書籍「ハッカーと画家」を読みました
ついに読みました。
買ったのが2019年のお正月。積んでましたね完全に。
どんな内容の本か噂はかねがね聞いていたのですが噂通りの求心力を持った一冊でした。
思えば熊本で学生をやっていた頃、勉強会コミュニティの社会人エンジニアたちが口々にあの本はすごい、あの本は面白い、やっぱりLispだよLisp、と言っていたのにずいぶんと時間が経ってから読み始めることになってしまいました。
各章が独立したエッセイでテーマがそれぞれ異なるので「へぇー、なるほどー…」と思う章もあれば「そう!!!!!そうなんよ!!!!!」と思う章もありました。
ここでは後者の、個人的にグッと興味をひかれた章について感想を述べます。
第1章 どうしてオタクはもてないか
アメリカの学校生活における(特に人間関係において)パッとしない学生についての分析が書かれた章なのですが、そういうパッとしない学生に対してのエールや励まし100%の章じゃないのが良いなと思いました。日本の学校生活にも当てはまる文章でした。
分析として残酷な現実を見せるような言葉もありましたが、それでもかえってその残酷さが「なぜこんなにパッとしない毎日なのか?」という当事者の疑問に対する誠実な答えになっているように感じました。
狭いコミュニティの中で「そこがすべてだ」と思い込むと見識を狭めてしまうというのも個人的に好きな考え方でした。
時を遡って13歳の自分にアドバイスできるとしたら、まず頭を上げて周りを見てみろと言ってやりたい。当時は気付いていなかったのだが、自分たちがいた世界のすべては張りぼての偽物だった。学校だけじゃない。街のすべてがだ。
(ハッカーと画家 第1章 どうしてオタクはもてないか より引用)
教育用語で「浮きこぼれ(吹きこぼれ)」という言葉があると聞いたことがあります。
いわゆる「落ちこぼれ」の反対で、能力・意欲の高さゆえに学校の環境に対して物足りなさを感じる学生のことを指すそうです。
本章で述べられている"オタク"は浮きこぼれに当てはまっているのかも、と思いました。
浮きこぼれてしまっても学校はそのしくみ上受け止めきれないからこそ、"頭を上げて周りを見てみ"る必要があるのかもしれません。
この辺の話はコミュニティが違えど、以下の記事も思い出されるような内容でした。こちらも良い話なのでご興味あればぜひ。
狭いコミュニティ、あるいは「つきあう人が選びにくい状態」の息苦しさについてと、それ脱する工夫や心の構え方について述べられているnoteです。
「ハッカーと画家」の話に戻ると、学校コミュニティの悪いところをズバズバ言ったり、パッとしない毎日についてズケズケ言ったり…Googleの「寄贈図書」に選ばれた理由もわかる気がします。
( Google Japan Blog: エンジニアが厳選した 10 冊を、次世代のプログラミングを担う皆さんに )
他のエンジニアリングやものづくり哲学に関わる章も面白いんですが、この章は「印刷して学校に貼り出して、読んだ子の頭の中がぐわんぐわんにかき回されてほしいなぁ…」と読みながら感じていました。
寄贈図書としてぐわんぐわんにかき回しているのでしょうかね。そうなったら面白いのに!
第2章 ハッカーと画家
ハッキング(ここでは技術を通して物事やソフトウェアをより良くしようとする活動のことを指す)と絵を描くことの相似点や目指すべきコーディングスタイルについて触れられている章ですが、クリエイティブコーディングに取り組むためのヒントが散りばめられた章だと感じました。
考えてみればクリエイティブコーダーはハッカーと画家のちょうど中間の存在と言えるかもしれませんね。
絵画とハッキングの共通点として、最初は下手であってもオリジナリティを持って、そこからステップアップしていくことがあげられています。
本文中では、
絵を描くことは、絵を描きながら学ぶ。ハッキングも同じだ。
(ハッカーと画家 第2章 ハッカーと画家 より引用)
と述べられています。
クリエイティブコーディングもまさにこの考え方…というかドンピシャですね。本当に絵を描くことともハッキングとも親和性高いですね。
最初は小さく、下手くそでもとにかくやっていって、そしてどんどん積み上がるものもある…ということだと思います。
正しさだけを正しいものとして扱わないというか…正解の積み重ねだけが良いものを作る手段ではないということですよね。
また、絵画の制作方法としての「スケッチ」を例にあげ、ハッキングもスケッチのように当初の計画から外れても良くて、むしろ作りながら考えたり次第に詳細化していくやり方が合っているという話もありましたが、この考え方もクリエイティブコーディングとつながるところがありますね。Processingの作品のことはそもそも「スケッチ」と呼ぶわけですしね!
