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アイドルオタクが「自称・アイドル」漫才師を好きになった話


思えばずっと、アイドルが好きだった。


10年以上前、とあるアイドルのゲームにハマった。そこからライブに通うにつれてジャニーズを追いかけるようになり、複数のファンクラブを掛け持ちするまでになった。
キラキラしたアイドルは私の心の拠り所で、いつも推しから元気を貰っていた。

しかし最近、そのゲーム作品が大荒れしてしまい、自分のモチベーションが大きく下がっていた。
こういう時は全く別のジャンルにハマる方がいい。なんとなく好きだった「お笑い」なら多少の気分転換になるかも、と思った。

お笑いは、自分の趣味のなかではサブポジションで、テレビやYouTubeで好きな芸人さんの番組を見たり、ネットで話題になったライブ配信を買う程度だった。
その日はたまたま予定がなかったため「THE SECOND」の準決勝の配信を購入した。

その時に出会ったのだ。熱くてカッコいいおじさん2人組に。

289点の男たち

「THE SECOND」は今年から始まった芸歴16年目以上が出場できる賞レースだ。
先攻、後攻に分かれて、6分間の漫才を披露するタイマンバトル。お笑いファン100名が審査し、勝った方が次のコマへ進める。準決勝は16組から8組に絞られる。

元々、この配信はランジャタイを見るために購入したものだった。
一度でも生で見たことある人はわかると思うが、ランジャタイの放つ笑いのエネルギーはすごい。2020年のM-1ツアーではじめて見た時から、破茶滅茶で奇天烈なランジャタイの虜だった。

今日の試合に勝てば決勝戦だ。またテレビの賞レースでランジャタイが見られる。対戦相手を調べた。

「先攻・マシンガンズ」

…誰だろ、このおじさん。
頭の中のデータベースを検索してみたもののヒットしない。マシンガンズ、うーん…聞いたことあるような、ないような…。

後々知ったのだが、当時エンタの神様やレッドカーペットにも出ていたらしい。リアルタイムで見ていたはずなのにすっかり忘れていた。
大変失礼な話ではあるが、最近はM-1で話題になる芸人とその周辺しか追ってなかったので、ニワカの戯言だと思って許してほしい。

しかもこの日のランジャタイは後攻。
ザセカンドは準決勝まで先攻漫才→先攻採点→後攻漫才→後攻採点の順だったので、後攻の方が有利だと言われていた。(人間の心理としてどうしても先攻の採点は様子見しやすい、ということらしい)

そんな事情もあり、まぁランジャタイが勝つでしょ、と夕飯のお皿を洗うためにパソコンの前から席を外した。
完全に侮っていたのだ、マシンガンズの漫才を。


「おい、ここにいる奴ら!どうせランジャタイが勝つと思ってるだろ!」
「俺らだってなあ、こんな売れっ子と当たりたくないんだよ!」


パソコンから聞こえるガナリ声。
まさにさっき思ってたことを言い当てられ、思わず笑ってしまった。

どうしよ、面白いかも。
グッと引き込まれる。思わず洗い物の手を止め、パソコンの前に駆け戻った。

フリートークとも掴みとも嘆きとも取れる漫才は、とんでもないスピードで展開されていく。怒涛の手数と熱量がエゲツない。ひとつひとつのボケとツッコミ全てに笑いが乗っかっていた。
後半は、Yahoo知恵袋に書かれていた悪口(対三四郎戦の時に披露したネタ)を中心に、叫び、飛び跳ね、最後に息を切らしながら「よし帰ろう!」と嵐のように去っていった。
その勢いと面白さに圧倒されてしまった。

マシンガンズは漫才だけではなくトークも絶品で、試合後にボケまくる国ちゃんに嘆いたり軽快にツッコんだりしていた。


そして結果発表。マシンガンズは300点中289点と、その日の最高得点を叩き出したのだ。

すげー。ランジャタイに勝っちゃった。
しかもこれだけの点差で勝ったということは、現地ではとてつもなくウケたに違いない。
推しが負けたこと以上に、目の前の勝者が気になる。
決勝進出が余程嬉しかったのか、2人はステージから掃けた後も、客席に聞こえるぐらい何度も叫んで喜んでいた。

