黒Gの悲劇#4 嘘つきは俳優の始まり

黒G「今、エナジーのボールなんて、ほんまは無いのに、みんながあるみたいにして、動かしましたね。そう、演劇というのは、そういう『ウソ』を本当のように見せるのが大事なのです!次は、『ウソつき自己紹介』というトレーニングをします!」

 子どもたちは、また変なことが始まったぞ…、という顔で聞いている。

黒G「みなさん、自分の呼ばれたいニックネームと、嫌いな食べ物を順番に教えてください。例えば、『黒ちゃんです!嫌いな食べ物は、しいたけです!』。こんな感じですね。では、どうぞ!」

 それぞれ、思い思いのニックネームと、嫌いな食べ物を言っていく。玉ネギ、グリンピース、ニンジンあたりが不人気である。一周したところで、黒Gが説明する。

黒G「では、いよいよ『ウソつき自己紹介』をしますよ。じゃあ、ロン毛さん、お願いします」

 ロン毛ことN田は先ほど、ネギが嫌いだと自己紹介をしたところである。

N田「ロン毛です。ネギが、大好きです!」

黒G「ラーメンにたくさん入れたら、美味しいですもんね」

N田「はい!大好きすぎて、ラーメンどころかアイスクリームやケーキに乗せて食べたり、コーヒーに浮かべたりしています!」

 うわぁ、不味そう…、という空気が蔓延する。

黒G「こんな風に、さっき『嫌い』と言ってた食べ物を、『大好き』ということにして、ウソの自己紹介をしてください。じゃあ、あなたから時計回りに、どうぞ!」

 当てられた子どもは、ピーマンが嫌いと言っていた女の子である。

子ども「マリンです…。ピーマンが大好きです…」

 相当恥ずかしそうに、消え入るような声で、もじもじ話しているが、顔は照れ笑い、という表情で、けっこう楽しげである。

黒G「あー、ピーマン、やっぱり生でバリバリかじるんですか?!」

子ども「…。…。はい…」

 こんな調子で、どんどん聞いていくと、だんだん調子が出てきて、ちゃんと「演技」で応える子どもも出てくる。

黒G「へえ、納豆がお好きなんですね?ちょっと、この場で食べてみてくださいよ」

子ども「はい。こんな風に、ハシでかき混ぜて、この糸引くのがいいんですよね!ズルズル。美味い!」

 満面の笑みで、美味しく食べる「演技」を見せた子どもを、笑って見ている子も入れば、拍手している子もいる。しかめっ面しているのは、おそらく自分も納豆が嫌いな子だろう。嫌〜な気持ちを喚起するとは、なかなかの演技力である。

 上手な子、苦手な子が入り混じっての「ウソつき自己紹介」が終わると、さらに「演劇を創る」プロセスに入っていくワークとなる。このあたりで、まず45分の授業が終わるチャイムが鳴り、休み時間となった。

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