をすべて英語の授業で理解できるかという実験をしてるけど、なんせ英語で概念理解をするのは難しい。英語そのものがわかるのと、中身を理解するのとでは大きな差がある。あくまで母語を基調に概念を教えていくこと・その上に英語の活用を教える というのは大賛成。

・フィンランド教育が成功したと言われる要因は1.徹底した教育の機会均等(習熟度に関わらず無償で且つ少人数のクラス構成) 2.早期の学習支援(少人数クラスの上にアシスタントの活用) 3.教員の質と能力
>>すべて日本で課題とされてるところだけど、教員不足というボトルネックが解消されないとなかなか前に進めない気がする。もちろん国は教員増に取り組んでいるのだけども、例えば「少人数学級を増やす為に学級数を増やすことを先にやってる為に結果的に教員数が追い付いていない」、とか「増やしたのは臨時的任用職員だから校務も均等に振り分けることが難しく結果的に一部の教員に偏っている」など課題は山積みだと。
(参考: https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20180121-00080724/)

・質の高い教員の理由は1.自らの仕事への満足度の高さ 2.教員養成課程への高い競争率 3.臨床的な教育実習 4.充実した現職教員への研修
>>フィンランドにとっての教員って、日本で言うところの医者や外資系シンクタンク・大手商社のようなものなのかな。確かにそういった職の人は自らが狭き門を潜り抜けてきてるだけに、自分の職に誇りを持ってる印象がある。給与ももちろんそうだけど、徹底した福利厚生と研修制度がある環境じゃないと優秀な人材は集まらないようになってるんじゃないかなーなんて思ったり。
(高収入×重労働の典型例だった会社が、リーダー層を中心に徹底した福利厚生等の改革に踏み切り、今や日本でも有数の優良企業として社員数も1万人に拡大した某シンクタンクの例も有名なのではないでしょうか。参考:
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E6%B5%81-%E7%94%9F%E7%94%A3%E6%80%A7%E3%82%92%E9%AB%98%E3%82%81%E3%82%8B%E3%80%8C%E5%83%8D%E3%81%8D%E6%96%B9%E6%94%B9%E9%9D%A9%E3%80%8D-%E6%B1%9F%E5%B7%9D-%E6%98%8C%E5%8F%B2/dp/453405520X)

・異言語教育に必要な3要素:言語文化的環境/ 国の教育政策/ 異言語教育法
※言語文化的環境については努力で解消できないもの。前提として言語的距離が遠い為、日本人にとって英語は習得が難しい言語
・日本の英語教育に必要なもの
1. 日常的に英語に接する機会の確保
 →そもそも言語的距離が遠い為、国の教育政策や異言語教育法の充実等で
  補う必要がある
2.教員が熱心に打ち込める教育的環境(教育政策)
 ①教員養成の見直しと教員・学校の裁量権の拡充

 >> フィンランドに限らず、海外では修士の学位取得が義務付けられてい
 ることが多いそう。日本では修士を取得した先生が身近にいることは稀な
 気がする。
 ②学校の教育環境整備(1.教員の労働環境 2.クラスサイズ 3.教育費)
 >>1.に関しては前回の記事に記載した通りで、フィンランドとの違いは
 教科指導以外の業務が多いか少ないか」。日本人の良くも悪くも真面目過
 ぎるところだよって留学生の知り合いに言われることにも頷ける。
 2. については、確かに1クラスの人数が少なければきめ細やかな指導が可
 能となり児童生徒の発言や発表の機会が増えることが間違いないけども、
 現状の予算と人材を考えると逆に急ぎすぎることで問題が山積しそうな気
 もする。
 3.明らかに国の教育費の改善無し教育の質的改善は難しいのでは。
 どうすれば教育費の改善ができるのかに関しては「教育費をあげる為に
 は、教育の公共的意義を国民に納得させ、教育費を公的に負担すべきだと
 いう理念を社会的に浸透させなければならない」とのこと。まさしくそう
 だけど、どうすれば前に進むものだろうか。

・日本の英語教員に必要なもの

1.十分にインプット・アウトプットする機会の提供 2.暗記不可能な大量の教材 
>>
言語活動の充実を図ることが重視されているとはいえ、アウトプットするためのインプットがおろそかになっては元も子もない。乱暴な言い方だけども、インドのインターナショナルスクールに通う9年生の子(小学校中学年からインター生活)の英語はもう酷いものだった。発音こそ綺麗だけども中身が全くと言っていいほど無い。このトピックだけで本がありそうなものだけど、二言語教育の難しさを目の当たりにしてきた身としては、「インプット無しのアウトプット」が常態化することのデメリットは大きいと思う。
ただ、言語学習において「暗記」という意識を減らした学習というのは必要で、特定の単語や表現にこだわらず、母語と同じく膨大な量の会話や言葉を何度も読んだり聞いたり書いたりする中で自然と慣れ・身につくものが多くなると子供の興味関心を削ぐことなく英語力をつけることができるように思う。

まだ現在は民間企業で働きつつ、こうやっていろいろと情報集めや思考の整理はしてるけども、やっぱり現場とのギャップは大きいようにも思える。来年なのか再来年なのか、答え合わせが楽しみだ。

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