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2017年1月1日。活躍し奮闘した小林悠に、番記者の自分は「4.5」を付けた



自分も使用している寝具メーカー・ライズTOKYOさんで「悔しかった試合を振り返る」エッセイコンテストをやっているので、書いてみようと思う。


10歳くらいからサッカーをプレーしスポーツメディアで仕事をしているので、悔しさを覚えた試合とは常に隣り合わせだった。色々浮かぶ。

「メディアの側で“悔しい”とかあるの?」と疑問に思う人もいるだろうから、説明しておく。

自分はこれまでのライター人生で3度の番記者を経験をしている。エルゴラッソでの湘南ベルマーレ(2012&2013)&川崎フロンターレ(2014-2016)と、月刊グランの風間さん連載から来た名古屋グランパス(2017~2019)である。


もともと強い思い入れがあったチームではないのだが、定期的に練習場へ行って選手やスタッフと会話することで自然に愛着が湧いてくる。そして、試合には勝って欲しいと願うものだ。友人やきょうだいがスポーツや勉強を頑張っている姿を間近で見ていると自然と応援したい気持ちが出てくると思うのだが、それに近い。

当然、勝ったら嬉しいし負けると悔しい。

2013年の湘南は久々のJ1でなかなか勝てずに最終的に降格し、2014~2016年の川崎Fは優勝候補とされながらもそれを成し遂げることが出来なかった。名古屋も残留争いをしたり、長期間勝てない時期があった。そういう意味では悔しかった試合を、かなり多く経験している。

そんな、数多ある「悔しい試合」の中で自分が最も印象的な試合が1つある。

2017年天皇杯決勝・川崎Fvs鹿島である。


ラストマッチで悲願はならず


この試合の前に自分はエルゴラを離れることが決まっており、2017年の元日決勝が川崎Fの番記者として取材する最後の試合だった。5年近くチームを率いた風間八宏監督と3度の得点王に輝いた大久保嘉人の移籍も決まっていた彼らにとって川崎Fでのラストゲームだ。近年の功労者と共に悲願のタイトルを、という思いは組織として強かったと記憶している。加えて、2016年の1stステージとチャンピオンシップの2回、川崎Fは鹿島にそのタイトルを奪われている。リベンジの思いも強かった。

しかし、結果は1-2での敗戦に終わる。

立ち上がりから攻め込むもゴールは割れず、40分にCKから先制を許す。後半に投入された三好康児が躍動し彼のアシストから小林悠が同点弾を決め、その後も押し込んだが逆転までには至らず。延長戦でファブリシオにゴールを許し初タイトルをまたも逃した。

幾度も行く先を阻んできた鹿島アントラーズ相手に、また苦杯をなめさせられた形だった。


“前提”を考えれば低評価


ラストゲームでタイトルが取れるほど甘くはなかった。元日に早起きをして大阪へ向かったにも関わらず勝利できなかった虚しさと悔しさに苛まれながら選手の取材をして新幹線に乗る。ただ、仕事をしなければいけない。

敗戦を受けてのJリーグ公式サイトへの原稿と、エルゴラ用のレポートを書かなければいけなかった。そしてもう1つ重要な仕事があった。

それが、「採点」だ。

エルゴラ本誌の強みとして採点とMOMが上げられるのだが(選手もけっこう見ている)、これが自分にとって最後の選手採点になる。

基本的に負けたチームが高評価を取ることはなく、5.0~6.0の間に全て落ち着くのが通例だ。その中で失点に直結するミスや著しくパフォーマンスが悪い選手は5.0を下回ることがある。ただ、選手も見ていることもあり、4.5や4.0を選手に付けるのはけっこう勇気がいるものだ。

全員の採点は覚えていないが、鮮明に記憶していることがある。

この試合で同点ゴールを決め、幾度もチャンスに絡んだ小林悠に“低評価”と言える「4.5」を付けた。

7分の同点ゴールは素晴らしかった。試合を通じて起点となりゴール前にも迫り、チャンスも多く作った。ただ、同点となり押せ押せの展開となった19分に訪れた決定機で、彼はシュートをポストに当ててしまった。その後は上述した通り。川崎Fは初タイトルを逃した。

この場面が勝敗の分かれ目だったと思っている。

試合のパフォーマンスだけを見たら、負けたとはいえ少なくとも6.0は間違いなく、6.5をあげても良かった。ただ、この日のチームが求めていたのは勝利であり、小林悠に求められたのはタイトルに導くゴールを決めることだ。その前提を考えれば、高評価は与えられないと思った。

あのポストに当てたワンシーンと試合の結果が、4.5という数字を導いた。


もう1つの理由

実は、理由は上述したものだけではない。ある個人的なメッセージがあった。

「チームを優勝に導くストライカーでないと評価はされない。あなたはそういう選手にならなければいけない。そうならないと、フロンターレは優勝できない」


本格的にサッカーをやったのは高校までの人間が、代表歴もあるプロ選手に何を言うんだと思うだろう。ただ、長年チームを率いて基盤を作った指揮官と絶対的エースが抜けた中、川崎Fが強くなるには大卒から川崎一筋でプレーするFWがもう一皮剥けなければならないと強く思ったのだ。

番記者として最後の採点になるし、何か意味のある発信をしたい。そんな考えもあったことをここで記しておく。

✑✑✑


エルゴラの番記者として最後の採点を終えて少し経った後、仲良くさせてもらっている先輩ライターの飯尾さんと話す機会があり、次の年(2017年)の川崎Fの主将は誰が良いか? という話になった。

2人の意見は一致して、「小林悠」だった。

自身の横で常に点を取っていた大久保嘉人と成長させてくれた指揮官がいなくなる。天皇杯の決勝でも活躍しながら悔しい思いをした。そして、このチームは中村憲剛に頼りすぎていたこともある。

生え抜きでもある彼がチームを背負う、責任を持つには最適なタイミングだし、川崎Fが変わっていくには必要な変化と言えるかもしれない。

そんなことを話していたら、本当に2017年のキャプテンは小林になった。

そして、そのシーズンの結果は……ここに記すまでもないだろう。











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Reona Takenaka
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