オンでもオフでも。
荒川 裕子
「新しい生活様式」は街の風景をガラッと変えた。
家から一歩出ればマスクをつける。人と会うときは密になってはいけない。レジに並ぶときはソーシャルディスタンスを守る。
「新しい生活様式」は、劇場にとっても悩みの種である。
わたしがいる、1100人キャパのホールは定員100人になった。ガラガラ状態が“よし”とされる。ガラガラの客席がスタンダードになる日が訪れるなんて思いもしなかった。
しばらくは、劇場の開店休業状態は続くであろう。
いま、仕事では、オンラインシンポジウムの準備を進めている。登壇される方々と打合せをし、方向性や伝えたいことの輪郭がはっきりとしたところだ。
当初、福岡や東京、香川から福井にお越しいただく予定だった。コロナがなかったら、オンライン開催なんて1ミリも思いもしなかっただろう。
オンラインシンポジウムの最大のメリットは、どこにいても、ネットが使えれば参加が可能だということ。いままで、この手のシンポジウムやトークイベント等参加してきたが、やはり興味のある人が中心になってしまう。しかしながら、オンラインというのは、興味のある人の周りにいる、ちょっと興味のある人に手が届いているような気がする。ちょっと気になる人にとっては参加のハードルは低く、主催者としては、様々な人(地域)にアクセスしてもらえる、ということに気付いた。
ただ、オンラインが苦手、オンライン否定派の考えも耳にする。
「オンラインより、だいぶブランクがあいてでも生で会う方がいい」
久しぶりにお会いしたアーティストさんからこう言われた。確かにそうだ。
先日、久しぶりに会う友人らとお弁当やお菓子をもってピクニックをした。珈琲豆も持参し、その場で淹れたて珈琲を飲んで、3時間半もそこでおしゃべりをした。ラインでやりとりしているが、実際に会っても、話すことに尽きなかった。
「こうやって話をすると、前向きになるね」
何気ない友人の一言。やっぱり、顔と顔、相手の温度が伝わる距離感で話をすることに勝るものはない。時間があくというだけでプレミア。やっぱり生で会う方がいい、に、わたしはとても納得した。
実はとある人から、自粛生活で誰にも会わず家にいるから、これでは老化が進むとSOSメッセージが届いていた。zoom飲み会をしてプチストレス発散はできない世代であろう。世間では、同居家族から、一人で外出しないでと止められている人もいるとか。重症化リスクが高い高齢者を守ることは、いまや全国民が承知している事実であろうが、それが逆に、違う病気の誘発にもなってしまう。そうはいっても、ウィルスがどこかにあると疑いながらの生活は日常としてとらえないといけない。
ここにきて、オンライン配信はあっという間に広まった。劇場が開店休業状態になっているいま、オンラインの道も考えなくてはいけないから。密をつくらないという状態が解消されることはあるが、顔が見えない相手に届ける難しさもある。福井県は5月から、ニコニコ動画で音楽ライブの生配信を始めた。チャット機能があり、リアルタイムにコメントが寄せられる。和楽器と洋楽器のコラボを見ていて、コメントを書いている人の反応が興味深かった。「筝の音色を初めて聞いた」「曲のアレンジが斬新」「筝のイメージが変わった」など。興味の入り口は、オンラインでもありだな、と感じた。生で聴かないと魅力が半減すると思っていが、それは誤解で、オンラインでも「心に届く演奏ができるかどうか」は、伝える人の醸し出す“何か”にかかってくる。オンでもオフでも心に届けることができるかどうか。
「新しい生活様式」は、文化芸術関係者にとってはマイナスだけではない、本質的なことに気付かせるチャンスかもしれない。