この人たち、マジかっけぇ。
私のなかで知らないおじさん2人から、面白いコンビ「マシンガンズ」になった瞬間だった。

THE SECOND 準優勝

そして、ザセカンド決勝。
この勢いそのままに、決勝当日のマシンガンズはノリに乗っていた。

1回戦で金属バットを破ると、2回戦で三四郎をブチ抜き、あっという間に決勝戦まで勝ち進んでいた。待機室でのやり取りも客席の笑いを誘うもので、ベテランの余裕すら感じられた。
ラストのギャロップとの3回戦ではスタミナ切れ(ネタ不足)が指摘されたが、それでも笑い声は充分すぎるほどで、会場を大いに沸かせていた。

この熱量を、絶対リアルで味わいたい。放送直後に思ったことだ。


その後、たまたまおすすめに流れてきたツイートで、マシンガンズが6月半ばに下北沢の劇場に立つことを知った。
1ヶ月後、彼らの漫才に会える。今年の目標はすぐ叶いそうだ。

ビジュ爆自撮りおじさん

その後のマシンガンズの勢いは凄かった。
「マシンガンズ」「滝沢さん」のワードが8日連続でトレンド入り。
ビジュアルの良さが爆発してる(=ビジュ爆)と大好評で、衣装がブルベにピッタリだとか今の髪型が素晴らしいとか連日熱狂しているツイートを見かけた。ネットにはこんな記事もあがった。


そうか、顔ファン増えてるんだ。
正直、滝沢さんのビジュアルについては言われるまで意識していなかった。

なにせジャニオタは美の基準がアイドルなので、顔がカッコイイと認識するハードルが異常に高かったりする。
だってビジュ爆は目黒蓮のためにある言葉だからね!

横顔が美しすぎる男、目黒蓮


でも確かに、滝沢さんってカッコいいかも…!
顔は和牛•川西さんの系譜だし、いわゆる”塩顔好き”にはたまらないんだろうな。
どちらも最近まで肉体労働をしながら芸人をしていたからか、体型も引き締まっている。到底46歳と48歳のコンビには見えない。

滝沢さんの方が注目されているが、私はどちらかといえば西堀さんの顔が好きだ。
照れたら物で顔を隠してみたり、笑顔や仕草がとにかくチャーミングだ。
特にエンタの頃ぐらいの若い写真はめっちゃタイプだったので、当時知ってたらリアコになってたかもなぁ。

そんなファンの声に応えてか、滝沢さんも西堀さんも毎日自撮りをあげるようになっていた。
「自撮りおじさん」のタグで他の芸人さんの写真も上がる。皆楽しそうだ。

時々ん?と思う投稿もあるが、そういう不慣れなところも親しみやすくていいんだろうな。
この頃にはすっかりマシンガンズに興味津々で、ラジオの過去回を聞き直すようになっていた。

“自称・アイドル”漫才師

マシンガンズは「ネガ⇒ポジ」というラジオ番組を持っており、2週間に1度生配信を行っている。
この日は1ヶ月ぶりの収録日。ザセカンド後初めての配信だった。
同時視聴数は前回の100人から1700人にまで膨れ上がっていた。

どんな話が聞けるんだろうと期待に胸を膨らましていると、ザセカンドの振り返りもそこそこに、
「最近聴き始めた人は知らないと思うけど、俺たち昔からリョウ&シュウでやらせてもらってるから!」と、いきなり”アイドル”という設定で話し始めた。
昔から自称•アイドルとして女子にモテまくっているという設定を謳っていたのだが、なんと現実の方が追いついてしまったのだ。

賞レース後に一気に女性ファンが増えるのは世の常で、そういう”ワーキャー”ファンが芸人から煙たがられているのは知っていた。
しかしマシンガンズはこれを機にグッズで稼ぐぞ!と前向きに捉えてくれているようだった。

