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GFriendの和声戦略とKPOP楽曲の現在

いまや「新人の」という限定すらいらないほどに売れまくっているよちんことGFriend。これまで活動曲に楽曲を提供してきたのは作曲コンビの「イギヨンベ」です。

彼らはどんな戦略でよちんの音を作り上げてきたのでしょうか。

近年のK-POPの状況をみると、2012年くらいまでの状況からの変化にかんがみ、和声上、作曲者としては下記のことを気を付ける必要があるように思います。

・2008~12年くらいにかけては勇敢な兄弟やシンサドンの虎などの「短調+電子音」が活況を呈したが、13年以降、徐々に洒落たつくりの「長調+生音」が好まれるようになってきた。

・ただし、Someをはじめとするお洒落路線もやや落ち着いてきている(アイドルでは、もう少し「明快なもの」への揺り戻しがきている)。

・こうした状況のなかで、和声的には、あからさまな短調は「古臭い」と感じられてしまうため、長調にするのが無難だが、長調は「軟弱」と感じられてしまう恐れがあるため、うまくバランスを取る必要がある

こうした状況に対して、増えてきたのが私ぱんちゃが理論的に提唱する「宇宙和声」を使った楽曲です。最近のアイドルの活動曲だけをみても、ROMEO、ASTRO、CLC、SONAMOOと4グループも使っています(これについては、また別途論じたいと思います)。

これに対して、近年の絶対的勝者よちん(イギヨンベ)は、すでに「よちん印」ともいえるような、一貫した和声戦略を取っていることに気づきます。

それは、<平行調転調の使用>です。

ご存知のとおり「転調」とは、異なる音列を有する調を一曲のなかで複数用いることで、ドラマチックな楽曲展開を行うテクニックですが、そのうち<平行調転調>は、全く同じ音で構成される音列を使って長調から短調、短調から長調などと調を変えるテクニックです。使う音が変わらないので、シンプルで歌いやすく(アカペラでも口ずさみやすい)、同時に長/短を行き来することでドラマチックな効果を得ることができます(注1)。

イギヨンベはおそらく、上記の留意点を乗り越えるために、この手法を使い続け、よちん印にしたのだと思います。それゆえ、下記のようなまったくのシームレスなヒット曲ミックスも可能になる、というわけです。

(下手をすると違う曲が交互にあらわれているということにすら気づかないでしょう)

以下、曲ごとにざっとその転調構造を確認してみましょう。

1曲目:Ebmの短調の前サビからはじまり、Aメロでスパっと平行調であるGbの長調に転調。Bメロで徐々に盛り上げサビの短調に戻していく。元曲のソシのタシマンの場合、全体として短調でありながら、長調にもとれるような繊細なタッチで進められるのに対して、この曲では「ここは笑顔」=長調、「ここは泣く」=短調と、感情の切り替えを明快に提示しているのがポイント(注2)。この曲以降、同じ方式が踏襲されていく。
2曲目:基本的にAbの長調だが、平行調であるFmの短調を予期させる和音Bb→Cをサビ前のパートの最後に組み込むことで、長/短のダイナミックな情感の揺れを表現している。1曲目よりも明るい長調的雰囲気が押し出されているにもかかわらず、短調的な「力強さ」「泣き」「情感」のフックが要所で効いている。
3曲目:主にはFmの短調だが、Bメロで最後のDbm(SDM)をきっかけにして平行調のAbの長調に転調し、サビへはC(V)をきっかけとしてFmの短調に戻る。A→Bの短→長の転調も、B→Cの長→短の転調も「転調しますよ~」という明確な形で行われている。またイントロ→Aメロで長→短の転調が行われているが、冒頭、長調であることを提示する手法が白眉(シンセのメロディーラインがポイント)。さすがプロの巧さ。
4曲目:この曲はF#mの短調と平行調のAの長調を行き来するが、加えてF#の長調が提示される<同主調転調>的な要素が入っているのが特徴(とくに今回の曲の顔ともいえるD→E→Fsus4→F)。これはLOVELYZの「君へ」のイントロ・間奏で出てくる和声と同じ手法で、パンチャ的には「パワー宇宙和声」と呼びたい(注3)。これにより、これまで以上に短調の力強さと長調の爽やかさの「いいとこどり」が可能になった。

また、単に転調構造だけでなく、どの曲もIV→V→VIIとかVII→V→IVとかIV→V→III→VIIといった(注4)、かなり類似した和音を使っているのも特徴で、いまやこれをKPOPで聴くと「あ、よちんぽい」と思うほどです。そしてこれは上記の平行調転調をスムーズに感じさせる和声でもあります。

昔のように暑苦しい短調はダメ。電子音びーぶーも疲れた。でも長調だけだとなんか弱弱しいし、お洒落すぎるのもNo…ちゃんと熱くたぎる情感や力強さも欲しい…。そんな状況で、非常にシンプルに「じゃあ、長短両方入れましょう」としたのが、イギヨンベによるGFriendの和声戦略なのだ、といえるかと思います。

はたして今後もよちんは<平行調転調>の戦略を堅持するのでしょうか(恐らくはYESだと思います)。あるいは、4曲目であらわれた宇宙和声的な要素はどうなるでしょうか。これからの動向も興味深いところです。

注1:例えばCの長調とAの短調の例でいえば、前者はドレミファソラシド、後者はラシドレミファソラ。このように音列が同じなだけに、具体的にそれを「転調」と見なしてよいかどうかの判断が難しいという点もあります。

注2:この曲に対しては、発表当初、ソシのタシマンよりもApinkのNoNoNoの方が近いという評価もありました。たしかに<前サビで短調が提示され、Aメロですぱっと長調が提示される>という構造やIV→V→III→VII的な動きはNoNoNoと同じなのですが、NoNoNoはEmとEを行き来する<同主調転調>という、この曲とは異なった手法を使っています。これにメロディーの展開の仕方なども含めて考えると、やはり基本はタシマンを素材とし、これに明快さを加えていくことで結果的にNoNoNoに近くなったのではないかと推測します。

注3:「君へ」が出た際LOVELYZはよちん意識しすぎ!という評があったと思いますが、今回むしろよちんがこれを逆に取りこんで使い倒し、当のLOVELYZなど比較にならないくらい売れまくるという状況になっています。今回のよちんは、今春のOMGを想起させるローラースケート(ただしモノホン)、Apinkのデビューが思い出される「カニポーズ」など、引用に満ち満ちているのも興味深いです。個人的によちんの事務所ソースミュージック社には、「こういう音楽、ビジュアルを提示したい!」という想いやこだわり以上に「うまく売る」という意思が感じられてしまい、この点がよちん=ソースを好きになれない理由なのですが、むしろ文科系的な(表面を装いつつも実は、本来の文科系的な)細かいこだわりを持たず、体育会系的な勢いや明快さを軸としているところが、ソース社の強みなのだろうと思います。ソース社と同じSM退社組のプレディス社も似たような傾向があると思います。

注4:ただしこれは長調であると解釈して相対的な位置関係で表現です。短調であると解釈して表現すると、VI→VII→I、I→VII→VI、VI→VII→V→Iとなります。

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