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シェヘラザードのなり損ない~ゲーム【食糧天使】感想※ネタバレ注意

今日は「食糧天使」というゲームを遊びました。タイトルやイラストから期待していた最高の心理的胃もたれをもたらしてくれました。よかったです。

なによりも先立つべきはこれ。その名も、このゲームの配信URL!!! とくとご覧あれ、そしてダウンロードしようそしてやろう。

あのでも、テンションが下がったり元気がなくなっても問題ない状況でやろう。暗い表現や痛そうな表現が苦手な人は、避けてもいいかもしれない。一応重要なところにはモザイクがかかっている安心設計。でもさ、モザイクによってよりいっそう元絵のエグさが際立つことって、あるよね。こういうのを「ニクいね~」って言うんだろうな。

えっと、エンディングは4種類解放しました。たぶんTRUE ENDはまだ解放できてないと思います。Twitter(現X)にそこへたどり着く方法が書いてあるらしいとのことなんだけど見つからなくってェ、もう一歩も歩けなくってェ……。以下の感想はそれを前提にお読みください。


このゲームを遊ぼうと思ったきっかけ

正直に言うと私はこういったゲームが苦手で、積極的に遊ぼうとしません。こういったゲームとはすなわち、死をテーマに扱い、死に関わる残虐性や不道徳さ、不快な感情を楽しむことをテーマにしているゲームを指します。とにかく主人公が不幸な目にあい続けるとか、「かわいそうはかわいい」を楽しむゲームとか。

苦手な理由には3つあります。
ひとつは単純に人が苦しむさまは現実だけでおなかいっぱいであること。
ふたつ目は、「人の不幸を楽しむことができない」という私の趣味の問題。
最後は、「苦しさを主なテーマとして扱っているにもかかわらず苦しい状況に置かれた人間の行動や心理について調べることもなく幸せな場所から苦しさを楽しんでいるんだな」と感じてしまう場合があること。これは私の過去と趣味の問題です。

特に最後の理由は「何様だよ」と言われても仕方がないことだと思っています。それでも私は、そう指摘されたときには「安全な場所から苦しさをおもちゃにしやがって。マジの苦しみを見せてやろうか?」と返すことに決めています。指摘されない限りは「ほへ~この物語は私向けじゃなかったな」とスルーします。これは信条の問題でもあります。

だからこのゲームを「東京ゲームダンジョン3」で見たときは、ブースに近寄れませんでした。人がたくさん集まっていたからきっと人気があって楽しいゲームなのかもしれないけれど、ポスターやタイトルから一見して死と苦しみをテーマにしていることが察せられたからです。一方で無関心ではいられなかった。そういった作品に触れることでテーマに関する他人の深い考えを知ることができるかもしれないし、もしかしたら、もしかしたら、これからの人生を生きるにあたってお守りや指針のひとつになるような思想・文章に出会えるかもしれないから。

だから作品ページを見て、作者の方々のSNSを読んで、少し考えてから、遊ぶことに決めました。露悪的な投稿もたくさんあったけど、そうじゃない部分もありそうだなと感じたからです。

そんなこんなで布団から這い出して30分でポチポチ遊び始めました。

登場キャラクターに共通する「生きる意味」への悩みについて

主人公はうつろな表情をしたリンさん。肉屋で働いており、おそらくそこに併設された自宅との往復を繰り返すだけの生活を年単位で続けています。彼は「生きる意味」を見失っており、自分が選択する行動すべてに(無意味だ)という注釈を脳内で自動再生します。生きているために生きている、というセリフが何度か繰り返されていました。
以前「余命一カ月の花嫁」という映画のCMで、「今何してるの?」と訊かれた花嫁役の方が「生きてる」と答えるシーンがあったことを覚えています。彼女が言う「生きている」と主人公が言う「生きている」は、同じ言葉ですが正反対の意味を表していますね。二人とも「生きているために、生きている」けれど、主人公は先の見えない暗く長い人生が延々と伸びていることを認識したうえで、足元に視線を落とし「生きている」と言います。
でもさ、死んでないだけじゃ、生きていることにはならないんだよね。

個人的に「今の私は死なないことに必死で、生きていない」「生きていないなら、こんな必死に死なないよう踏ん張っていることに何の意味があるんだろう」とじっと足元を見ることしかできない時期が最近あったため、それに比べたら、もしかしたら思考停止しているだけなのかもしれませんが「生きているために生きている」ことができるリンさんは強い人だなあと思いました。しかしそしてだからこそエンド1の、決断の責任を他人に委ねる場面が苦しくもありました。そこで折れてはいけないよ、頑張ってよと思い、一方で「これ以上この人に頑張れと言うのは酷だ」とも思いました。

そんな主人公の目の前に連れてこられるのが食糧天使。それまでは死んだ状態の肉塊や限りなく死んでいるに等しい状態の動物たちが「幸福管理局贈与課」によって肉屋に運び込まれていましたが、天使は生きたまま連れてこられます。しかも「それ」を解体しろと。
最初は「いやいつも通り肉塊にして持ってくればいいじゃん!」と思いましたが、これはどうやら試験を兼ねた仕事のようでした。そんなあ。