どうやって人気をお金に変えようか、流行りのグッズ展開を考えたりと商魂逞しい。
ただ、その発言内容が昭和そのものだったり、ちょっとズレてたりするから面白い。

もちろん今までの古参リスナーも労りつつ、滝沢さんのDMが晒された話など、一時ファンをザワつかせていた話題まで軽やかに乗りこなしてみせた。
すげー。芸歴25年はやっぱり伊達じゃないな、と舌を巻いた。

思うに、マシンガンズは客観視に長けたサービス精神の塊の人たちなのだ。
モテたい!チヤホヤされたい!と言うものの、根底にはファンに喜んでほしいという思いが見える。そして、今の爆発的な人気ごと全て笑いに変えてやろうという気概が感じられた。

この頃には、冗談ではなく「本当にこの2人はアイドルになれる素質あるかもな…」と思い始めていた。

「ショーゲキ しもきたド〜ン」の衝撃

そして6月17日。
いよいよ待ちに待った下北沢のライブ「ショーゲキしもきたドォ〜ン」の開催日を迎えた。

3階が会場のようだが、1階には古着リメイクや雑貨のテナントがあり、2階はスーパー、3階は進学塾まで入っているような古めのビルだった。
本当にここで合ってるんだよね?と不安になり、何度も公式HPを確認する。
ラインキューブやルミネのような大きな箱では見たことがあったが、小劇場でお笑いを見るのは生まれて初めての経験だった。

2000円を受付で払い、中に入る。パイプ椅子とほとんど高さのないステージがそこにはあった。

コンサートの最前列と言っても遥か上のステージを見上げるのが常だったので、こんな至近距離で推しを見た事がなかった。
後ろの方から「しもきたドーンってこんなに人が入るんだね」という声が聞こえてきた。この狭い空間に60人以上が押し寄せていた。
開演が近づくにつれ、期待と緊張で鼓動が早くなる。19時になるとライブが始まった。

「今日はやけに人が多いですねぇ〜」
「皆”あの人達”を見にきたんですよ!」

MCの方々が嬉しそうに話す。そうだ。あの会場にいたほぼ全員が、マシンガンズを見にきていた。
その日の座組は、まだ名前が世に知られていない若手を含め、本当に面白い人達ばかりだった。色々な芸人さんがステージに立ち、会場を盛り上げていく。どんどん風船が膨らむように、高まる期待を肌で感じる。
マシンガンズはその日の大トリで出てきた。


「おいお前ら、歓声が足りねーぞ!もっと騒げ!」
本物だ。思わず息を呑む。


初めて見たマシンガンズは、とにかく凄まじかった。
時事ネタでザセカンド批判を茶化しつつ、ステージ上で自撮りを始めた滝沢さんに西堀さんが突っ込む。そこから怒涛の応戦の嵐。
2人で片腕を高く上げてツッコむ”例のポーズ”のときは皆が待ってましたとばかりに拍手する。
会場が一つの塊となって、笑い声が弾けた。

漫才ってこんなに面白くて、楽しいんだ。
汗だくになりながら全力で漫才をしてる2人は、もうめちゃくちゃにカッコ良かった。

漫才が終わりトークコーナーになると、俺らをじゃんじゃん撮れ!と滝沢さんに囃し立てられ、皆がスマホを取り出す。
一斉にスマホを向けられると、バックハグや指ハートなど、アイドルポーズを惜しげもなく見せてくれた。
2人は嬉しくてたまらない様子で、このまま俺んちに全員泊まりに来い!と滝沢さんが言うと、西堀さんがすかさずツッコミを入れていた。
そんな2人をみてステージ上にいたMCやハンジロウさん、客席全員が大笑いしていた。

満席の会場で爆笑を掻っ攫っている2人は、キラキラ輝いて見えた。

会いに来てくれてありがとう

トークコーナーの最後にはこんな話題になった。
「何か宣伝したいことはありますか?」
メディアはこれから解禁になるものもあるからと、西堀さんはご自身で発明された靴を丸洗いできる洗濯ネット、滝沢さんはゴミの日に発売された新刊を宣伝していた。

