大きな砂漠の小さなプレーリー・ドッグの家

 プレーリー・ドッグ!
 犬ではない。齧歯類の一種で、耳の短いウサギのようで、大きなネズミみたいで、リスみたいな!
 学術的には、地リス(ジリス)、と言うらしい。乾燥地帯やサバンナなどに棲むそうで、世界中にいるらしい。

 アフリカの東海岸にヂブチ共和国という国がある。

 エチオピアとソマリアに挟まれた小さな国で、紅海を挟んでアラビア半島が北から角を突きつけている所である。

 住んでいた基地は高台にあり、周囲は崖になっている。大きな岩が重なり、数キロ離れた谷まで石がゴロゴロしているのだ。

 その岩の上に基地があり、崖の上には金網が張り巡らされていた。

 時々、じっと遠くの地平線に沈む大きな太陽を見ていた。
 大きな大きな、線香花火の赤い玉が、地平線の向こうに落ちてゆく。そんな景色が好きだった。

 ある日の午後、気がつくと、金網のすぐ外側、大きな岩の上にウサギのような生き物が寝そべっていた。
 ジリスである。プレーリー・ドッグとも言って、砂漠からサバンナや草原地帯にすむ耳の短いウサギのような齧歯類である。

 周囲の人はジリスには関心ないようで、人は来ないであろうと知って、警戒する様子もなく寝そべっているのだ。

 大きなジリスがいて、目立っていた。そのジリスに、食堂から貰ってきたパンそ千切って、金網越しからそっと投げてやる。

 ちょっと驚いたようだったが、目が合うと、珍しがって、匂いを嗅いで、食べ始めた。

 私はその大きなジリスに「ポコ」と名前をつけて観察し始めた。

 それからは、時間がある日はパンを持って行って、千切っては投げしていた。
 集まってくるジリスの数も増えてきた。

 金網越しに私の手からパンを持ってゆく。

 私も金網を潜り抜け、岩の上に出て、ちぎったパンを直接与える。
 するとポコくんは肩にまで乗っかっているようになった。

 ある日、パンを少し多めに、ジュートの袋に入れて持って行った。

 そして岩の上に行くと、ポコ君は背を向けて岩の下に行く。
 で、すぐに顔をだす。目が合うとまた岩の下に隠れる。

 で、また顔を出す。

ーーあれ、着いて来いって言っているのかな?

 と思い、立ち上がってポコ君の方へ行くと、ポコ君は岩の下へゆく。岩の下からこちらを見ている。

 私も岩をそっと降りる。

 するとポコ君は大きな岩と岩の間に入り込む。

 私がその隙間を覗くと、人でも四つん這いになれば入れそうである。

 私は袋を引きずりながら、這って岩の隙間に入り込んだ。

 50cmほど進むと、穴の中は広い。穴の奥にもう一つの穴から外の光が差し込んで、意外に明るい。

 ポコ君は何か自慢げに、穴の中央で私を見ている。

 で、土を盛り上げ、そこに浅い穴を掘り凹ませて、別のジリスが寝そべっている。
 寝そべったジリスのお腹辺りで、小さなジリスの子供が3匹ほど寝ているのである。

 ポコ君のお家なのだ。

 ポコ君が招待してくれたのだ。

 ポコ君の背後にも2匹ほど、子供を抱えて寝そべっているジリスと、その前で立ってこちらを見ているジリスがいる。

 私は、数家族が子育て中なのだな、と思い、パンをその場に置いて帰ってきた。

 野性のウサギ?ジリス?プレーリー・ドッグ?の巣穴に潜れたことは貴重な経験であった。

 それ以後、すぐに引っ越してしまい、彼らがどうなったのかは知らない。





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