(画像は作品ページからお借りしました。)
左が主人公「リン」さん。ずっとうつろな目をしている。片方にだけピアスをつけているデザインがとても好き。確か右耳だけのピアスは「守られる側、やさしさを与える側」の意味でしたね。自分の身を守るように左腕を体の前にもってきている立ち絵を見るだけで「この人は今つらい状況にあるのだな」とわかるデザインが好きです。
右側は食糧天使のリゥリゥさん。また白髪だァ……。立ち絵がすべてLive2Dで動きを与えられているので、ちょっとした瞬きや目線の移動、羽が広がったり、自分を守るように包み込む表現が秀逸でした。
性別も髪や瞳の色も対照的である二人に「うつろな目」「自分を守るように動く手や羽」といった共通点もあるのが好きです。この共通点は生得的なものではなく、それまでの生活で染みついた後天的なしぐさであり、それによって「この二人は同じである」と示されていると解釈しました。そしてこの表現が、好きです。

実はゲーム終盤になるともう一人の登場人物もまた「生きる意味」自分が行っている仕事の意味」に悩んでいたことが示唆されます。それまでずっと冷徹クソ野郎だと思っていたので、いやまあその評価は変わりませんが、そうだ、生き物は多様な内面を持っているんだったと自分の偏見を反省しました。

他者を介した生きる意味について

主人公は食糧天使を預けられたことで「殺したくない」という思いとともに「この子と一緒に生きていたい」という思いを抱くようになります。この瞬間、私はめちゃくちゃ怖かったんですよ。だって生きる意味を自分の外に見出しちゃったの。「生きる意味を与えるほどのクソデカ存在がいなくなったら主人公絶望しちゃうじゃん」ってめちゃくちゃ怖かった。それでもついこの間までずっと生きているというより死なない状態を維持しているだけだった主人公が「生きたい」って感じるのはいいことで、いいことなんだよな。今だけでもめっちゃ喜んどくか。僥倖! 何たる喜び! 人間が生きることに希望を見出す瞬間はいつだって光にあふれていますね!

一緒に生きたい存在が食糧天使じゃなかったらな!!!!!!!!!!!

あーあ。作者……酷が。酷がすぎるぜ、そう思いません? 私は思った。あふれた光もびっくりだよ。「え、俺……今光ってんの場違いじゃね?」って困惑してると思う。光に人格を見出してしまうほどに酷。だって主人公、この天使を殺せないお前は無能だとかそれだけがお前の価値だとか言われて、当の天使ちゃんからも「早く殺してほしい」「あなたになら殺されるのも少しは怖くないかも」「死んでみんなの役に立ちたいの」とかめちゃくちゃ詰められる。主人公のこと救ったふりして崖から突き落とさないで! もう主人公だけじゃなくて私のHPゲージもまっかっか。ポケモンだったらピコピコなりすぎて「うっせ」とか言って無音にされてる。誰も助けてくれないんだ! どこにも救いはないんだ! うわーーーーーーーん!!!!!!!!

この、、、この主人公がさァ、天使に絵本を読んであげるシーンがあるのね。そこで読むのが『千夜一夜物語』なの。読むっていうかなんかもう主人公文字が読めなくなっちゃって暗唱してるんだけど。『千夜一夜物語』ってさ、命を繋ぐために王様の閨でシェヘラザードが語った物語の記録、という体の本じゃん? ここにこの本を持ってくるのは最高にいい趣味してるぜ、ハハッ。ハハッ……ハハ、ハ…………ハァ……。だって主人公はどう頑張ってもシェヘラザードになれないから。いや、むしろ主人公側が命を奪うという点では王様側なんだけど、そうか、王様が、王様が「殺したくない」って言いながら一人で毎晩話をせがんでるのか。そうか、そうか……。


まとめ

このシーンから想像できる結末がありますね。
「CUT!」じゃあないんだよ「CUT!」じゃ。
コミカルだからこそ際立つ残酷さよ……こんなの思い知りたくなかったな。
みんなも「CUT!」して、生きる意味を考えようね。

このゲームを遊ぶことができてよかったと、遊んだ後である今は思います。トゥルーエンドがあるらしいからさ、なんとかSNS掘り起こして意地でもたどり着いてやるんだ。だって……俺……トゥルーエンドがハッピーエンドだって、信じてっからさ。信じてるからな!!! 信じてるからな!!!!!!念押しするからな!!!!!! トゥルーエンドはハッピーエンド! これ100回くらい唱えてからやろ。そしてらもしそうじゃなかったとしても耐えられる気がする。でもハッピーエンドだって信じてるこの気持ちも手放してなんかやらないんだからね!

功利主義的な「幸福」の描かれ方や、そもそも食糧天使なるものがどんな存在で、ここは一体どんな世界なのか。書ききれなかったたくさんの魅力がこのゲームには詰まっています。やろう。リンクもっかい貼るからね。わかる? ここの下にある四角を押して、うんうん。その先のページで「ブラウザでプレイ」ってボタンを押すんだよ。そこからお前の物語が始まります。




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