ハナの独り言part2
薄明りの中で、雀の鳴き声とかすかに湿りけを帯びた暖かい空気が私を包んでいる。隣では、レオが街にいた時にはみせたことがない、本当に満足そうな顔ですやすやと眠っている。まだ明けきらぬ朝もやの中で、昨日の出来事を思い出してみる。自分から話すことは苦手で、親とさえあまり話したことのないのに私が、初めてあったセイばあちゃんには自分の祖母や親よりたくさん話せた。こんなに他人と話せたのは初めてかもしれない。セイばあちゃんと隣にいた三毛猫の眼差しが妙に暖かく、何を話しても大丈夫だと思えたからだ。一昨日まで、全身鎧に身を固め他人にには決して本当の自分を見せまいと頑張っていた私。なのにこの集落に足を踏み入れたとたん、肩の力がストンと抜けありのままの自分でいて良いのだと思えた。たった一晩過ごしただけで、私に何が起きたのだろう。あの三毛猫に何か、魔法をかけられたのかしら。それならとっくに、レオの目を見た時から魔法にかけられていたのかも知れない。大人しくて聞き分けの良い子を演じていた私が、初めて自分の本心を言えたのだから。
さて、これからどうしよう。宅建の資格はあっても会社は首になり、開業するほどのお金も持っていない。管理人兼セイばあちゃんのお手伝いをすることで家は無料で借りられたけど、生活するためには多少のお金は稼がなきゃ。限界集落だけど通信施設などのインフラは使える。セイばあちゃんが米や野菜などを分けてくれると言ってくれたけど、自分の食い扶持くらいは稼がなきゃも申し訳ない。セイばあちゃんに相談しながら私に出来ることを探していくしかないな。でも、あの三毛猫に出会った瞬間、私は変わることが出来るような気がした。自分でも思っていなかった新しい道が広がりそうでワクワクしている私がいる。レオと楽しく暮らしていたあの夢を実現してみたい。障子越しに、昇って来た朝日の暖かさを感じる。セイばあちゃんが起きたら朝ご飯を食べにお出でといってくれた。遠慮しないでレオと一緒に朝ご飯を食べに行ってみよう、あの三毛猫にも会いたいから。朝日の光は、新しい世界にいざなうように輝いている。さあ、レオを抱いて一歩を踏み出してみようかな。