本買ったよ〜の意味で鞄から本を出したところでMCの方が「あ、手前のお姉さんが持ってる本ですよね!」と反応してくれた。

「ありがとうございます!あとでサイン書くので声かけてね!」滝沢さんが呼びかけてくれた。

えっ、サイン?公演終わってから対応してくれるの…?その言葉に心がザワつく。出待ちは自分のなかでタブーの領域だった。

終演後まで付き合わせるのはマナー違反、というのはもちろんあるが、それ以上に素の推しを知るのが怖いと思っていた。ステージを降りた推しに幻滅したくなかったのだ。

私は学生の頃、とある声優さんを追っていた。
その人はファンとの交流を好むタイプではなかった。声優はあくまで裏方という思いもあったのかもしれない。イベントで直接ファンと交流する時も浮かない顔をしていたし、出待ちは”居ないもの”として徹底的に無視された。そんな様子を横目で見て心が痛んだ。
自分がファンでいることで、相手に負担をかけたくないな。その時から漠然と抱いていた思いだった。

大丈夫かな。さっき本人も言ってたし、待ってていいんだよね。
1時間ぐらい待つことを想定していたのだが、滝沢さんは終演後すぐに1階まで降りてきてくれた。ファンが一列に並ぶ。
先程あれだけ汗だくだったからすぐに着替えたいだろうに、ファンから評判のいい舞台衣装のまま対応していた。

ほどなくして「一緒に写真撮ろうか?」と西堀さんも来てくれた。
「面白かったです」というファンの言葉に「俺はいつでも面白いの」と気さくに返していた。

あ、2人ともいい人だ…。緊張がほぐれる。
ステージ上で見ているイメージと全く変わらない。あまりの不変さに驚いてしまった。
この人たちを好きになって良かったな。初めて会ったのにそう思った。

先程の言葉通り、滝沢さんにはサインを書いてもらった。サインには日付と一言メッセージが書き添えられていた。

“◯◯ちゃんへ 会いに来てくれてありがとう!”

嬉しかった。私、会いに来て良かったんだ。
趣味は自己満足の世界。勝手に好きになって、コンテンツにお金を払ってるだけ。そう思ってた。
でもその時だけは、自分の存在が少しだけ許されたような気がした。

帰りの深夜バスに揺られながら、先ほどの余韻に浸る。
マシンガンズは、もしかしたら世間で騒がれているほどカリスマ的存在ではなくて、普段は案外普通の人なのかもしれない。
だけど、漫才をしてる姿はとてつもなくめちゃくちゃカッコいいのだ。

私はステージの上にいるアイドルが好きだ。
私の定義するアイドルとは「内側から出るきらめきで、他人まで輝かせることができる存在」だと思っている。

あの日下北で見たマシンガンズは、本当に輝いてみえた。まるで、あのきらめきで、自分の平凡な人生まで輝くような。
たった一瞬でも、誰かをそんな気持ちにさせることができる存在。 
だから、この人たちは最高の漫才師であり、私にとっては”本物のアイドル”なのだ。


マシンガンズの漫才を少しでも面白いと思った人は、ぜひ一度劇場に足を運んでみてほしい。
あの熱量は、リアルじゃないと味わえないから。



また会いに行こう、劇場へ。



後日談

このnoteをツイッターに投稿したところ、数多くの方々にご覧いただき、いいねや温かい感想を沢山いただいた。「感動して泣いてしまった」という言葉にこちらこそ涙が溢れそうになった。
こんな拙い文章に最後までお付き合いいただき、改めて感謝いたします。これもひとえにマシンガンズおふたりの人徳のなせる業です。

そして投稿の翌日、とんでもないことが起きた。

やっぱり本物のアイドルじゃん!!!!

推しのアイドルから直接ファンサをいただきましたので、またこのnoteに長文を書いていきたいと思います。
推し活って、楽しいなぁ!(ジャンプ)

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