株式を用いた様々な報酬制度の使われ方

会社は従業員や役員等に対して、給与振込をする他に様々な形の報酬を支払っている。医療サービスを割安で受けられるようにしたり、オフィスでコーヒーを飲み放題にしたり、自社製品購入を割安価格にしたり、日々働いていればなんらかの利益を享受するものだ。そしてこの多様な報酬の中の一類型が、自社の株式を用いた報酬制度である。

報酬として渡す方法は「獲得条件の程度」と、「現物か新株予約権か」という区分で分けることができる。

獲得条件の程度は、平たく言えば株式を支給された者がいつから安心して所有出来るかということだ。交付する会社からのプレスリリースでは「譲渡制限付株式報酬」という言葉が使われており、「制限はついているが貰える」という印象を受けるが、その内容をよく読むと
「一定の事由が生じた場合には当社が当該普通株式を無償で取得する」
「対象の取締役等が、〜の期間中、継続して、…の地位にあったことを条件として、譲渡制限を解除する」
としており、実質的に会社が定める期間に継続勤務しなければ得られるかどうか分からないのは明白である。(これが支給されない対象者との裁判になったら会社側にとっても工数と費用がかかる)
そして期間は会社により様々である。2021年7月だけでも、終身まで、30年間、3年ほど(既存中期経営計画完了まで)と多様だった。「従業員向けインセンティブプラン」として、従業員個々に業績連動で算定した分量、5年後などに与えるプログラムも存在した。これは5年間は譲渡制限のある株式報酬制度と見ることができるし、分量も個々人の努力に合わせようとしていてとても好感が持てる。5年というのは、「あと少しで貰えるからしばらく転職を考えず努力しよう」と思わせるには長いかもしれないが…。

現物か新株予約権かという点も、会社により様々であった。(無条件に即座に現物株を支給する例は少なくとも今月見ていないから、実質譲渡制限株式か新株予約権かという区分だろう。)
新株予約権は、一定のルールで算出される価格(現物株に換えようとする前月の平均価格などで)、株式を会社の定める期間内に買えるというものだ。つまりずっと持ち続けて、好業績発表の後急上昇している局面で行使すればかなりの利益を得られる。1か月に20%上昇はよくあることなので、前月平均一単元50万円のものが60万円になっていれば、一単元あたり10万円の儲けは確定なのである。期間中に上がらなければ現物株に換えなければ良いだけなので損はしない。
なお、この際会社は「市場から60万円で調達して50万円で予約権行使者に売り渡す」或いは「予め市場から買い入れて自社株としてもっていたが、60万円で市場に売れるところ50万円で予約権行使者に売り渡す」といういずれかになり、結局10万円を実質的に報酬として支払うことになる。

投資家の目線からこれら株式報酬の使い方のどれが良いのかという評価は、与えられた者が本当に報酬に見合うほどモチベーションアップしてくれるかにかかっている。
その意味で譲渡制限が長すぎる報酬は引退数年前の人に最後のひと頑張りをしてもらいたい事情がある会社に限り意味があり(そうでなければ引退間近の取締役が報酬を上積みしたいだけかもしれない)、
3年程度の期間で広く従業員に渡すインセンティブプランがあればおそらく若年層まで広く意味があり、
新株予約権付与は、株主にとっては「報酬として実質支払う金額が分からない」「株主と違って株価下落は気にしなくなる」という不安があるので譲渡制限株式よりも不利だろう。ブラックショールズモデルで予約権の価格は一応付与時に算定され費用計上されるが、モデルでの計算前提と異なる上昇があれば想定外の損失である。

投資に際しては、適時開示で株式型報酬の取扱いをみて、経営の考え方を少し分かるように思う。

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