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12.水面のお月見

兄よ。
お誕生日おめでとうございます。

鳥居れなには2つ年上の兄がいる。
よーちゃんである。

彼については以前
記事に書いたことがある
【03.よーちゃん】

https://note.com/rena_torii/n/n1d7f3c132ab6

を良ければ読んでいただきたい。

母が恐ろしく抜けているせいか
よーちゃんも誠に天然であり、天然である。

今日は子供時代の話で
偉大なる天然が成し遂げた
恐ろしきお風呂場での事件を…

昔住んでいた平家のお風呂場は、
床が煉瓦色のタイルで
壁と浴槽は淡いサーモンピンクだった。
浴室照明には
まあるいカバーがくっついていて
オレンジ色のお月様みたいで好きだった。


大人1人にぴったりな深めのバスタブに
母と兄とわたし3人で、ぎゅっと収まった。

兄が先に髪と体を洗い。
そのあとに、妹。
まだ幼くて母に髪を洗ってもらっていた。

その当時、自分が何歳だったのか
わからない。
でも、1人では髪を洗えなかった頃だ。

母が洗い終わるまで、
もう一度湯船に浸かった。
兄は猿のように
浴槽の淵へ器用に腰掛けていた。

母が髪を洗うあいだ、
れなのことを見ていてね、と
よーちゃんに言ったらしい

よーちゃんはしっかりとお返事をした。

シャンプーが目に入らないように
シャワーで髪を洗い流す母。

「れなのこと見てる?」
「うん、見てるよ。」

水の音。水の音。
わたしはお月様を眺めていた。
オレンジ色のまあるいお月様。

ゆらりゆらり滲んでいく。
だんだん。
キラキラと揺らいでいるようにも見えた。

「おかあさん」

「……え?」

その後のことは、聞いた話でしかわからない
私はこの話を中学生の時に
母からカミングアウトされた。

母はその事件の日、
わたしが死んでしまうのではないかと
眠れなくて、本気で青ざめた。こわかった。
と話していた。

れなは見事に
サーモンピンクのバスタブで溺れた。
お月見しながら溺死しかけたのであった。

不思議なことに水の中から、
ゆらゆらと踊るオレンジ色のお月様を
見ていた景色だけ
その話を聞いた後に、はっと思い出した。
記憶に残っていることに驚いた。


可哀想に兄はひどく叱られたらしい、
しっかりと約束を守ったというのに。

天然兄貴よーちゃんは、
妹れながゴクゴクとお湯を飲んで
膨れていくのをじっと見ていた。
しっかりと約束通り、
れなを見ていたのだ。

「れなのこと見てる?」
「うん、見てるよ。」

ああ! 生きていてよかった。
ビバ! よーちゃん

お誕生日にこんなエピソードを書いてごめん
許してね、

ハッピーバースデイ!! 兄!!


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