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04.最後は自分だけ

今でも鮮明にあの恐ろしい情景を覚えている。

5歳当時住んでいた
ガラス戸の玄関の平家で、大人抜き
子供4人だけでお留守番をするという
わくわくな日だった。

子供4人というのも、
私、兄、ご近所に住む兄と同い年の幼なじみ2人
ふうちゃん と たつやくん、だった。

母が出て行き、いよいよ子供達だけの
どこか秘密基地のような冒険気分な空間に。
私たちは6畳の和室に布団を敷いて「かくれんぼ」や「家族ごっこ」をしたりして、
大人のいない空間で自由を満喫していた。

しばらくして、
「かくれんぼ」にも「家族ごっこ」にも飽き、
それぞれが思い思いに遊び始めていた時
突然、玄関のチャイムが鳴った。
母が帰ってくるといった時間にはまだ随分早い。

不意打ちのチャイムに、子供達はたじろいだ。
誰が玄関を見に行くか、
ジャンケンで負けた者が行くことにしよう
と話し合った。

私は心の中で「みんな私より年上のくせに」と
真剣な表情でこぶしを差し出している3人をなじった。

「最初はグーッ!ジャンケンぽんっ!」

わたし以外の3人はグー。
そしてわたしはチョキだ。

「大人げない…!」と思ったが、
ジャンケンとは残酷なほどにフェアな戦だ。
私はいい子なので。おとなしく玄関へと向かった
(昨日も兄に口げんかでひどく言い負かされたし、ここは無駄な争いを避けよう。)

玄関へと続く扉を開けて、
ガラス張りの玄関ドアを見た瞬間、
全身の血の気が引いた。

ガラス戸の向こうには
恐ろしく肌の白い小さな少女を左肩に座らせた、
頭にボルトの刺さっている大きな男のゾンビが
今にもガラスを割り侵入してこようとしていた。

私は震える膝を叩いて「隠れて!!!!!」
金切声で叫んだ。

それと同時にとうとうガラス戸は割られ
ゾンビと少女が家に入ってきた。

私は泣きながら和室へ走った。
兄とたつやくんは押し入れのなかに、
ふうちゃんは机の下に上手に隠れていた。

もう咄嗟に隠れられるのは
布団の中しか残されていなかった。

私はもう間に合わないダメだと思った。

結局、兄だろうが、年上だろうが
本当の危機に、最後の最後に
守ってくれるのは自分しかいないのだと
5歳のわたしは布団の中で知った。

目が覚めると、
汗と鼻水でぐちゃぐちゃな私の横で
心地よさそうにすやすやと兄が眠っていた。

このやろう。
意気地なしめ。

鮮明に記憶に残る夢を
あなたは見たことがありますか?

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