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ティンクル・トウィンクル・フェイク・スター

え、「彼」の物語かい?

ディアスポラの雑多な人々でごった返す惑星ゲヘナの酒場では、機械化吟遊詩人たちがリュートとSEで歌い上げる物語が酔漢たちの人気だ。

いいとも、それは、こんな風にはじまるんだ……

「この嘘は、最後までつき通さないと意味がない」
【暴風域】は半径数光年に及ぶ。重力台風の進路が直撃した惑星系での文明の存続は絶望的だ。
「恨まれるだろうし、軽蔑されるだろう」
帝国は加盟星系に対してしか保護の義務を負っていない。
「怖くてひざが震えているし、今だって喚き散らしたい」
星間文明の存在すら知らず、統一政府もなく、互いに争う人々に、納得させることは不可能だ。
「総避難? 笑っちゃうよね。妄想の域だ」
手段がなければ、危機を知らなければ、たまたまそこにいなければ、きっと。
「でも、ここには太古、忘れられた【入植時代】の船がある。避難は、できるんだ」
問題は唯一つ、言葉だけでは、もう、間に合わない。
「だから、ぼくが泣きそうなただのガキで、すべてがフェイクだってことは、知られちゃいけないんだ」

ええ、その年はいつもと同じように暮れると思っていた。
クリスマスで、少し華やいだ気持ちで、家路を急いでいたのよ。
はじめは、なんだか騒がしいなって、それだけ。
でも違った。急にみんな走り出して、逃げろ、逃げろって、何って、夜空を見上げた。
インディペンデンス・デイ?
巨大ですごく荘厳な円盤が、空に蓋をしてて。
変だとは思わなかったわ。本物を見たことがあるわけでもなかったし。
すぐに軍が攻撃を仕掛けたんだけど、全部撃墜されて、でもそれが街に落ちて、……酷かったわ。
悲鳴、泣き声、怒声、うーうー言う警報。
その時の死者数? ええ、知ってるわ。
「彼」に聞かれたから。止めたんだけどね。
で、急いでラボに電話したけど案の定つながらない。それで直接向かって……
(直後に合衆国側降伏使節の一員となるアニタ・フェイト博士のインタビューより)

「……許さない」

「災厄」として知られるその混乱で、家族を失った一人の少年に「力」が宿った。

だが、これは、そのヒーローの物語ではない。

【続く】

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