私は、時々嘘をつく

ありさ 35歳 派遣OL
洋一 28歳 会社員

4月半ば、桜も散りかけてる新宿、土曜日の夕暮れ時。

私はターミナルに停まってるマイクロバスに向かっていた。

それに乗って温泉地の旅館に行き、その宴会の席で、浴衣に着替えてお酌をするバイト。今日はそのバイトの出勤初日だ。

初日の出勤を迎える前の面接で、仕事内容を説明されたとき、こんなことも言われた。「まあ、多少、下着を見せることもあるかもしれません。ホント、チラッと肩をはだけるくらい。だから、可愛い下着を身につけてくれると助かるかな。」

もう、なんでもいいやって思ったので、黙って頷いた。

「それにしても、肌綺麗だよね。特に手と首すじ。これじゃあ、お客様、喜ぶよ。大体、男っていうのは、女の年齢を、手と首で見るからね。よかった。一つ、宜しくね」

面接の男性は、商品の品定めをするかのように私のことをチェックした。

「名前も決めようね。ユリちゃんでいいかな?」

言われるがままに頷いた。

新しい名前「ユリ」

新しい私に、生まれ変われる名前「ユリ」

この名前を大切にしようと決めた。

そして今日バイト出勤初日を迎え、ユリになりきった私。

「ユリです。今日が初めてです。よろしくお願いします。」

頭を下げて、マイクロバスに乗り込む。既に、何人かの女性がバスにいた。

みんな、会話するわけでもなく、スマホに夢中。

仲良しごっこをするわけでもない女性の集団の印象、最高に居心地がいいなって思った。

温泉地までの道のり、楽しい一人の時間になりそう。

私も、音楽を聴きながら、一人の時間を楽しむことにした。

どんどん温泉地に進んでいく町並みを見ながら、言葉にならない感情を抱え始めた。ワクワクするわけでもないけれど、悲壮感もない感情が湧き始めた。生身の感情は何処かに行き始めた。最低限の喜怒哀楽を表現するだけの「ユリ」に生まれ変わりつつあった。男性受けする、愛想がいい女性になれますように。そして、どんなことが起こっても傷つかない女性になれますように。


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