もうひとつ共感できる考え方として、絵を描くにもハッキングするにも、文中表現で"周期"、いわゆる「波」があり、それを考慮した上で作業に取り組むべきという話がありました。
まさに同意するところで、クリエイティブコーディング…というかものづくり全般そうなんじゃないですかね?波があると理解すること、そして波があるのは当然と思って取り組むことが大事ですよね。
できる時とできない時とで過ごし方を工夫するのが楽しくものづくりに取り組むためのポイントなんだと思います。
第9章 ものつくりのセンス
パワフルで素晴らしい文化はその土地とそこに住む人々が受け継ぐ"遺伝子"が形作るのではなく、人と人とのコミュニティに根ざすのだという考えが好きでした。
関連した問題を解こうとしている才能ある人々のコミュニティほどパワフルなものはない。それに比較すれば遺伝子の影響なんて小さなものだ。
(ハッカーと画家 第9章 ものつくりのセンス より引用)
本文中では"ホットスポット"と呼ばれているコミュニティについては、まさにものづくり文化では馴染みのあるものですよね。初心者を大事にするとか教え合うとか、作ったものを見せ合うとか…そういう場が文化を育てるのだと思います。
良い人は良い集団に集まって良い文化になっていくんでしょうね。
また、遺伝子(生まれ育ち)の影響を否定することは、センスは先天性100%ではなくて、後からでも身につけられるものだと解釈しました。これは希望のある話だと思いますし、一方で茨の道を行く覚悟が求められる話でもあると思いました。
第16章 "素晴らしきハッカー"でも、ハッカーの資質として"好奇心が強い"ことがあげられていますが、好奇心も(身体能力や歌唱力などに比べれば)生まれ持った特別な才能ではなく、毎日の心がけ次第かなと思います。
そういう点においても後天的に「なれる」可能性があるというのは希望のある話だと思います。
第14章 夢の言語
素敵なプログラミング言語を設計したり世に出したりしたいならこうでなくっちゃ、というトピックなのですが、以下の文章にハートをぶち抜かれました。
とにかく自分の伝えたいことを話し続ければ、いずれ人々は耳を傾けてくれるようになる。人々があなたに注意を払うのは、あなたがそこにいると気付いたときじゃなく、あなたがまだそこにいることに気付いたときだ。
(ハッカーと画家 第14章 夢の言語 より引用)
この文章を読んだ直後、大急ぎで手元のスマホを手にとって、Evernoteのアプリを立ち上げて「技術書を出版する時、章の冒頭で引用したい文章」というノートを新規作成しました。気が早すぎる。
この文章は自分の作ったものを世に出しているすべてのクリエイターの心に届けたい名文だと思っています。ハッカーだって、Pixivの絵師さんだって、Youtuberだって、もちろんクリエイティブコーダーだって!
これが作者の仕事上の経験から導き出された文であるというのもシビレますね。
よく物事続けるのが大事、といいますが上達のためだけでなくて、周りに自分の存在を気づいてもらうためにも大事なんですね。
めちゃくちゃ心にぶっ刺さった言葉と考え方でした。
第15章 デザインとリサーチ
良いデザインを成すための良いリサーチについて述べられた章ですが、第2章"ハッカーと画家"にもあったスケッチから詳細化していくものづくりの方法が"プロトタイプ"制作として再登場しています。
これが、実はものづくりの"士気"の面でも良い影響を与えるというのが興味深かったです。
途中で飽きたり没頭できなくなってくると、完成品も退屈なものになってしまうだろう…という考え方です。
たしかにものづくりにおいてテンションを保つことは大事なわりに難しいことですよね…。だからこそ、プロトタイプとしてちょっとずつ積み上げていくことによって見た目の完成度やクリエイターの精神的満足度と士気・テンションを保つのがポイントになってくるのだと思います。
未完成品がいつまでも転がっていると士気が下がったり飽きが来やすくなる…ということは、「いつやめてもいったんはそこで完成品に見えるもの」を作るのが一番良いんでしょうね。実際作者はソフトウェア開発においてはそのように心がけているようですし。
クリエイティブコーディングにおいても同じことが言えそうですよね。
いつやめてもいったんはそこで完成品に見えれば、気軽に投稿して、続きはまた明日のお題にすればいいので結果的にテンションを保ったまま制作を継続できるという…やっぱりものづくりにはコツが色々あるわけですね。
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この本が初版で出たのは平成17年(2005年)1月で、今から15年も前になります(!)。
ちょっとひねくれた楽しみ方かもしれませんが、本の中に書かれている色々な予想や想像を、この15年に起こった社会や技術の変化と照らし合わせて「答え合わせ」するのも楽しかったです。
私の中で一番好きな「答え合わせ」は第5章"もうひとつの未来への道"の脚注にある以下の文です。
iPodをWebブラウザ付きの携帯電話へと進化させることができれば、マイクロソフトは困難に直面するだろう。
(ハッカーと画家 第5章 もうひとつの未来への道 から引用)
初代iPhoneは2007年1月に発表され、同年6月末に発売されたそうです。すごい。
最後にどうでもいい話なんですけど、2年前オーストリアに滞在した時のホテルの朝食券が出てきたので、この本を読む間はそれをしおりとして使っていました。
早く旅行とか行けるといいですよね〜。飛行機に乗りながら読書とかもね。
Processingとp5.jsとクリエイティブコーディングが大好きです。 めちゃくちゃ元気!