【小説】昼下がりのカフェにて(裕✖︎妃夏)

※注意※
以下のリンクの「ストーカー」を先にプレイすることをお勧めします。


これは、君と紡ぐその後の話。

待ち合わせのカフェの窓から、手持ち無沙汰にコップをくるくる回す1人の女性の姿が見えた。

俺こと、浪川裕の同級生である中森妃夏である。

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妃夏とは4月中旬頃に履修した講義で知り合った。
その講義はグループ課題を中心に授業を進めていく形となっており、そのグループは出席番号順で組むことになった。

その際に中森妃夏と中山喜依と知り合った。

その時は、喜依は初対面でも物怖じせずにガンガン人と関わっていける性格だが、妃夏は極度の人見知りで自分の意見を主張するのが苦手な性格なように見えた。

最初に妃花と会った時、胸に抱えていた教科書とノートの端が折れるほど、警戒心を抱かれていたっけ。


今でこそ笑い話だが、当時の俺はただただ困惑した。

…ーーこんなんで、グループ課題できんのか、と。

しかし話す機会が増えると同時に妃夏は徐々に徐々に心を開いてくれるようになり、課題に対していろいろアドバイスを出してくれるようになった。

一方の俺の方も、喜依や妃夏の性格について、時間と共に分かるようになった。

喜依は明るく分け隔てなく人と接することができるが、その一方で悪口や愚痴、冗談などに対して重く受け止めてしまい、上手く返すことができない。また義理人情に厚く、困っている人を放っておけない危なっかしい性格でもある。

妃夏は人見知りが激しく引っ込み思案だが、心を開いてくるようになると自分の意見や気持ちをちゃんと言ってくれる。このことからも分かる通り、基本的に真面目で優しい。それに付け加えて、計画性があり、遊びなどにおいて段取りを立てるのが上手い。何事も計画的に物事を進めていくタイプだ。

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そんな2人と関わることが多くなるにつれて、2人といる時間がいつの間にか居心地のいい時間に思えて、気づけばきっかけとなった講義が終わっても2人いることが多くなった。

そんなことを思い出しながら、そろそろ妃夏を待たせるのも悪いと思ったので待ち合わせのカフェの扉を開けた。

そのカフェは事前にレジで注文するタイプのカフェで、沢山の種類のレシピから適当にアイスコーヒーを選択し、妃夏に待たせた謝罪としてクッキーを買うことにした。

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800円と学生にとっては地味に高い金額を支払って商品が来るのを待っていると、カフェの店員が申し訳なさそうに俺の方に近寄ってきた。

「お客様、大変申し訳ありません。
ただいまコーヒーを焙煎するための機械が故障してしまいました。
返金しますしお代はいらないので、他の商品と変えていただくことはできないでしょうか?」

…どうやら運悪く俺のアイスコーヒーはできないらしい。仕方ないのでアイスミルクティーを選択し、しばしカウンターの側でアイスミルクティーができあがるのを待つ。

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ふと妃夏の方を見ると、どうやらテーブルにあった紙ナプキンで落書きをしているようだ。
カウンターから席までは遠くよく見えないが、あれは歪な犬なのだろうか。あるいは得体の知れない未知の生物だろうか?

真面目な妃夏はよく前の方の席に座っているが、昨夜の予復習で眠たいのかよく目を擦りながら講義を聞いてることが多かった。


その際に彼女の小さな頭がコクリコクリと揺れ動いいたせいか、たまたま後ろから見えてしまった彼女のノートの隅には得体の知れない未知の生物が「ここは重要だよ!」と言っているようだった。

「何あの生物」と講義後に聞くと「犬だよ!」とぷくりと頬を膨らませながら怒ってたっけ。

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そんなことを思い出しながらクスクス笑っていると、「大変お待たせしました」と、できあがったアイスミルクティーがカウンターに置かれた。

甘ったるいミルクと香ばしい紅茶の香りが鼻に抜ける。
その心温まる優しい香りはまるで彼女を思わせる。

…この優しさを二度と手放したくないと思った。

と言うのも、妃夏のストーカー事件後、俺と喜依の関係性も拗れてしまった。

喜依の犯行動機も犯行に至った経緯も聞いたが、妃夏が直接、何が悪いことをした訳でもない。
喜依の周囲が無意識に悪意を彼女にぶつけていただけであって、妃夏が悪ではないからだ。

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だからこそ真相を知った時に喜依をひどく責めた上で、妃夏に心からの謝罪を要求した。その一方で、喜衣の弱さを理解していたのになんで何もできなかったのだろうと己の不甲斐なさに苛立っていた。

結局のところ、妃夏を守ることも事態を改善させることもできなかった無能だったのだ。

喜依に「喜依には喜依のいいところがあるから気にしなくていいんだよ」と声をかけてあげられたら、妃夏に「俺がお前を守るから」とヒーローヅラして事件を解決できていたら、あの居心地のいい時間を守ることができたのだろうか。

あの時、何もできなくて何も知らなかった阿保である俺となぜかいまだに関係を続けてくれる妃夏だけでも、これから先、繋がりをなくしたくない。嫌われたくない。

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…もう一度だけアイスミルクティーの優しい香りを身体に取り込み、俺を待つ彼女の元へと急いだ。

「お待たせ、待たせてごめんな」
俺がそう言うと、愛しの彼女は
「もう!遅いよ!!
ゆーちゃん遅刻したからなんか奢ってね」
といたずらの笑みを浮かべて笑うのだった。

(画像:ぱくたそ様)

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