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一人での内見案内

 午前10時、旧田中邸の内見をされる阿部様が大沢集落に到着。某大学の助教授もしているというランドクルーザーの主はまだ若い、世間的にはイケメンの部類に入る好青年だった。なんでこんな人がこの物件に興味をもったのだろう。先ずはわが社の社長、三毛猫のちはるを紹介し、家の中に入る。家の中は、意外と片づけられ綺麗だった。外見だけで判断していた私は拍子抜けし、とっさに父から事前に渡されていたメモを確認し、どうにかこの家の状況を説明した。阿部様から、現在の家の状態を確認されたがメモ以上のことは分からないという他はなかった。他人が作ってくれた資料だけは分からないことがたくさんある。限界集落の空き家紹介には何が必要なのか、もう一度調べてまとめてみよう。言われたことだけやっていては、お客様に失礼だわ。猫社長が、率先して案内してくれて助かった、セイばあちゃんはハナなら大丈夫と付き添いを断られたし・・・・
 阿部さんは、楽しそうに家の内外を眺めている。裏に廻ると枯草に覆われた畑を歩き回って確認している。ふと、近くにある元分校を見て問いかけてきた。「あの分校の中は見れるの?」
 元分校の建物は、毎日見ていたが入れるかどうか考えたことが無かった。セイばあちゃんや父からも分校の話は聞いていない。どうしたらよいか分からず、三毛猫の顔をみた。三毛猫が付いておいでというように、とことことセイばあちゃん家に向かっていく。阿部さんには、ここの住民に確認しますので一緒に来て下さいとお願いし、三毛猫の後をついていく。セイばあちゃんはお昼ご飯の支度をしていた。阿部さんを見ると笑顔でお茶とお菓子を出し、分校の鍵を渡してくれた。私は気が付かなかったが、セイばあちゃんは集落の空き家の管理を頼まれているらしい、時折、窓を開けたり点検をし、何かあったら元の持ち主に連絡しているのだそう。元分校も役場に頼まれ、見回りをしているとのことだった。役場に電話し、許可をもらい3人と2匹で分校を見に行くことにした。道すがらセイばあちゃんは、賑やかだった頃の分校の話を阿部さんにしている。最盛期には20人ほどの子どもがいたこと。中学生は町の寄宿舎に入り、そのまま高校へ進学し就職。町に家を建て親を呼び寄せ、集落から人が居なくなり分校は閉鎖。分校が閉鎖されて、子どもがいる人は町へ出ていき、また人が居なくなる。その結果が今の大沢集落だし、日本にあるたくさんの限界集落の実態だと話すセイばあちゃんからは、怒りも悲しみも感じられなかった。そうか、そんな負の連鎖が限界集落を生み出していたのかとしみじみと考えに耽っている私の隣で、阿部さんは楽しいおもちゃを見つけた子供のように猫たちとじゃれ合っていた。
 

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