なおし屋のしごと❸ 椅子張替

第三回を迎えた今回のなおし屋は椅子の張り替え職人
株式会社シバハラの柴原慶久さん
椅子の張り替えは直し屋の中でも特に世間の多くの人に関わる仕事なので必ず取材しておきたいジャンルである。
まさに今 布張りの椅子に座ってこの記事を読んで頂いている方もきっとおられる事でしょう。

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僕がシバハラさんに出入りするようになったのはもう何年前だか定かでないのだが弊社ではこなせない椅子の修理依頼が舞い込んで来た折に駆け込んだのがお付き合いの始まり。
それ以来ミシン作業が必要な案件では弊社にとって無くてはならない存在である。

ある時 結婚式場の案件で難易度の高さが一目で分かる貼り替え作業をお願いした時も前代表の柴原道明さんに作業をして頂きこんな凄い職人がいるんだと感動した事もある。
この道50年の大ベテランでその仕事ぶりを見て尊敬の念を抱いたものだった。

そして今年の9月に新代表取締役となられたのが柴原慶久さん
物心ついた頃から10代で職人となった父を見て育ち自分も若くして職人となり会社を継ぐのだろうと思っていたのだが高校卒業目前にして社長から大学に行きなさい!大学卒業目前にして「よそで就職しなさい!」と突き放される事に。

そしてテレビなどのシステムを作るエンジニアになる
時代はブラウン管から液晶へと入れ替わる時期だった事も有り忙しいなりにも満足のいく給料を貰えていた事と父も会社を継がせるつもりは無さそうだしこの仕事でやって行こうと決め激務をこなしながらも充実した日々を過ごしていた。

それから2年が経とうとしていたある夜更け、寝ている枕元に一升瓶を片手にした父が何やら話かけている。
会社を継ぐのはお前しかいない・・・お前が継がなければ・・会社を閉めて従業員達をクビにしなければならない・・・お前はぁ・・・お前がぁ・・・わしはぁ・・・・
の様な話を延々と聞かされ遂に根負け、寝ボケながらに「分かった…、継ぐよ…」
完全に父の数年掛けた作戦勝ちの様な気もするがシバハラに入社する事となる。

まずは営業として配属される事になるのだが、やるからには職人としても技術を身に付けたいという思いが強く、空いた時間や営業終了後に先輩のベテラン職人達の指導を受けながら修行を積み今では全てをこなせる職人兼経営者となる。

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先代の社長が身一つから椅子の貼り替え屋として始めた株式会社シバハラは現在総勢16人、
毎日貼り替え修理や新しい椅子の製造を行なっており、直すと作るの仕事の比率は半々なんだそうだ。

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取材当日も多くの椅子が修理作業中でミシン仕事の出来ない僕は全ての工程が興味津々である。
木工、組み立て、縫製、と各作業場は広く整理が行き届いており実に良い環境だ、片付けベタな僕も見習わねばと背筋が伸びる。
この仕事に必要不可欠なミシンも数種類有り状況に応じて使い分ける、依頼が集中するとミシンが足りなくなる様な事もあるそうだ。

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工業用ミシンってデザインされていないデザインがカッコ良いよね。

長年かけて築き上げられて来た設備や技術を持っているシバハラさんは仕事の内容もこなせる数もこの業界では全国でも有数のキャパシティを持っている。
そんなシバハラさんでも最近は直せない椅子が増えたそうで、それは安さが売りの大手家具屋が増えた事が主な原因。
それらで購入したソファを貼り替えて欲しいと言われても、まず買い換える方が安いし、直そうにも直す前提で作られていないものは作業の工程の中で骨組みが破損してしまいそこから作り変えなければいけなくなり作業としては新しい物を作る以上の手間を掛けて新しい物を作る、と言った作業になってしまう。


世の中が安さを求め過ぎた結果、粗悪な家具が蔓延しそれが普通となっている現状がある。
中には数ヶ月の保証期間さえ持てば良いという考えで作られている物もあるから買う側は安さを求め過ぎても結局損をする事になる。
お値段以上を見極める目を持つことが今時の家具選びには必要不可欠である。

そこでプロの視点から家具屋でソファを選ぶ際に気を付ける事を聞いてみた。
・まずは重さ、骨組みや板の厚みをケチれば当然強度が落ちる。やけに軽いなと思うものは怪しいと思った方が良い。座り心地の次に持ち上げてみて確認しましょう。
・クッションの中身がポリエステルの物も避けた方が良い、長持ちしないしお値段重視で作られている事が分かるので。
・背もたれ上部の角を横に押してみて歪んだり、ギシギシいう物は明らかに作りが悪い。(下画像参照)

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やはり安すぎる物には何かしら理由がある。少し高めの物でも直して使い続ける価値有る物を広めたいと思うのは直し屋の共通の思いだ。
もちろん安くて品質の良い物も有る、だからこそ世の中が物を見る目を養えば使い捨てでゴミを増やすだけの家具を減らせるのではないかと思う。
しかし名作と言われる高級家具にもデザイン重視で非常に質の悪い物もあるのでそこがなかなか難しい所。

柴原さんの今後の野望は椅子張り業界のキャパシティを増やす事。
その為には職人を増やす事、世の中に直す価値の有る商品を増やす事。
この2つを底上げする事にこそ この仕事をする意味があるのでは無いかと考えておられる。

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シバハラさんでは10年前から職人を育成する学校を経営されておりこれまでに約70人が卒業している。
この学校は当初から10年間という計画で始められており昨年で終了したのだが卒業生の多くが京都を始め全国で活躍している。
しかし職人ばかりが増えても業界としては良くない事もある。
家具メーカーの仕事も多くこなしているからこそ業界の内側から品質を上げていく取り組みが出来るのが強みであり質の悪い仕事の依頼には強気で応対出来る。
カタログの見栄えを優先する表面的なデザイン重視の物では無く直して使い続けることの出来る高品質な物を広める事が出来るようにメーカーの質も上げていく。

それが叶えば家具だけで無く様々な業界も長く使い続けられる より良い物を発信していく様になるのでは無いだろうか。
そして今それを実現出来る会社はシバハラさんを含めても日本中でそう多くはないはず。
今後の活躍に心底期待したい。

株式会社シバハラ
〒612-8494
京都市伏見区久我東町4-7
http://www.is-shibahara.com